45.ほら、やっぱり……。すり抜けてしまうじゃないですか……
あけましておめでとうございます!!
新年初投稿となりますが、今日明日は早めの投稿、それ以降は通常通り夜の投稿になりますので、幽霊令嬢次回更新は4日の夜になります。
そして本年も作品及びキャラクターたちと、余った部分で作者のことも、よろしくお願いいたしますm(_ _)mペコリ
では、本編へどうぞ!
「私は立場上、そうやって何人も送り出してきて……結果、そのほとんどが帰ってこなかった」
『そ、れは……』
確かに、そうかもしれませんが。けれど!!わたくしは幽霊ですわ!!
わたくしが何にも触れられない代わりに、わたくしにもたとえリヒト様でも触れることは出来ないのですもの。
『他の方はそうかもしれませんが、わたくしに限ってはそのような心配は必要ありませんわよ?』
「そう、かもしれない。だが、どうしても……」
ご自身の両手を見つめるその肩には、一体どれだけの重圧がのしかかっておられるのか。わたくしには、想像すらできないことですけれども。
帰ってこなかった、というのは。飛ばされた貴族、裏切った貴族、そして……
(命を散らした方も、いらっしゃったのでしょうね)
だからこそリヒト様は、幽霊であるわたくしを送り出すことにすら恐怖を覚えていらっしゃるのでしょう。
それはきっと、リヒト様が今までずっと抱えていらっしゃった恐怖の一つ。
(けれど、だからこそ)
わたくしは今ここで、リヒト様を安心させて差し上げなければ。
そうでなければきっとこの優しい王子様は、いつまででもご自分を責め続けてしまうでしょうから。
何よりわたくしは、幽霊ですもの。リヒト様にのみ視認できる、誰にも傷つけられる事の無い存在だからこそ。
『大丈夫ですわ、リヒト様。わたくし、リヒト様を裏切るつもりなどありませんもの』
「そんなことは、心配していない」
『あら、でしたらなおさら問題ないですわ。だってほら、リヒト様』
どこか心配そうにこちらを見上げるリヒト様の正面、同じ目線になる位置まで下りて真っ直ぐその瞳を見つめて。ゆったりと微笑んだまま、手を伸ばしてみるのです。
この手はどうやっても、その滑らかな肌に触れることは出来ないのだと知りながら。
『ほら、やっぱり……。すり抜けてしまうじゃないですか……』
「トリア……」
『わたくしの姿が見えるリヒト様でも、触れることは出来ないのです。それなのに一体どなたが、わたくしを害することができるというのですか』
どんなに願っても、わたくしがリヒト様に触れることも、リヒト様がわたくしに触れることも出来ません。
けれど今はそれこそが、わたくしが安全だという何よりの証拠になるのですから。
それなのに。
「トリア、どうして……どうして私には君の姿が見えるのに、声が聞こえるのに……。触れることだけは、出来ないんだろうか……」
寂しそうな顔をして、そんなことを言わないで下さいませ。
第一。
『幽霊に触れられるのであれば、それはもはや幽霊ではない何かではありませんか?』
わたくし、流石に化け物にはなりたくありませんわよ?
けれどリヒト様にとっては、そうではなかったようで。
「それでもいい。君に触れられるのであれば、なんだって」
今度はリヒト様から手を伸ばして、まるでわたくしを抱きしめるかのようにその腕の中に囲われたのです。
決して伝わることのない感触。けれどすり抜けないように、本当にギリギリの場所まで回された腕。
そこから抜け出すことなど、わたくしにとっては簡単なことですけれども。
(わたくしも、リヒト様にだけは触れられれば良かったのに、と……思ってしまうのです)
せめてもと、その胸元にそっと手を添えてみますけれど。やはりどうしても、触れることは出来ないのです。
けれど伝わってくるはずのない体温を、そのぬくもりを、求めてしまうわたくしがいるのも確かで。
(あぁ、わたくしは……)
いつの間にか、リヒト様に恋をしてしまっていたようです。