51.絵姿、ですか?
「それで、収穫はあったのかな?」
『ありましたわ!むしろ大収穫でしたの!』
普段のようにリヒト様がランプをテーブルに置くのと同時に、わたくしにそう問いかけられたので。そこからはこの目で見てきた事実を、ただただお伝えしましたわ!
興奮気味に早口でお話をしてしまった自覚はありますけれど、そこは許していただきたいところですわね。
ただ結局のところ、本当の目的とその動機は分かりませんでしたけれども。
「明日、か。随分と急だな」
『ジェロシーア様がどなたかにお伝えしてしまう前に、との事でしたわ』
「それが賢明だろうな。あとから見つかったら、それこそ共犯だと思われる」
バッタール宮中伯の行動には頷きながらも、まだ何か難しそうな顔をして考え込まれているリヒト様。
やはり、急すぎるのでしょうか?
「これは……私に運が向いてきたか?」
あら?そうでもないのでしょうかね?
『どういたしましょう?』
「明日まで私は何もしない方がいいだろうな。おそらくバッタール宮中伯による告発のおかげで、第二王妃は捕らえられて立場を剥奪され、加担していたアプリストス侯爵も同じく。フォンセはよくて軟禁だろうが、立場は剥奪されるだろうな」
『つまり、実質的に王族は両陛下とリヒト様のお三方のみになるということですのね?』
「そういうことだ。それに付随して貴族たちも大勢捕らえることになるだろうから、そこまで来てようやく私も動けるようになる」
『まぁ!』
それはかなりの朗報ではありませんか!?
これでようやく。本当にようやく、リヒト様が正しく評価されるのですね!
「だがまずは明日、バッタール宮中伯の聴取の最中にでも、彼を逃がさないように報告しないといけないな」
『けれど急な告発ですわ。おそらく陛下のお側にいらっしゃるという第二王妃派の方々が、簡単には帰さないよう指示を出すのではありませんか?』
「いや、そこは知られないように手紙だけを読ませるつもりだろう。だからこそ、何とか手を打たないとな」
つまり、第一王子派と陛下の手にしか手紙が渡らないようにする、と。確かにバッタール宮中伯でしたら、出来なくはないのかもしれませんわね。
「仕方がない。奥の手を使うか」
『奥の手?』
「あぁ。こんな時のために、色々と仕込んであるんだ。何よりこれが最後になるのなら、使わない手はない」
そうでしょうけれども……。
一体リヒト様が仰る奥の手とは、何なのでしょう?気にはなりますが……。
『そのお顔は、教えては下さらないということですわね?』
「当然だ。奥の手だからな」
少し悪い顔をしていらっしゃるので、そんな予感はしておりましたよ。えぇ。
わたくし、幽霊ですのに。誰にも言いませんのに。こういう時は、意地悪なリヒト様ですの。
「まぁ、そこは明日カーマが来てから話すとして、だ。トリア」
『はい、何でしょう?』
「君に明日、見てもらいたい絵姿がある」
『絵姿、ですか?』
それはまた唐突ですわね?
けれど本当に、一体どうして急に絵姿など――
「もしかしたら、君はまだ生きているかもしれないよ?トリア」
『…………え……?』
どこか嬉しそうな優しい表情をして、リヒト様が口にされたそのお言葉は。
わたくしには数秒間、理解できないものだったのです。