31.少し整理してみましょう
『え、っと……』
一体、どうしたことでしょう?
そもそもリヒト様、わたくしが出る前はしっかりと眠っていらっしゃったのでは?
それが、なぜ……?
「一体どこに行っていたんだ、と聞いているんだ」
『どこ、と申されましても……』
この日に会合が行われることは、事前にリヒト様にもお伝えしていたはずなのですが。
もしかしてお忙しくて、お忘れになっていた、とか?
『リヒト様に以前お伝えしておりました通り、本日が会合の日でしたので。少しばかり情報収集にいそしんでおりましたの』
「は……?まさか、そんな事のために、こんな夜中に?」
『会合は夜中に開かれるものですもの!昼間に開かれるのでしたら、その時は昼間に出かけますわ!』
けれど秘密の会合が昼間に開かれていては、情緒も何もありませんわね。
やはりこういった表に出せないものならば、夜中にひっそりと集まってこそなのでしょう。
「…………はぁ~~……。なんだか、心配して損した。本当に、トリアは突拍子もなさすぎる」
『まぁ!心配して下さっていたのですか?』
「君がっ!いきなりいなくなるからだろうっ!?突然消えたのかと思って、本当にっ…………はぁ~~~~……」
あらあらまぁまぁ。そんなに大きなため息をつかれるほど、だったのですね。
それは申し訳ないことをしてしまいましたわ。
『ご心配をおかけしました。けれど問題ありませんでしたわ』
「結局、君の姿を認識できる存在は私以外にいなかったわけか」
『もちろんですわ!リヒト様だけが特別なんですの!』
「ッ……。そう、か」
けれどせっかく起きていらっしゃるのでしたら、少し見聞きしたことをお話ししておくべきですかね?
「で?首尾は?」
『上々でしたわ!どうしてもリヒト様を監禁なさりたいお方がいらっしゃるようでして、そのお方の発言から今後はそちらの方向に計画を変更なさるとか』
「なるほど、考えたな」
あら、リヒト様。口元がまるで悪役のような笑みを形作っておられますわよ?
けれどわたくし、思いますの。毒殺も誘拐も、力尽くでは難しいのではないのか、と。
「まぁ、その内打診があるだろうな。なるほどなるほど?今度はそう来るか」
けれどリヒト様は、何かに気づいておられるようで。お一人で納得されておられます。
わたくし、何一つ理解しておりませんが?
「提案をしてくるとしたら、そうだなぁ……モートゥ侯爵あたりか?」
『モートゥ侯爵?』
「違うのか?」
『最初に提案をされたお方が侯爵様であることは確かですが、わたくしお名前を存じ上げないのです』
「蓄えた髭を整えている老紳士の侯爵で、かつやり手のようであればモートゥ侯爵なんだが?」
『その方ですわ!!』
偶然の一致のはずがありませんもの。きっとあの方が、リヒト様のおっしゃるモートゥ侯爵なのでしょうね。
と、いうことは、ですよ?
少し整理してみましょう。
『リヒト様を誘拐監禁したいと思っていらっしゃるのが、モートゥ侯爵ということになりますよね?』
「そうだな。おそらくそれ以外の貴族たちは、私を亡き者にしたいだけなんだろう」
『そしてその張本人であるモートゥ侯爵自ら、リヒト様に何を提案するというのですか?』
「おそらくは、ここにいては危険だから我が家に避難しないか、と。まぁ、間違いではないな」
なんと!?それは確かに、命の危険を感じていらっしゃるリヒト様からすれば願ったり叶ったりではないですか!!
やはりあのお方、策士ですわね。恐ろしい方。