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2ページ目:小粒!英雄の凱旋

 怖い。

 ここは、俺の知ってる森じゃない。


 だっていつもなら――、

『よおデン、そっちに面白そうなのあったか?』


『虹色かさの珍キノコ!これはレア素材じゃない? 

 さっそく⋯ヒョンキチに食べさせたげるぅっ』


『ふごッ!?これはあ⋯⋯身体中の魔力が活性化してぇ⋯! 

 ――ッ!

 トイレ行ってくるぅぅぅぅぅぅ!』


『なるほど。生食は危険なんだ』


 ――なんて素材や食材集めなんかを楽しむ、村はずれのあの明るい森の顔がどこにもないんだ。

 悔しい。

 横でヒョンキチが「あのクソ野郎ッ、オレらのテリトリーを荒らしやがって!」と同じ気持ちを声にしてるほどに。


 どこの誰か知らないけど、突然現れて、草原までメチャクチャにして⋯。


 許さない⋯。


「ここまで来れば。少年ら、いったんここで息を整えさせてくれ」


 と、俺がガタガタと体を上下に揺さぶられながらも、瞬間で過ぎていく視界のありさまに怒りを感じていると。

 背中のほうから、声が聞こえた。


 マオちゃんだ。


 ずっと走り続けてたマオちゃんは一本の木にもたれかかかると、俺とヒョンキチの後ろ首からゆっくりと手を離す。


 俺は自分の足で地面に立ってもう一度周りをよく見る。

 

 こもれびに輝いてた茂みは色を無くし、子守唄のように優しかった木々のささやきは鼓動を駆り立てるざわめきに、


 おまけに背後の草原の方からは、ちゅどーーーーんっと雷が止まずに降りしきる音が聞こえる。

 さっきは“許さない”なんて言ったけど、冷静に状況を把握する今、思う。


 ――聖飢魔II?何これ、世紀末ぅ――ッ!?


「大樹に囲まれたここなら、かの者の雷も届かぬじゃろう⋯しかし次の手を早急に出さねば。この森を焼き尽くすなど容易いはずだ。


 かの者の力が、伝承通りならば」


「かの者、それって⋯?」


「ねえマオちゃん、あの男はいったい何者なの?」


 魔王のマオちゃんがそこまで警戒する相手だ。

 とゆーことは、この世界の頂点の魔王様より上位の存在⋯?

 そんなの神様くらいしか思い浮かばないけど、あいにくあの男の顔つきはワルモノのそれだった。


 そんな俺の疑問に、マオちゃんは激しく眉間にシワを寄せると、マブタを強く閉じて答える。


「うむ⋯⋯。“天魔の王”、といえばわかるかの」


「「天魔!?」」俺とヒョンキチの声は重なる。


「そ、そんな、それって物語の中の存在じゃ⋯!」


「驚くのも無理はない、わたしもつい先ほどまで存在を疑っていたほど。


 しかしかの者が“天魔の王”なのじゃ。

 なぜなら――」


 と、マオちゃんが目を開き、まっすぐな瞳で俺たちを見つめて何かを口にしかけると同時、


『――この“天魔の王”から逃れられると思うなよ女ァァ――!』


 大樹の上、上空からバカでかい声が轟々と森の木々を揺さぶった。

 マオちゃんは深刻そうな顔つきで頷く。


「のう⋯?かの者が、“天魔の王”なのじゃ」


「「そうみたいだね」」


 俺とヒョンキチはずっこける思いで頷いた。

 それはあの男の言い分を信じるなら、の話だから。

 どうやら今代魔王は素直というか、少し天然さんらしい。


 それかもしくは何か、他にもそれを確信するだけの根拠があるのか。


 しかしどうやら、そこにつっこむ時間さえも残されてはないらしい。


『いいか、寛大な俺様がチャンスをくれてやろう。

 一分だ。

 その間に姿を現さねば』


 ――どうなるかはわかるな――。


 マオちゃんが上を見て歯を食いしばる。

 ぎりりり、と焦燥感をかりたてるような音が鳴る。

 それから、俺とヒョンキチの肩に手を回すと、俺たちふたりをギュッと抱き寄せてささやく。


 それは、雫のようにもろく、優しい声。


「デン、ヒョンキチ、ここにいるのじゃ。

 元よりわたしが蒔いた種。

 少年らが巻き添えになる理由はない。


 怖い思いをさせて、子供に、すまなかった」


 マオちゃんは俺たちをそっと突き放す。

 そして森の入り口に向かって足を踏みだ⋯⋯そうとしたけど、ふるえるその手を、ヒョンキチががっしりと掴んだ。


「待った!まったマオちゃん! 理由はよくわかんねえけど、アイツに狙われてんだよな!?」


「うむ⋯そうだ」


「そんでマオちゃんが隠れたままだと森に被害が及ぶけど、姿を現したところでマオちゃんが助かるわけじゃねえんだろ!?


