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37.壁抜けは得意なんです。幽霊ですから

 本日もリヒト様とは別行動の中、怪しくない怪しい人物探しにいそしんでおります。

 両陛下への謁見の日の翌日から今日まで、こうしてお城の中の様々な場所をまわって人間観察をしておりますが、なかなかこれと思うような怪しい人物には当たりませんね。

 当然ですが、明らかに怪しい人物は念のため報告しておりますよ?けれど大抵カーマ様が既にお調べになった後なのです。

 わたくし、本当にお役に立てませんわね……。


『モートゥ侯爵も、あれ以来お見かけしても真面目にお仕事をされているだけのようですし』


 今の所は、特にリヒト様にお声がけされるような気配はありませんの。それが不思議であり不気味でもあるのですけれども。

 それ以前に、とにかくジェロシーア様が毎日のようにパーティーを開かれておりまして。怪しい人物は全員そこに集中してしまうので、逆に行動が制限されているという現象が起きているのです。


『毎日パーティーばかりで、お疲れにならないのでしょうか?』


 そしてそれは本当に、ジェロシーア様の意思なのか。

 まるで彼らを集めるのが目的のようにも思えてしまうのは、黒幕がいるのだという前提のせいでしょうか?


「アプリストス侯爵がか!?」

『あら?』


 聞き覚えのあるお名前が聞こえてきたような気がして、一度通り過ぎた道を戻ってみましたら。誰もいないと思っていた廊下の分かれ道の向こう側で、何やら若い男性二人が立ち話をされているようでした。

 声を潜められては困りますので、相も変わらずわたくしの姿が見えないのをいいことに近づいてみたのです。


「あぁ。久しぶりにジェロシーア様にお会いするために、登城されるらしい」

『まぁまぁ!普段は登城すらされていらっしゃらないのですか?』


 聞こえていないのを分かっていても、つい会話に混ざってしまうのです。わたくしの悪い癖でしょうか?

 それにしても、アプリストス侯爵は娘のパーティーに参加すらしていないのですね。


「それは、いつの予定だ?」

『あら。わたくしも知りたいですわ』

「噂だと十日後、らしいが。何せあのご様子だからな。今それを聞きに行けるような人物は、この城の中にはいないさ」

「そう、だな。あぁ……どうしてこうなってしまったんだろうな……」

「シッ。あまりそういうことを城の中で口に出すな。黙って仕事をしてるから、追い出されずに済んでるだけなんだぞ?」

「そう、なんだが……」

『まぁ。そうなんですの?』

「愚痴なら仕事終わりに聞くから、とにかく黙ってろ」

「あぁ。そうだな」


 短い会話を済ませた二人は、何食わぬ顔でそれぞれ逆方向へと歩き始めましたが。


『これは……。わたくしが思っているよりは、現状に不満を持っている貴族も多いということでしょうか?』


 しかも今のお二人は、見た目からしてリヒト様とそう変わらない年齢のご様子でしたけれど。


『…………あら?そういえばわたくし、リヒト様の年齢を存じ上げておりませんでしたわね』


 おそらく十代後半から二十代前半、と思っておりましたが。そのあたり、実際はどうなのでしょうね?

 今度機会があれば聞いてみましょうかしら?


『あぁ、いえ。今はそれよりも』


 十日後、アプリストス侯爵が登城される。

 何も起きないなどとは、考えられないのですよね。


『急いでリヒト様にお知らせするべきですわね!』


 リヒト様の執務室からはかなり離れた場所にまで来てしまっている以上、手段を選んでる場合ではありませんわ!

 このまま床と天井をすり抜けてしまいましょう!!

 確か今いる場所から二つほど階を上がって、右に曲がれば……。


『ありましたわ!リヒト様の執務室の扉!』


 フォンセ様と違って、かなり奥まったところにある飾り気もない扉ですが。既に何度も通っているわたくしが迷うことなどありませんわ。

 そのまま扉ではなく、壁をすり抜けてリヒト様のすぐ横の位置まで出た時には。なにやら難しい顔をして、一枚の紙を睨んでおられました。

 

『どうかされましたか?』

「うわぁっ!?」


 まぁ。そこまで驚かれることですか?

 リヒト様、驚きすぎて紙が床に落ちてしまわれましたよ?残念ながらわたくしは触れることができないので、拾って差し上げることはできませんが。


「トリア、いつの間に……」

『つい今しがたですわ』

「一体どこから……」

『それはもちろん、壁からです!』

「……扉からでは、ないんだな…」

『壁抜けは得意なんです。幽霊ですから』

「いや、そういう事を聞いたわけでは、だな……」


 はあぁぁぁ……。


 また特大のため息ですね?何か大きな悩みごとでもあるのでしょうか?

 あら、目頭をそんなに強く揉んで……書類の読み過ぎで、目がお疲れなのでは?


「まぁ、いい……。それよりも、戻ったという事は何か収穫があったんだろう?」

『えぇ、もちろんです!』


 けれど今は、別の悩みごとを増やしてしまうかもしれませんが。お伝えしないわけには参りませんので。


『アプリストス侯爵が、十日後に登城される予定だと小耳にはさみましたの』

「なんだと!?」


 先ほど以上に、驚愕に見開かれる鮮やかな青の瞳。

 その奥にあるのは、まるで信じられないとでも言いたげなものでした。


 アプリストス侯爵は目立ちたがり屋さんだと思っておりましたが、違いましたか?

 登城するだけでこんなにも驚かれる方ならば、わたくし逆に興味が湧いてきてしまいましたよ?



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