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9.まずは内部の構造から把握しましょう

『鳥たちは、いつもこんな場所からわたくしたちを眺めているのね……』


 それは人には見ることが出来ないはずの風景。

 見渡す限り、この近辺でお城よりも高い建物は存在しないのに。わたくしは今、そこよりもさらに高い場所からお城を見下ろしているなんて。


『まるで、物語の世界のようね』


 物語の中では、素敵な王子様やお姫様が恋をしていたり。悪い魔法使いと善い魔法使いが戦っていたり。

 そんな様々な人間模様が繰り広げられる舞台になるのが、この場所だけれど。


『魔法なんて、この世界には存在しないもの』


 だからこそ、夢物語。

 現実の王子様とお姫様の恋物語なんて、ほとんどが政略的なものばかりだから。そこに愛が芽生えるかどうかは、また別問題……。


『あら?そういえばわたくし、いったいどこでそんなお話を読んだのかしら?』


 そもそも自分の名前すら思い出せないのに、どうしてそういうどうでもいいことばかり出てくるのかしら?

 せっかくならもっと有意義なことを思い出せたらいいのに。


『なんて、嘆いていても仕方ありませんものね。とりあえず、まずは内部の構造から把握しましょう』


 リヒト様のお役に立てるように。

 わたくしが幽霊としてここにいる理由が見つかるように。


『どこから入るのが一番いいのかしら?上から?下から?』


 下からだと、人が大勢いるでしょうし。けれど上からだと、明らかにリヒト様のご家族の方ばかりでしょうし。

 そうなると……。


『あえて裏から入ってみましょうかしら』


 そこから上に向かっていって、少しずつ覚えていくのがいいのでしょうね。リヒト様の執務室も、比較的上の方にありましたし。

 夕方までに戻るように言われていますもの。遅くならないうちに帰った方が、リヒト様に余計な心配をおかけしないで済むでしょうし。


『そうと決まれば、行動あるのみ!ですわ!』


 とりあえずまずは、壁をすり抜けないで回ってみましょうかしら。最初から壁を無視すると、本当に迷子になってしまいそうですし。

 それにリヒト様が仰った通り、わたくしの場合迷子になっても誰も探しに来てはもらえないでしょうから。

 そもそもリヒト様にしか見えない存在である以上、迷子になった場合は王子様であるリヒト様に直接探してもらわなければいけなくなります。

 一国の王子のお手を煩わせるなど、していいはずがありませんものね。


『白い大理石に赤い絨毯、ですか。いかにも、ですわねぇ』


 考え事をしながらも、少しずつ頭の中に地図を描いていくしかないのです。

 それにしても本当に、物語に出てくるお城そのままのような気がしますわ。それとも物語の方が、本物を模して書かれていたのか。


『そこに現れる幽霊。あら、いかにも怖いお話の始まりのようですわね』


 もしくは冒険ものかしら?

 お城が舞台とはいえ、さすがに既に死んでしまっているわたくしでは恋が始まりませんもの。

 あ、いえ。どちらかといえば、わたくしは退治される側なのではなくて?


『まぁ。困ったわ』


 例えばわたくしが悪い幽霊だとしても、せめて自分が何者なのかを知ってから退治されたいものですけれど。

 なにが手掛かりになるか分からない状態ですので、何とも言えませんわね。


 ただ幽霊って、どうやって退治するのか知りませんけれども。



 なんか一大スペクタクル想像している幽霊ですけれど、全然違います。

 実際はこれ一応、恋愛物語ですから。

 そう、一応(-ω-;)



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