 それなら、んーならオレも連れてってくれや!」


「な、何を言い出しておるのじゃ!?」


 動揺して目をかっぴらくマオちゃんの正面で、ヒョンキチは横の俺に視線を向ける。


 俺は無言で頷いた。


 アイツ――天魔の王の要求に応えつつ、マオちゃんを魔の手から救う方法。

 そんなの普通の人なら、一年前の俺たちだったらなす術もなかったろう。

 

 だけど、今のヒョンキチなら、ヒョンキチのスキル(・・・)なら⋯⋯⋯一か八かに賭けてみるだけの価値はある!


 それに冒険を決めた時から、いや、その前から決めてたもんなヒョンキチ。


「んなもん聞くなよマオちゃん、理由はひとつだぜ。“目の前でつまんねぇ顔してる女くれえ――”」


 たとえ、世界中の人を守り抜く、ヒーローにはなれなかったとしても、


「――“全力で笑わしちゃええっ!”ってなあデン!」


「うん! マオちゃん、時間がないから説明ははぶくけど、今はヒョンキチを信じて欲しい!」


「じゃ、じゃがしかし」


「じゃがもイモも言ってる暇はねえだろ!?俺たちを信じて、行こうぜマオちゃん!」


 タイムリミットまで、多分もう10秒前後。

 マオちゃんはもう一度強くマブタを閉じると、意を決した顔で俺とヒョンキチの後ろ首をつかむ。


「わかったのじゃ⋯。

 行くぞ、頼むぞヒョンキチ、デン!」


「「おっけーーーーーっ!」」


「うむ⋯⋯全力ダッシュじゃぁぁぁぁぁあ!」


「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」」


 視界もろくにとれない暗闇の道を、マオちゃんは疾風のように走る。

 俺とヒョンキチの体を、まるで長すぎたマフラーの裾のように宙ぶらりんにがたがたと揺らしながら。


 数秒後、俺たちは荒れ果てた、草原だった場所に立っていた。

 少し離れた背後には鬱蒼と立ち並ぶ大樹の森。

 冷たいひとつの視線が高みから見くだすなか、マオちゃんは両脇に俺たちを抱えなおす。


『⋯⋯思いのほか根性はあるようだな女ァ』


 マオちゃんの姿を確認するなり、半裸の男、天魔の王らしい男が天に手をかかげる。

 黒い空に、男の引きずるような金髪がキラリと光る。

 そしてその細く引き締められた腕が振り下ろされる⋯⋯寸前、ヒョンキチがまた声を荒げる。


「待った!まったまったまったあ!

