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名も無き幽霊王子は、今日も壁をすり抜ける

『ここはどこだ? 私は……誰だ?』


 ある日目を開けたら、なぜか見知らぬ部屋の中。


 一体ここはどこだ? そして本当に私は誰なんだ?

 あとなぜか目線が高いような気がするのは……気のせい、か?


(困った。何一つ、思い出せないなんて)


 天蓋付きのベッドは既にカーテンが開いている。中に誰もいないということは部屋の主は起きているはずだろう。

 外から入ってくる明るい日差しが、まだ一日が始まったばかりなのだと告げている。


(調度品の数は多くないが、品の良いもので揃えられているな)


 そんな風に自分の名前もここにいる理由も思い出せないまま。多少観察しつつ、ただぼんやりと辺りを見回していたら。


(この部屋の主、か?)


 緩いウェーブのかかった長い金の髪が、陽の光を浴びて輝いている。

 珍しい紫の瞳はこちらを見上げながら、僅かに驚きを含んでいるようにも見えた。


(あぁ、ちょうど良かった。なぜ私がこんなところにいるのか、彼女に聞いてみよう)


 そんな風に思った私が、口を開くよりも先に。


「あらあら……。どちらの国の王子様でしょうか? 一体どちらからお入りになって、どうしてお体が透けた状態で浮いていらっしゃいますの?」


 そう、質問された。


(……透けた状態で、浮いている?)


 それにしても、目の前の女性は成人しているように見えるのに、何て身長が低いのだろうと考えていた私は。

 言われて自分の体を確かめてから、ようやく自分の状態に気付いた。


『……透けているな。それに浮いてもいるな』

「わたくしがお伝えした通りでしょう?」


 この状況で冷静な彼女が不思議なくらい、私は困惑していた。

 というか、なぜ彼女は私に対して警戒しない?


『もしかして、私は君の部屋に不法侵入しているのか?』

「もしかしなくても、不法侵入していらっしゃいますね」



 これは、つまり…………。



『し、失礼したっ……! すぐに出ていくから安心してくれ‼』

「あらあら。そんなに慌てて、どちらに行かれますの?」

『どちらって……』


 頬に手をあてて、首をかしげながら純粋に尋ねてくる目の前の女性の言葉に、私の思考と体が止まった。

 ……いや、今の私は、体は持たないのか?

 冷静に考えて、今の私は幽霊、なのでは?

 そしてどこの誰とも分からない私は、一体どこへ向かえばいいのか。


『私は一体、何者なのだろうか』


 何も分からない不安から、ついそんな一言が口から零れてしまう。


「服装から、どこかの国の王子様かとお見受けしましたが。違いましたか?」


 だが彼女は私に恐れることもなければ気味悪がることもなく、小さな呟きすら拾ってそう返してくれる。


(……ん? 王子?)


『この服装は、王子のものなのか?』

「おそらくは。お調べしてみましょうか?」

『ぜひ頼みたい!』

「お任せください」


 笑顔の彼女に、とてつもない安心感と頼もしさを感じた。

 が、次の瞬間。


「ではすぐに支度しますね!」


 そう言って、着ている服を脱ごうとする。

 しかもよくよく見れば、彼女はまだネグリジェのままで――。


『ま、待て待て!! すまないっ!! 今すぐ出ていくから!!』

「あらあら」


 後ろから聞こえてきた声が、なぜか驚いていたようにも聞こえたが。

 正直驚いたのは私のほうだ。


(な、何を考えている……!!)


 名も分からぬまま、おそらく王子だろうと言われた私は、気が動転したまま壁をすり抜けていた。

 まさか、通れるとは思っていなかったので、気付いたのはまったくの偶然ではあるが。ぶつからなかっただけ良しとしよう。


『……いやいや! おかしいだろう!!』


 廊下に出て叫んだ私の声は、響くことなく空気に溶けて消えていった。





 ――――――ところで、目が覚めた。






「この夢……またか」


 自分が幽霊になった夢を見たのは、これで二度目だ。

 というかそもそも、自国の王子の見た目や名前くらい知っているはずだろう……!!

 なぜ夢の中のトリアは、私の顔にも服装にも見覚えがないことになっていたのか。


「夢というのは、何とも理解しがたいな」

『あらリヒト様、お目覚めですか?』

「!!!!」


 私の呟きを聞き取ったらしい。本物の幽霊であるトリアがカーテンをすり抜けて、上半身だけを覗かせてくる。

 正直、寝起きにこれは、かなり心臓に悪い。


 だが、まぁ。


「おはよう、トリア」

『おはようございます、リヒト様』


 いきなり服を脱ぎ出すような夢の中のトリアよりは、幾分かマシだと思ってしまう私は……もはや彼女に毒されているのかもしれない。



 本日8/12より、pixivコミック様でコミカライズ連載開始です!!(。>ω<ノノ゛パチパチ♪

 pixivコミック様へのリンクは活動報告にも貼っておきますので、ぜひ!(・`ω・)ゞ



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