39.わたくしは既に、死んでしまっていますから……
『えええぇぇっ!?!?』
「それも面白そうじゃないか?もしかしたらトリアがどこの誰なのかを知る、きっかけになるかもしれない」
『いえいえいえいえ!!』
確かに特徴が似ている方がいらっしゃれば、血縁関係から辿れる可能性はありますけれども!!
なにゆえ幽霊の特徴を理想の女性として伝えようとしていらっしゃるのですか!?
「肉体が存在しないのであれば、誰かに傷つけられることもないだろう?」
『そうですけれども!!そうではなく!!』
そもそもリヒト様以外の方には認識できない存在ですけれども!!
万が一にも他人の空似があったらどうするおつもりですか!?ご令嬢を傷つけたくないというリヒト様のお気持ちが、関係のないお方に向くかもしれないのですよ!?
それ以前に、そんな理由で幽霊の見た目をご自分の理想だと公言してしまわれてよろしいのですか!?
「実際トリアといて退屈はしないんだ。誰に害されることもない相手ならば、私は幽霊と婚約者になるのも吝かではない」
『吝かであって下さいませ!!婚約者ですのよ!?将来の結婚相手なのですよ!?しかもリヒト様は第一王子ですのに!!』
「面白いじゃないか。幽霊と結婚する王族なんて」
『前代未聞ですわよ!?それにわたくし、子供を産むための体がありませんわ!!』
そう、だって。
『わたくしはっ!……わたくしは、その……』
「トリア?」
『…………リヒト様。わたくしは既に、死んでしまっていますから……』
それでは貴族令嬢の責務を果たせませんわ。しかも相手が王族であれば、なおのこと。
『子を成すのも、王族の務めですわ。ですからリヒト様は、ちゃんとした子供を産める令嬢の中からお選びくださいませ』
リヒト様が王位を継げなければ、この国は崩壊の一途を辿るだけですもの。
であればこそ、それを必死に止めたいと思う貴族も一定数以上いるはずですわ。
『幽霊と結婚するなどと第一王子に言い出されては、味方の貴族だけではなく民も困惑してしまいますわ。それは王族として、何としてでも避けなければなりませんもの』
「…………トリア。君は今、誰よりも王族に嫁ぐに相応しい発言をしているのだと、気付いているかい?」
『わたくしは他人事だからこそ言えるのです』
「他人事、ねぇ……。残念だな。トリアが相手なら、本当に結婚してもいいかもしれないと思ったんだけれどね」
『リヒト様……』
そのようなことを仰らないで下さいませ。
リヒト様はこの国の王族で、第一王子で、誰よりも王位に相応しいお方なのですから。
「あぁ、ごめん。そんなに困ったような顔をしないでくれ」
『リヒト様が、悪いのですわ……』
「そうだね。私が悪かった。悪かった、けど……」
『けど、なんですの?』
「トリア。もしも君が、本当はどこかで生きているのだとしたら……」
『そんなこと、あるはずがありませんわ』
「そうかもね。だからこそ、もしも、だ。もしも、生きていたら」
『生きていたら?』
「その時には、私と結婚してくれるか?」
『なっ!?リヒト様!?』
このお方、分かっておられませんわよ!?
幽霊相手に何というおかしなことを仰っておられるのですか!!
『からかうのはお止め下さいませ!』
「いいや?割と本気で言ってるんだが?」
『なおさらいけませんわよ!?』
「もしも、の話だろうに。……で?トリア、返事は?」
『返す必要あるんですの!?』
「ある」
急にどうしたのですか!?
真剣な表情で頷くリヒト様は、なんだかいつもと少し様子が違うように見えるのですけれど!?
いくらなんでも破天荒すぎますわよ!?