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第10話 初コラボ

「スタートはまだしてなくていいんだよね。このまま待機していればいいのかな?」


 パソコン画面には『ジョーンズ教授のトレジャーハンター』のゲーム画面と私しかいない。コメント表示はオフになっている。

 魔法少年マナカ・マグラ第3話のネタバレを防ぐためである。


「そろそろ時間だ」


 午後18時ジャストに電子音が鳴った。確かディスコが繋がった音だっけ。

 そして星空みはり先輩のアバターが画面内に現れた。


「あっ! きた!」

「どうも星空みはりでーす」


 黒髪の女の子が手を振る。歳は10代くらいでアニメで見るようカラフルな制服を着ている。


「初めまして。赤羽メメ・オルタです。よろしくお願いします」

「あれ? 専用の挨拶がないぞ!」

「なんです、それ?」


 聞いたことない。そんなのあった?


「『ダメダメでもバツバツでもなーい、メメでーす』だよ。意味はメメのメはダメでもバツでもないってことを説明しているやつ」

「あれ? そんなのあったんですか?」

「うん。やってみよう!」

「えー、ダメダメでもバツバツでもなーい、メメでーす。……これオルタである私がやる必要ありました?」

「うん、ないね」

「ちょっと!」

「しかも本人やってないし」

「嘘なの!」

「ごめーん」

「もう先輩!」

「緊張はほぐれたかな?」

「肩がこりました」

「ジョーンズ教授のトレハンはっじめるよー」


 無視かい。


「オルタちゃんはこれやったことある?」

「初めてです」

「なるほどねー」


 というかそちらがするなと指定したんだしょうが。


「ここは私にどーんとまかせてねー」

「よろしくお願いしまーす」

「まずはキャラを選ぶの。どれがいい?」


 探検服を着た教授おじさんと助手である女の子しかいないんだけど。


「何か違いはあるんですか?」

「おっさんと小娘」

「そうじゃなくて役割とか」

「ないない。ぶっちゃけどれを選んでもゲームに支障はないよ」

「えーと。それじゃあ、私はこの教授を選びます」

「私が助手?」

「あっ、えっ、そうじゃなくて。可愛いキャラをどうぞという意味で」

「ああ! そういうこと? 別に私が教授でもいいんだよ?」

「いえいえ先輩にそんなおっさんキャラなんて」

「おっさんだなんて可哀想だよ」

「先輩が言ったんでしょ!」

「アハハ。まあいいや。お言葉に甘えて私は女助手を選ぶよ」


 そして私はおっさんキャラを選択する。


「じゃあ、まずはアイテムの説明ね。リュックを選択するとアイテムが現れるの。やってみて」


 私はUIのリュックを押す。

 すると私が操作するキャラの頭上にアイテム欄が現れ、そこに数多くのアイテムマークが表示される。


「アイテムが表示されました」

「この紫のフラスコを飲むとHPが回復するの」

「え? なんか紫ですけど」

「ゲームの回復アイテムなんてそんな色だよ」

「さあ飲んでみて」


 そう言われて飲んでみると、


「顔がアイテムと同じ紫色になりましたよ。え!? 口から血吐いて、倒れました! 何? これ? キモい! あっ、HPゼロ。死にましたよ」


 そして画面にはデッドエンドが表示される。


「てへ。間違えちったぜ!」

「せんぱーい!」

「リスタート押してね」


  ◯


「よし、では出発だー!」

「オー!」

「このゲームって横スクロールだけでなく、途中で色々と変わるよ。3Dモードとか、あとクイズとか」


 横スクロール? 何それと聞こうとしたら、


「あ! 先輩、でかい蛇ですよ」


 ジャングルを進んでいくとでっかい蛇に遭遇した私達。


「あれはね。アイテムの殺虫スプレーで倒すの。ちょっと使ってみて」


 私はリュックから殺虫スプレーを取り出して、試しに吹いてみる。


「そうそうそんな感じ。もう少し近付かないと」


 蛇に近付いて殺虫スプレーを吹くが、なかなか届かない。


「それにしても殺虫スプレーで蛇殺すって、おかしくありません? 蛇は爬虫類ですよ」

「本当だね。たぶん製作者もどうでもいいと思ったんでしょ」


 本当かどうか分からないが、もし本当だとしたらなんて製作者だ。


「あっ! ……切れました」

「あらら」

「どうするんです?」

「切れたらおしまいだよ」

「ええ!? じゃあ、この蛇どうするんです?」

「あとはナタで倒すかな」

「ナタ!?」

「ほら手に持ってレッツゴー」