 なあおにーさん、マオちゃんが⋯アンタが狙う女が姿を現したんだから、森には手を加えないんだよな?」


『ん⋯? ああ、小粒で目に入らなかったがガキがいたのか。

 ああ、そうだ小僧、俺様は寛大だ。森には手をつけずにいてやろう』


 ガキと小僧呼ばわりにカチンと来たのか、ヒョンキチは売り言葉に買い言葉で悪態をつく。


「よっしゃぁぁあ!言質はとったぞクソ細マッチョがよこらぁッ!“天魔の王”なんざ名乗るなら約束を違えるようなマネはすんじゃねぇぞこらぁっ!」


 いや、気持ちはわかるけど必要以上に挑発すんなよバカ⋯⋯。  


「あとぉぉぉぉ、――誰が小粒じゃぁあ!この物干し竿がぁぁぁぁぁあッ!」


 あっ、そっちに怒ってたのか。

 まあ俺ら、平均身長が8歳児男子のそれらしいから。

 俺もカチンと来てたけども。


 だけどマオちゃんなんて、口をポカンとあんぐりしてるぞ。

 俺の顔の斜め上で。

 そう。一連のやり取りはすべて、マオちゃんのワキに抱えられたまま行われているのだ。


『ク、クソ細マッチョだァ⋯?』天魔の王はショックを受けた表情で自分の二の腕を見る。


『⋯⋯生意気な小虫が、キサマの身を守る約束はしとらんぞォオオオオオオ――ッ!』


「――ッ!」


 ブチギレた天魔の王が、その腕を振り下ろしながら「【天魔の火】」と唱えると、まるで火山が噴火したような炎が俺たちの足元から噴き出した。


 が、ここまでは予定通りだ。

 ヒョンキチが挑発してアイツがそれにノッてきたら、その瞬間マオちゃんはダッシュで下がる。


「「――走って!マオちゃん!」」


 そしてここからは、ノンストップで逃げるのみ。


『そう何度も逃すか小虫がァァァ!』


 怒り沸騰の【天魔の火】が俺たちに追従するように地中から火柱を次々とあげる。

 マオちゃんはよける。ヒョンキチが指示を出す。


 右に左にと、あえて遠回りをしながら、ひたすらにその二本の足を回し続ける。

 そして、狙いをさとられないように、偶然そこに追い込まれたようにしながら、森との距離をゆっくりと確実に縮めていく。


 五本目のそれが天に向かって遡り、その熱が俺たちの背中に切迫したその時、ヒョンキチはもう一度挑発するように声を荒げる。


『おいこら天魔の細腕ッ! 約束はちゃんと最後まで守れよこのやろー!

 んじゃ、



 またなッ!」――“透明化”、とヒョンキチは男にさとられないように小声でスキルの名前をつぶやく。


 火柱がなりをひそめると、今度は男が声を荒げる。


『――何ィ!? 女ごと、消え去っただとォ!?ウガアッ、何をした小虫ィ、クォォォォォどこに姿をくらませたァァァァァァ!』



 その問いに答える人はもちろんいない。

 俺たちは予定通り、一切の動きを封じて、息の音ひとつもらさないようその場で静止する。


 俺とヒョンキチは片手で自分の口を、伸ばしたもう片方の手をマオちゃんの口に重ねてフタする。

 マオちゃんは俺たちを抱えて仁王立つ。


 透明化――、それはヒョンキチの持つスキル。

 文字通り肉体を透明にする便利な特殊能力だ。


 ただし欠点もふたつある。

 ひとつは足音や、たとえば移動によって巻き起こる砂埃なんかを透明化することはできないこと。


 そしてもうひとつが――。


(頼む、頼むよ“天魔の王”⋯!広範囲型攻撃魔法とか、やめてね発動しないでねっ!? 約束は、守ってくれるんだよねーーーーーーーッ!?)


 との俺の心の叫びが示すとおり、いくら姿を透明化しても攻撃魔法が直撃すれば一巻の終わり。


 これが結界魔法や普通のドアなんかだとすり抜けられるんだけど、攻撃魔法を回避することはなぜかできないんだ。


 そう。この作戦において唯一の運要素で、最重要なキーを敵に握られているところが、俺とヒョンキチの知恵の浅さをあらわしてる、と自分でも思う。

 

 まあ、10歳にしては上出来だろうとも自分で思うところではある。


 そしてそんな雑念を浮かべながらも祈ること数十秒。

 投げた賽は吉の目を転がした。


『まあいい、次に女が魔法を発動したその時こそが、天魔の王の恐怖を味わう時となるだろう⋯!』


 ――アッハッハッハ!


 と高笑いをあげた男は、指先ですっと空間を裂くと、その裂け目に翼をはためかせて消えていった。

 終わりの時はあっけなく過ぎる。


 ――だけどこれで一難去ったか。俺はヒタイの汗を腕でぬぐう。


 そして平穏を取り戻した今思う。

 ⋯⋯あれって恥ずかしくないのかな、と。

 どうでもいいけどあの、誰もいない場所に向かって派手に口上を切る悪役のあれって恥ずかしくはないのかな、と。

 

 物語以外、現実で見るのは初めてだったけど、見てるこっちの顔が熱くなっちゃったよ。

 もちろん興奮ではなく。羞恥の意味で。


「⋯⋯ま、まさか本当にうまく行くとは⋯!

 いや、お主らを信じていなかったわけではないのじゃよヒョンキチ、デン!


