34.失敗した絵の上に、さらに別の絵?
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「この間久々に絵を描いていて思ったのだがな」
「はい」
陛下への謁見の日当日。両陛下への挨拶から始まって、近頃の各領地の状況の報告から問題点を列挙し、その解決方法と予算の提案などを終わらせて。
そうして淡々と進められる謁見という名の報告が一息ついてからというもの。
「油絵というのは、気に入らなければ削り取るだけではなく、完全に別の絵を上から描くことも可能なのではないか?」
「そう、かもしれませんね」
「不可能ではない以上、歴史的な名画にもその下には何かが隠されているのかもしれぬと思えば、こう、胸が高鳴るような気がしてな」
なぜか。そう、なぜか。
国王陛下の絵画談義になってしまわれたのです。
なんでしょうかね、この状況は。
「だが同時に思ってしまったのだ。このスヴィエート王国の歴代の王族の肖像画の下にも、何があるのか分からんな、と」
「失敗を誤魔化している可能性もありますものねぇ」
うふふ。と上品に笑っていらっしゃるのは、面影からしても明らかにリヒト様のお母様なのでしょう。あのお方が、第一王妃。
リヒト様の髪色は、お父様である国王陛下から受け継いだのでしょうね。そして瞳の色はお母様である第一王妃から。
こう見ると、フォンセ様はとことん第二王妃似ですわね。陛下とは似ておりませんもの。体型も含めて。
そしてこの国は、スヴィエート王国というのですね。今初めて知りましたわ。
それにしても……。
(失敗した絵の上に、さらに別の絵?王族の肖像画は、この先も残り続けるものですのに?)
万が一それが発覚した場合には、画家は大変な目に遭うかと思いますが。
王族の肖像画ですのよ?不敬ではありませんか?
「そこまで失敗してしまったのであれば、いっそのこと描き直す方が早いのではないでしょうか?」
案の定、リヒト様がその疑問を口にされたのですが。
「必要なものを揃えるのに、予想以上に時間がかかってしまうこともあるのよ。そうですよね?陛下」
「あぁ。この間など、欲しい色が他国の小競り合いのせいでなかなか手に入らなくてな。あまりにも暇だったので、ついキャンバスに下書き以外をしてしまってなぁ」
「結局上に絵を描けば分からなくなるからと、消さずにそのままでしたものね」
「それができるのが油絵のいいところだが、逆にわしらの肖像画の下にも何か治世に関する文句を書かれているのではないかと心配になるなぁ。ははは」
「まぁ、陛下ったら。うふふ」
いえ、あの、両陛下?それがもし事実であるとするならば、かなりの大問題なのではないでしょうかね?
さらには王族が必要とする物資一つ、まともに届かないなどというのは……。
『……笑いごと、なのでしょうか?』
つい、声に出してしまってから。ふとリヒト様を窺い見れば。
なぜか、口元に笑みを浮かべていらっしゃるのです。
(似た者親子ですの!?)
そもそもここは謁見の場ではないのですか?周りの方々も、微笑ましそうにしている場合ではないですよね?
なんでしょうか、この何とも言い難い雰囲気は。
「私の肖像画の下には、何か書かれているのでしょうかね?」
「画家に直接聞いてみないと分からないものね」
「文句ではなく賛辞が並べ立てられているかもしれぬな!」
「待望の子供でしたものね。全国民が第一王子の誕生を喜んでくれたことを、わたくし昨日のことのように覚えていますわ」
「そうだったなぁ!」
陛下は金の髪を揺らしながら、そのグレーに近い青の瞳を楽しそうに細められて。
第一王妃は唯一結い上げていないダークブロンドの横髪をさらりと流しながら、リヒト様を見て優しくその鮮やかな青の瞳を緩められたのです。
「私は幼かったので覚えておりませんが、確かその様子もどこかの画家が描いたと聞いた覚えがありますね」
「あるぞ。あれは見事なものだった」
「当時のわたくしたちの肖像画を担当したのも、その画家でしたものね」
「でしたら一度、その画家に直接色々と聞いてみたいものです」
「それはいい!」
「そういった機会を設けてみたいですわね、陛下」
「あぁ」
「楽しみです」
これは…………もはや、ただの親子の会話ではありませんか?
しかも結局、そのまま謁見の時間は終わってしまわれたのですが?
(今の会話の中のどこに、情報の交換があったのでしょうかね?)
リヒト様、わたくしには何も分かりませんでしたわ。
この時間に意味があったのか、謁見する必要はあったのか、と。
疑問だけが残ったのですが、もちろん説明していただけるのですよね?
ねぇ、リヒト様?