 リュックからナタを選択して、キャラに持たせる。


「うおおお! ……あれ? 手にはしたけどどうやってナタを振るんですか?」

「近付いたら自動で振るから」


 本当だ。蛇に近付くと振り回して始めた。


 しかし、蛇が大きく口を開いて私のキャラを一気に吞み込んだ。


「なんか吞み込まれたんですけど?」


 昔テレビで首から下をバールンにいれて少しずつ空気をだしてゴムが体にピッタリさせるという芸を見たことがある。

 あれと同じことが今、起こっている。ただ今回は頭を含めた全身だけど。


 ……いやいや、おかしいでしょ?


 蛇の体がふくらむならまだしも、ピッタリはおかしいでしょ?


 製作者は頭いかれてるの?


 キャラを動かそうとボタンを連打するも変化はない。


「先輩どうすれば?」

「これはもう無理だね。助からないや。消化されるのを待って」

「待つのこれ? てか、それは死ぬってこと?」

「うん」


 少しずつ小さくなっていく。


 これって蛇の中で消化されて溶かされているってことだよね。


 ……エグいよ。


「あっ!」

「どうしたんですか? 先輩?」

「私も呑まれた!」


 もう一匹の蛇が先輩を吞み込んでいた。


「ええ!?」

「消化されるのを待つしかないね」

「何これ! シュールすぎ!」


  ◯


「先輩これは……」

「うん。あの紐を掴んで向こうへ飛び移るんだよ」


 蛇の後、もう一度最初からやり直して、私達は洞窟の中へと探検を始めていた。


 そして今、大穴によって進路を絶たれた。天井からは紐がぶら下がり、そして大穴には落ちたら突き刺さるように槍が矛先を上にしていくつも置かれている。


 普通に考えて、ジャンプして紐に捕まり、向こうへ着地が正解なんだろう。


「よし私が手本を見せるから」


 先輩が飛び、紐を掴む……しかし、止まった。


「…………」

「オルタちゃん、きて!」

「なんで!?」

「オルタちゃんが飛び移ってくれたら反動で動くよ」

「ええ!?」

「お願ーい」

「ああ! もう!」


 私はジャンプして紐を掴もうとするんだが、先輩が操作する女助手の短パンを掴んでしまった。


「ぎゃー! オルタちゃんのエッチー、離してー」

「離したら死にますー」


 そもそも探検に短パンはおかしいのではと今さら思う私。


「先輩ジタバタしないで……あ!」


 私は先輩に蹴落とされ、穴に落ち、トラップの槍にぐさりと突き刺さる。


「おおおおー! 刺さった! え!? まだ死んでない? なんで? このゲームに即死はないの?」


 しかも手足を動かすことが出来る。けど、槍が脱けずにいてジタバタ状態。


「血が出てる。エグい!」


 ジタバタするたびに血が体から飛び出る。


「オルタちゃん、ごめんね。私、先行くね」

「先輩、ひどい。置いてかないでよ!」


 けどツルッと紐から手が滑り、先輩は私の上へと落ちる。


「グヘェ、刺さっちまったぜー」

「どうするんですか?」

「これは2人で死を待つかな? ……このままだったら時間がかかるので手足動かそ。そしたらすぐに死ぬよ」


 私達はすぐ死ぬためにジタバタとキャラを動かす。

 キャラは血を流し、穴に血溜まりが生まれる。


 何このアホみたいな状況は?


「あ? 私、上にいけるかも」


 どうやら先輩はジタバタすると私を踏む形となり上へと動けるではないか。もしかしたら刺さった槍が抜けるかもしれない。


「よし! いける! いけるぞ!」


 しかし、私が死ぬと足場となっていた私が消えたので先輩は下へと滑り、槍から抜けられなくなる。


「あ、死んだわこれ」


  ◯


「これ何かな?」


 先輩がどでかい人の顔した円型の岩を見て言う。


「それは口に手を入れるやつでは?」


 イタリアの真実の口というやつだったはず。

 口の中に手を入れて、嘘をついたら手が抜けないみたいな。


「大変オルタちゃん! 頭が挟まった!」

「なんで頭を入れるの? 手って言いましたよね!」


 先輩が操作する女助手が頭を真実の口に突っ込んだ状態で足をばたつかせています。


「いや、何かあるかなって?」

「てか、よく頭が入りましたね」

「ゲームだからね」

「アバウトっすよ」

「とりあへず引っ張って」

「分かりました」


 私は女助手の腰を掴んで引っ張る。


「思いっきり引っ張って!」

「はーい!」


 すると頭が抜けて、反動で私は地面に倒れます。


「これでだいじょ………ええ!?」


 な、な、なんと、抜けてなかったのだ。

 首から上がない!


