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新作です。今日後二回ほど投稿を考えています。
『ねえ、圭一。私、先輩と付き合うことにした』
『…………は? 嘘だろ』
『嘘じゃないよ。何かおかしい?』
『何って……おかしいことだらけだろ。なんであいつなんだよ、噂は知ってんだろ? だいたい、急すぎるし……』
『そんなの、圭一が口出すことじゃないでしょ。圭一って、いっつも悪口ばっか。先輩は私のこと、可愛いなってちゃんと言ってくれるよ。君のことが好きだって言ってくれる。色々なこと知ってて、頼りになるし、引っ張っていってくれる。この人といたらきっと楽しいことが一杯あるって思わせてくれる』
『だから、もう今までみたいには出来ない』
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――――信じられないかもしれないけどねぇ。あんたはこれから、運命の人に出会うよ。
飲み屋街の一角、路地裏にいた占い師にそう言われた。
「……あー、飲み過ぎた……さみぃ……」
手を擦り合わせる。
それらしいことを言っているだけなのはわかっていた。
なのにその言葉が頭から離れないのは、きっと単純に疲れているからだ。
三十二歳。
疲れ切った週末につい何件も飲み歩き、おぼつかない足で血迷った先の占い師も、金をスっただけで終わった。
普段はここまで飲んだりしないのだが、仕事で理不尽な仕打ちを受けてつい、自棄になってしまった。
ぼんやりとした頭の片隅で終電のことを考えながら、ふと口から白い息と共に言葉が零れる。
「運命の人、運命……ふざけんな。こっちは十六年前から、そんなの存在しないって知ってんだよ……」
頭の中に浮かび上がるのは一人の女の子の姿。長い年月の中で薄れた記憶と、理想がミックスされた少女がこちらを向いていた。その顔は、霧がかかったようにぼやけている。
「――! ………っ!」
「……何か、聞こえるな」
その時、どこかから聞こえて来た声に現実に引き戻される。
「この寒いのに、よくやるねぇ……」
時は既に夜更け。流石に静まりつつあった飲み屋街の片隅から、言い争うような声が聞こえた。
普段から面倒ごとには関わらないようにしていたが、すっかり酔いが回っていた俺は、好奇心のままにフラフラと声のする方に引き寄せられていった。
「……だから、離してって!」
「なんだよぉ! いいじゃねぇか!」
見れば、そこに居たのは酔っぱらった男たちと、カーディガンの下に制服を来た女の子。……高校生? こんな時間に? いや、今は問題はそこじゃない。
どうやらナンパのようだが、酔った男たちは歯止めが効いていないようだ。
壁際に追い詰められた女の子に、今にも手を掛けようとしている。
「…………」
普段なら馬鹿な奴らだ、と吐き捨てて見なかったフリをしているところだ。自分から面倒事に首を突っ込むなんて意味の無いことだ。
でも、占い師に言われた言葉が頭に残っていた。
運命の人。記憶の中の、高校の制服に身を包んだ少女の姿。
ぼんやりしていた頭が、急にはっきりした気がした。
「――――おい、やめろよ、嫌がってんだろうが」
急に掛けられた第三者からの声に、男たちの動きが止まる。
「あぁ? ……なんだお前?」
「……っ!」
こちらに振り返った男たちの胡乱げな顔、少女の助けを求めるような視線が突き刺さった。
うわっ。
急激に酔いが醒めた。
「いやぁ、だって明らかに無理矢理じゃないっすか……」
「だから?」
「ええと、そうっすね……」
やべ。開き直った酔っ払い達の目が座りすぎてて怖い。
声が尻すぼみになっているのが自分でも分かった。
あー、緊張で頭も働かん。これ以上良い案も思いつかねぇ。
「あ! 警察!」
言った瞬間、酔っ払い達がバッと俺の指さした背後を振り返る。
当然そこには誰もいない。
酔っ払い達が騙されたと気付くまでの僅かな猶予を使い、俺は少女の手を引いて走り出した。