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41.随分と目の細い方ですわね

 あれ以来、何事もなかったかのように過ごしておりますが。

 時折リヒト様のあの真剣な表情を思い出してしまい、一人恥ずかしくなるということを繰り返しておりました。


『リヒト様ご自身が、以前と何ら変わりないのですもの。それがまた逆に、羞恥心を煽るのですわ』


 なんて、一人文句を言ってみますけれど。今ここにリヒト様はいらっしゃらないので、わたくしの言葉は誰にも聞こえないのです。

 むしろそんなことを言っている場面ではないのですけれどね。


「アプリストス侯爵。登城されるのであれば、知らせて下さればよかったのですよ?」

「相変わらずだな、バッタール宮中伯」

「ジェロシーア様のご予定の変更もありますからね。いくら実の父親といえども、王族相手には敬意と節度を持って頂かなければ困ります」


 これは……アプリストス侯爵、ちゃんとした手順を踏まずにジェロシーア様へお会いになるおつもりで登城されたのですね?

 本当に苦労人ですわね、バッタール宮中伯は。


「そういうお前は、ジェロシーアの開くパーティーにも出席していないとか?」

「ジェロシーア様、ですよ。アプリストス侯爵。それに私が出席しないのは、やるべき事が山のようにあるからです」


 なんでしょうか?もしかしてお二人は、仲がお悪いのでしょうかね?

 そもそも会話のやり取りからして、バッタール宮中伯はアプリストス侯爵を嫌っておいでのようですが……。

 けれど、それにしてはなんだか、こう……。


「まったく。仕事ができるから重宝しているが、それ以外でどうしてあの二人が特別お前を取り立てるのか理解出来んな」

「私はただ、現国王陛下の時の二の舞になってはならないと思っているだけですから」

「あんなことはそうそう起こらん。色々と不運が重なっただけだと言っているだろう」

「だからこそ、です。不運はいつ訪れるのか分かりませんからね」


 やはりどこか、おかしい気がいたします。

 そもそもバッタール宮中伯は、第二王妃派なのでしょうか?お話の内容からすれば、そうとしか取れないのですが。

 それにしては第二王妃の実のお父様であるはずのアプリストス侯爵への態度が、あまりにも棘がありすぎるような?それとも非常識なことをされているから、お怒りなのでしょうか?

 わたくしの考えすぎなのか、そもそも普段のお二人はどのような会話をされているのか。本当に何も、分からないのですよね。

 判断材料が少なすぎて、結論が出せませんわ。


『ただ一つだけ分かったことがありますわ。確かにこの体型では、頻繁に登城はできないのでしょうね』


 少々どころではないくらいお太りになっているアプリストス侯爵では、階段の上り下りはおろか中庭に歩いていくのですら一苦労でしょうし。

 フォンセ様は、アプリストス侯爵に似てしまわれたのでしょうね。髪色は少しだけアプリストス侯爵の方が明るい気がしますが、それでも同じ茶色ですし。

 太りすぎて、瞼で瞳があまりよく見えませんが。おそらくは髪と同じ色なのでしょう。

 同じ瞳が見えない相手でも、アプリストス侯爵とバッタール宮中伯は正反対ですわね。片や太りすぎ、片や痩せすぎ。しかもバッタール宮中伯はだいぶ背が高いお方ですが、アプリストス侯爵はそうでもなさそうですし。


「フンッ。まぁ、警戒するに越したことはないからいいがな」

「えぇ。アプリストス侯爵も、うっかり裏切者を引き込んでしまわないように気を付けてください」

「余計なお世話だ!まったく。お前と長話をしていられるほど、私は暇じゃないんだ。失礼する!」


 まぁまぁ。気の短いお方ですこと。

 けれどジェロシーア様もフォンセ様も、似たようなものですし。そういう家系なのかしら?


『それにしても……。相変わらず、どこを見ていらっしゃるのか分からないほど随分と目の細い方ですわね、バッタール宮中伯は』


 去って行くアプリストス侯爵の後姿を眺めている、のかもしれないですし、そうではないのかもしれない、と。


『分かりにくいんですのよ』


 表情があまり変わらないお方なので、なおさらなのです。何を考えていらっしゃるのか、感情一つ読み取れませんわ。

 けれど。


「どうせなら、ずっと屋敷に引きこもっていればよいものを」


 最後の最後、バッタール宮中伯が立ち去る直前に零していった一言は。

 どこか、恨みが籠っているようにも聞こえる声でした。



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