「ぴえーん。大変だよー」


 先輩こと女助手は首から血を上へと噴射している。


「こえーよ!」

「ふへぇーん。ジャ◯おじさん! 新しい顔作って!」


 先輩が可愛げな声を出して助けを求める。


「ジャ◯おじさんじゃないし。顔なんて作れるか!」


 てか、なんで生きてんの?

 一応ダメージを受けてるってことでHPは減ってるけど。


「なんでこのゲームには即死がないの?」

「プレイヤーに優しくした結果じゃない?」

「優しいのこれが!?」


 死ぬのを待つって優しいの?

 逆じゃね?


「あ! もう一回ぶっ刺せばいいんじゃない! オルタちゃん、私の体を持って穴にブッ刺して!」

「無理でしょ?」

「大丈夫。これはゲームだもん」

「……分かりました」


 一応やってみることにする。

 死んでないってことだし……いけるのかな?


 私は先輩の体を両腕でがっしり掴んで、一気に穴へと差し込む。


「見てオルタちゃん。HPバーの減りが収まったよ! よし、このままゆっくり抜いて」

「ラジャーっす」


 私はゆっくりと先輩を穴から抜く。

 そして頭がすぽんと抜けた。


「成功」

「はい、成功……じゃない!」

「え!?」

「前後が反対になってる!?」

「あ、ほんとだ」


 頭の前後と体の前後が反対。


「まあ、死ぬわけでもないし。このまま行こっか」

「ええ!?」


 体を後ろ向きにして、先輩は奥へと進む。


  ◯


 右手にある坂道を上っていると前を歩く先輩が何かを踏んだらしくポチッという音が聞こえた。


「あ、ごめん」


 女助手キャラの右足を乗せている地面が凹んでいる。


「これって……」


 トラップを踏んだってことだよね?


 なんかゴロゴロと音が近づいてくるんだけど。


『…………』


 そして坂の上から大玉が転がってきました。


『ギャアァァァ!』


 やっぱり典型的なやつきた!

