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第54話 説得

 私はこの前の配信でブチギレてしまって今日はそのことでペイベックス本社に呼ばれてしまった。


「すみません」


 とある小会議室にて私は福原さんに先日の配信の件を謝罪した。


「以後お気をつけてください」

「はい」


 福原さんは一息つき、


「でも、ま、悪い気分ではありませんね」

「なら──」

「だからって、あれは駄目ですから」


 ぴしゃりと注意を受けた。


「はい。本当にすみませんでした」


 私は深く謝罪する。


「擁護してくれるファンに感謝するように」

「はい」


  ◯


 注意だけでお咎めはなかった。


 福原さんと別れて、私はほっとして廊下を進む。


 本社に呼ばれるのだから何かお咎めがあるのではとびくびくしていたのだ。


 最低でも始末書の一つは書かなくてはいけないのかと思っていた。


 しかし、何もなかった。


(それならどうしてわざわざ呼んだのだろう?)


 社会人としてのルールというやつなのだろうか。


 学生の私としてはそこらへんはよくわからない。


 と、その時だ。エレベーターへ向かっている最中で私は小会議室から出てきた人と鉢合わせた。


『あ!』


 お互いまさかここで会うとは思わず驚いた。


「鈴音さん。こ、こんにちは」

「千鶴さん、どうして──」


 続きの言葉は後から小会議室から現れた人物の声で遮られた。


「待ってくださ……ん?」


 現れた人物はかなりの美人だった。


(うわっ、モデル! それにすごいスタイル!)


 顔も良い、スラリとして背も高い。


 そしてその人は私を見て、目を細める。

 私は萎縮して、小さくお辞儀する。そしてその場を去ろうとした時、


「待って! 貴女、オルタよね?」

「はい」


 私のことを知ってるということはペーメンかな?


「私、彼女の……明日空ルナのマネージャー。鮫島睦美」

「どうも」


 VTuberでもモデルでもなくマネージャーだった。


「貴女からも説得してちょうだい」

「説得?」

「彼女、VTuberを辞めるそうなのよ」

「え!? どうして!?」


 私は鈴音さんに顔を向ける。

 鈴音さんは申し訳ない顔をして俯く。


「とりあえず、こんなとこで話すのも周りの迷惑だから。ほらこっちに入って。貴女もね」

「私も?」

「当たり前」


 鮫島さんは鈴音さんの手を引っ張って小会議室に戻り、私は鮫島さんに手招きされ小会議室に入った。


「これ以上は迷惑をおかけできません。これは良い機会だと思います」


 まず鈴音さんが謝罪の言葉を述べる。


「迷惑って、鈴音さんや夏希さんは何か悪いことしたんですか?」

「そうよ」

「リスナーを騙してたのは悪いことです」

「でもそれは仕方ないというか……なんというか」

「はっきり言いなさいよ!」


 私は鮫島さんに睨め付けられた。


「ええと、ええと、つまりですね、私達はもともとガワを被ってるわけですよね。なら中がどうあれ自由のはずです。でも鈴音さん達はリスナーを傷つけないために嘘をついたわけでしょ? それは悪いことですか?」

「よく言った。宮下千鶴! だから鈴音さんも辞めるなんて言わないでください」

「しかしファンやリスナーは怒ってます。それを無視することなんて駄目です」


 鈴音さんは首を横に振る。


 確かにチャンネル登録者は減っている。そして炎上もしている。これを無視してVTuberを続けるのは苦しいかもしれない。


「これ以上ファンを傷つけるわけにはいけません」

「……」


 鮫島さんは私にもっと何か言えとアイコンタクトを送る。


(この人、美人だけどどこか怖いな)


「あの、ファンやリスナーの意見も大事ですけど。鈴音さんはどうなんですか?」

「私?」

「はい。鈴音さんはVTuberはしたくないですか? 嫌いになったんですか?」

「それは……したい。VTuber好きだから。したい」


 小さく、それでも切実に鈴音さんは言葉を漏らす。


 したいというのは本音なのだろう。


 それならそこを攻めよう。


「なら、やりましょうよ。私達はファンやリスナーだけでなく、自分という意志がちゃんとあるですから。ファンが離れたからってなんですか。嫌われたからってなんですか。やりましょうよ」

「で、でも……」

「チャンネル登録者は減らしたが、減っただけで残ってる人もいますよね? 応援してくれる人もいますよね」

「う、うん」

「そのファンのために頑張りましょうよ」

「いいのかな?」

「いいです!」


 私は鈴音さんの両手を握る。


「そうよ!」


 鮫島さんもうんうんと頷いている。


「で、でも、夏希だって、もうやる気はないらしいし。それに上だって」

「上司は私がなんとかします」


 鮫島さんが胸に手を当てて言う。

 出来るのだろうか。

 でもこの人ならなんとかしそうな気もする。


「あとは夏希さんを説得できれば」

「それも私に策があります」


 これまた鮫島さんが自信ありげに答える。

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