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57.そんなに心配しなくても大丈夫ですよ

「不妊薬に堕胎薬、か。第一王妃である母上に、なんてものを盛っていたのか」

「ですがリヒト様を身籠られた際には王妃陛下の変化に、ご本人はおろか周りの者達含め誰一人気付いていらっしゃらなかったのだとか」

「そのおかげで私はここにいるのだろうが……。兄上か姉上がいたはずだと思うと、怒りや悲しみで何とも言えない気持ちになるな」

「薬の存在を、両陛下はお気付きになられていたそうですから」

「その上で知らないふりをし続けた、ということか。ある意味、お前とやっていることは同じだな、カーマ」

「陛下の婚約者であられた頃から、王妃陛下は無能を装って様々な危機を乗り越えて来られたとの事ですからね。私など、比ではありませんよ」


 本来のお姿なのでしょう。カーマ様は今までとは全く違い、しっかりと髪を整えて目元はキリリとしていらっしゃって。まさに、出来る従者のお手本のようでした。

 そして広くなった執務室の中には、当然のようにカーマ様以外の従者が何人も壁際に控えております。

 つまり。


(わたくし、この場では何もできませんわ)


 発言すらリヒト様以外の方には意味をなさないのですから、必然的に黙ってしまうというもの。

 けれど正直、アプリストス家が行って来た罪の詳細が明らかになればなるほど、彼らを早めに退場させられたのは幸運だったのではと思ってしまうのです。

 と同時に、その悪辣さに嫌気がさしますけれども。


(自分たちの娘を第二王妃にするために、第一王妃に毒薬を飲ませ続けるなんて。正気の沙汰とは思えませんわ)


「ただバッタール宮中伯の行動やその動機については、未だ解明できず、か」

「近日中にアルージエ辺境伯が、私兵を連れて家宅捜索を行って下さるそうですが……」

「どうなるかはまだ分からないな。しかしいい加減、城内の混乱もどうにかしないと何も進まないままだ」

「兵すらまともに動かせる者が少ない状況ですからね。資料の紛失なども多く、現状の把握に時間がかかっているようです」

「資料の紛失か。それならば話が早い。最初から作成されていなかったということにして、足りない分はもう一度作り直す」


 リヒト様、それを手元に持っていた資料を机の上に放り投げながら言うのは、どうかと思いますわ。いえ、お気持ちは十分に分かりますけれども。

 おそらくは本当に、紛失ではなく不足だったのでしょうね。数年分の資料が、しかも近年の物だけがどの部署もごっそり紛失するなど。まず、あり得ませんもの。


「そう仰るだろうと思いまして、既に指示は出してあります」

「で、それに時間を割いている、と。死してなお面倒を残すなど、本当に害悪でしかなかったな」

「アプリストス家に従う貴族たちは、揃いも揃って無能ばかりでしたので」


 リヒト様もカーマ様も、本音が駄々洩れになっておりますわよ?壁際にいる従者たちも、頷いていないで止めて下さいな。


「まずはそこからだ。今日出来ることは既にない」

「はい。お疲れ様でございました」


 カーマ様と同じく、リヒト様も隠していた能力の全てを発揮されているらしく。最近では執務が早く終わってしまうことも多くなりました。

 いえ、正確には今しがたリヒト様が仰った通り、出来ることがなくなってしまっているだけなのですけれども。


(それにしても、次から次へと出てきますわねぇ。問題が山積み過ぎて、本当に皆さま忙しそうですもの)


 自室へと戻られるリヒト様の頭上に浮きながら、周りを見回しているのですが。あちらもこちらも、本当に忙しそうで。

 きっと今いる皆様方は、仕事のできる方たちばかりなのでしょう。けれどやはり、人数が足りていないようなのです。


(第二王妃派と第二王子派、それにアプリストス侯爵に従っていた貴族たちを政務に関わらせないとなると、人数は限られてしまいますものね)


 さらにこれを機に、必要のない貴族は地位を剥奪。領地も財産も没収。

 逆に今まで重い税に苦しんでいた領民たちに、様々な物資を支給するなど。


「――した?」


 本当に色々と、皆さま頑張っておられましたもの。


「トリア?どうした?」


 忙しすぎて、倒れてしまわれなければ良いのですけれど……。


「トリア!!」

『はい!?』


 いきなり大きな声で名前を呼ばれたので、驚いてしまいましたわ。


『ど、どうされたのですか?』

「どうもこうもない。それは何度呼びかけても返事をもらえなかった私が聞きたい」

『え?』


 わたくし、呼ばれていました?


『失礼いたしました。考え事に没頭していて、全く気付いておりませんでしたわ』

「うん、まぁ、そんなことだろうとは思っていたけれど……。流石に虚空を見つめたまま一切返事がなかったら、心配するだろう?」

『まぁまぁ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。幽霊だって、たまには考え事をするのです』

「君の場合は、正しくは幽霊ではなさそうだがな」

『そう、ですわね』


 そうだと、良いのですけれど、ね。



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