 私達は急いで来た道を駆け下ります。


「いったいー!」


 先輩が転んじゃいました。


「早く起きて!」

「うん。ごめんね。やっぱ頭と体の向きが違うと動きづらい」

「今更そんなことを言っても遅いですよ!」


 そして私達はあの底に槍のトラップのある大穴まで戻りました。


「オルタちゃん、穴を飛び越えて。きっと大玉は穴に落ちて、それで助かるよ」

「はい!」


 先を走る私がジャンプして天井からの紐にぶら下がり、振り子のように動いて、前へ飛びます。


「先輩! 次!」

「駄目! 私は無理! ぴぎゃ!」


 間に合わず、先輩は大玉に潰されてしまいました。


「せんぱーい!」


 そして大玉は穴の手前でバウンドしてこっちへ飛んで来ました。


「ええ!? なんでやねーん」


 普段使わない関西弁で私は叫んだ。

 余談ですが関西人も普段は『なんでやねん』という言葉は使わないらしいとか。


「ウギャア!」


 そして私こと教授キャラは大玉に踏み潰されました。


 で、でも、このゲームは即死にはなら──リスタート文字が画面中央に現れた。


「なんでこれは即死なんだよ!」


  ◯


 また私達は死んでスタート地点に戻ってきた。


「今日中に攻略できますかね?」

「大丈夫よ。ほらこれを見て」


 先輩が地図らしきものを見せる。というか地図だ。


「……先輩、それなんすか?」


 分かっていても私は聞いた。


「地図だよ。ここにはね今まで通った場所やトラップとかも書いてあるの」

「え、ちょ、ちょっと待て下さい」

「何?」


 地図には色々と書き込まれている。


「先輩は……初めてではないと」

「そうだよ」


 何を当然なことをと先輩は言う。


「攻略したことがあると」

「うん」

「…………なんじゃそりゃあ!」


 私は絶叫した。


「ひゃ、急に大声やめて」

「あ、すみません。でも、知ってるならあんな凡ミスを……」

「いやいや、だいぶ前にプレイしたから覚えてないよ」

「でも地図は最初っから見とけばいいじゃん」

「アハ、本当だね」

「せんぱーい!」


  ◯


「どう慣れた?」


 ふと先輩が尋ねてきた。


「まあ、慣れましたね。このままガンガン進みましょう」

「そっちじゃなくて」

「?」

「ええとVtuberに慣れたのかなってこと」

「ああ! いえ、そっちはまだ」

「そりゃあそっか。一ヶ月も経ってないもんね」

「はい。配信もコラボも今日が初めてですよ」

「事故を合わせたら配信は二回目だよ」

「あれはノーカンでお願いします」

「アハ。分からないことがあったらいつでも聞いてよ」


  ◯


「先輩! やっと宝箱ですよ」


 なぜか洞窟の上に池があって、その中央に小島がある。そしてそこに柵に覆われた宝箱がある。


「なんとか時間以内に終わりそうですね」

「待ってオルタちゃん!」


 私が池に近付くと先輩止められました。


「柵があるね。……あ、あのレバーだよ。おのレバーを上げると柵が消えるんだよ」

「あ、ありますね。やってみます?」

「私がレバーを上げるよ」


 先輩がレバーを上げると柵は地面へと消えた。


 よし! あれ?


 レバーが戻り、柵が復活した。


「もう一回レバーを上げるね」


 けれどレバーを上げるとまたすぐにレバー下がる。


「ふむふむ、なるほど。レバーを上げ続けてないと駄目みたいね。私がレバーを掴んで上げてるからオルタちゃんは宝箱を開けに行って」

「分かりました!」


 私は教授キャラを動かして池に足を入れます。そのまま進んでいくと足が沈んでいきました。


「あれ? 深い? なんか沈んで……」

「駄目だよ。オルタちゃん。そこはアイテムの小舟を使わないと」

「そうなんですか? ちょっともど……れない!?」


 しかも足がどんどん沈んでいきます。


「な、な、なんで?」

「そこは池じゃなくて沼なんだよ!」

「ええ!? こんなに透き通っているのに沼なの? 沼って茶色いでしょ?」

「ゲームだから」

「それ言えば済むって思ってません?」

「文句は製作者に」

「そうですね」

「私が助けに行くから待ってて」

「お願いします」


 先輩はリュックから小舟を取り出しました。


 ……小舟でかくね? てか、どうやってリュックに入ってたの?


 まあ、いいか。


 先輩は小舟に乗って、オールを使って船を漕ぎます。


「もう少しだからね」

「はい」

「きゃあ!」


 先輩の小舟が転覆しました。

 そしてその小舟が反転して私の体を覆いました。


「助けオルタちゃん」


 どうやら先輩も沼に足を取られ、動けなくなりました。


「無理です。小舟が私の上半身を覆い被さっているので動けません。先輩、小舟をどうにしてください」

「そ、そうだね。なんとか……魚だ!」

「え? あ、そうですね」


 小さい魚が近付いてきました。


「大変だよ」


 なんで小魚でそんなに焦っているんだろう?


 その理由はすぐに分かりました。


 なんと小魚が先輩が操る女助手を食べ始めたのです。


「ぎゃあ! 食われる!」


 バクバクと食われ、池の中は血で滲みます。


「この魚、ピラニアなの? ピラニアって牙剥き出しで獰猛なのでは?」

「オルタちゃん、それってテレビの演出らしいよ。実際のピラニアって牙を剥き出しにしてないんだよ」

「今はそんなの蘊蓄うんちくどうでもいいですよ! あ、私のとこにもピラニアが! 来ないで! 来ないで! ギャアァァァ!」


  ◯


 私達はその後、何度もリスタートして、十何巡目かしてやっとクリアした。


 疲れた。


「今日は楽しかったよ。ステージ2があるけど、ちょうど時間だし今日はこれでおしまいだね」


 先輩は心底楽しかったという声で言う。


「こちらも楽しかったです」

「またコラボしようね」

「……はい」

「今ちょっと間がなかった?」

「ないです。全然。まじで」

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