 しかし、こうも無傷であの場を切り抜けられるとは考えもせんかったのじゃよ、なにせ――」


 気の抜けた俺がどーしようもない思考にさらされていると、安心した様子のマオちゃんが俺たちを地面におろして、ひとりでわちゃわちゃと騒ぎはじめた。


 けども、気持ちは同じだけど、それに付き合えるだけの元気はない。


 だって、もう。



「「⋯⋯――ふあああああ、あ!こわかったぁぁぁあーーーーー」」



 俺とヒョンキチは背中合わせで地面に座りこむと、またまた声を重ねて息を吐く。

 俺は言う。


「にしてもさ、普通あの状況であっこまで挑発するかヒョンキチおまえ?まじでバカじゃないのこいつぅっ!って思ったよ俺わ」


「いやいやいや、大活躍したオレ様とおんなじような顔して汗流してるけどよぉデンくん、キミは今回なんの役にも立ってねぇからな?


 始まりから終わりまで、あなたの立ち位置は“マオちゃんのワキのお荷物”でしたからぁ――ッ!」


 ぎゃははははっ!と腹を抱えて咳きこむほどに笑うヒョンキチの頭を、俺は後ろからパーで殴る。

 こいつ、人がひっそりと気にしてることを――!まったく、ずけずけと言いやがって。


 でもまっ、この窮地を乗り越えられたのはまぎれもなくヒョンキチのスキルのおかげだからね。

 今日のところは一発で許しといてやろっと。


「お、おい少年ら?喧嘩はその、よくないのじゃぞ?」


「あーマオちゃん気にしないで、いつものことだから」


「そーそー、デンはすぐに俺の頭をたたく」


 そう言って、“ぷははっ”、と何が面白いのか笑い声をもらすヒョンキチ。

 それを見てキョトンとしたあとマオちゃんも「⋯そうか」といって、口元をおさえて笑う。


 “あははっ”っと。


 俺もなんだがおかしくなってきちゃったよ。


 ――暗雲がさった、あったかいお日様の日差しに照らされた草原地帯の真ん中で、俺たちは3人で思う存分息をそろえて笑う。


 マオちゃんとは今日出会ったばっかだけど、なんだかずーっと前から一緒に冒険してきた仲間のようだなあ。


 と、


「⋯⋯冒険、かあ。そういえば俺たち、ついさっき村を出たばっかだったような」


「それだぜデン!それそれ。 俺ももうなんかよ、自分が歴戦の冒険者だった気がしてきたぜ」


「歴戦、かはともかく、わたしたちがいっかいの者では得がたい経験をしたのは確かじゃろうな。

 なにせあの“天魔の王”と正面からあいまみえ、無事生き延びたのじゃから」


 マオちゃんが神妙な口ぶりでいう。

 そっか、確かに俺たちはお伽噺の中の存在とまがりなりにも戦ったんだよなあ。

 

 アレが本当に本物の“天魔”なのか。

 もしそうなら、どうして今になって姿を現したのか。

 そして、マオちゃんは何があってそんな存在に追い回されてたのか。


 気になることは山ほどある、けどとりあえず。


「ねえマオちゃん、うちの村に来ない?俺もう疲れた」


「オレもだ疲れたや。 いっかいウチに帰ろうぜ」


「う、うむ⋯。そうだな。わたしも正直精魂尽き果てるほどに疲れたのじゃ。ここはお言葉に甘えたい」


 マオちゃんの同意を得て、ヒョンキチがもっそりと立ち上がると、俺らふたりもそれに続く。

 そうと決まれば帰路に着くわけだ。けど、誰も喋りたがらない。

 

 それほどまでに、俺たちはもうへとへとになってたんだ。


 下を向きたがる首を無理やりあげて、ちらっ、と俺はおてんとうさまを見る。

 村を出た時と同じ位置で、らんらんと輝いてる。



 ⋯⋯ああ、まさか冒険を初めて十数分で帰宅することになるとは。



 村のみんなに、なんていおっかなあ⋯。

 


 だけどまあ、物語のような英雄の凱旋とまではいかないけど。


 まっ時間のわりには、濃密すぎるほどの“冒険”ができたんじゃないかなっ。




 笑った、面白い、続きが気になる、とちょっとでも思っていただけたら、下部の⭐︎評価から高評価お願いします!

 活力になります。

 というよりはもらえた事がないので、活力をいただいてみたいです。


 どうぞ、宜しくお願い致します。


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