21.あまり、その……賢そうには見えませんでしたけれど?
お見事。
そうとしか、言いようがありませんでした。
『リヒト様……本当に、慣れていらっしゃいましたね』
「だから言っただろう?というか、本当に君は一睡もしていなかったんだな」
『えぇ!一切眠気は襲ってきませんでしたわ!』
まさか計画を立てたその日のうちに、リヒト様の私室に侵入者、なんて。
毒入りチョコレートの件といい、即行動しないと気が済まない方たちなのかしら?ジェロシーア様たちは。
『けれど、よく毒入りの紅茶だけで退治できましたわね?』
「普通の毒じゃないからな。それにあれだけ濡れた状態のままで城内を歩いていれば、さすがに怪しすぎて捕まるだろう?」
確かに、おっしゃる通りですわね。
何があったのかは別としても、すぐに着替えられないというのは貴族としては大問題でしょうし。何よりそのままお城の中を歩くなんて、普通の感性ではありませんわ。
さらに相手が貴族ではないのだとすれば、なおさら問題になりますもの。
「まぁ、あれで何人も再起不能にしてきた。今回の刺客も、もう二度と来ないさ」
『……わたくし、その毒の詳細をお聞きするの、やめますわ』
「その方が賢明だろうね」
いえいえ!そんな嬉しそうに笑って言うことではありませんわよ!?
むしろどこから調達していらっしゃるのかしら?聞きたいけれど、きっと知らない方がいいことも世の中には数多くあるのでしょうし。
わたくしは、善良な幽霊でいたいんですの。退治されたくないのですわ。
「ま、今回は第二王妃の仕業だと分かり切っている上に、それを提案した貴族も割れてるからな。後の処理がしやすい」
物騒ですわね!?
『……あら?どうして第二王妃の仕業だと?貴族が主導の可能性はないのですか?』
「こんな短時間で、私の部屋の場所や城の構造を知り尽くせるわけがないからな。おおかた提案された第二王妃が、用意していた計画を変更しただけだろうさ」
『それは、また……』
短絡的な思考、ですわねぇ……。
「フォンセはああ見えて、嫌がらせ以上のことはしてこようとしない臆病者だからな。周りが勝手に動いて、フォンセの癇癪に応えているだけで」
『あー……。だから、ですのね』
貴族のあの怯えよう、確かに何度もやっていることなのだろうと思いましたけれど。
なるほど、癇癪という名の要望に、周りの者が応えてきた結果だったのですね。
「君の目から見て、フォンセや第二王妃はどうだった?」
『どう……』
こう言っては、なんですけれど……。
『あまり、その……賢そうには見えませんでしたけれど?』
しかも困ったことに、親子そろってなのですもの。
あれでは周りに優秀な人材も集まらないでしょうに。
「ははっ!確かにそうだろうな!君は割と見る目がある!」
いえ、あれを見てそう判断しない方の、感性を疑うべきなのでは?
まぁ、とても楽しそうにリヒト様が笑っていらっしゃるので、わたくしとしては構いませんけれども。
「それで?君はこれからどうするんだ?」
ようやく笑いが収まったらしいリヒト様が、置いていた羽ペンに手を伸ばしながら問いかけてくるのですけれど。
よくよく考えてみたら、どうして執務室内で普通にわたくしと会話ができていらっしゃるのでしょうね。本当に不思議ですわ。
『とりあえず、もう少し色々と見て回ろうと思っておりますの。結局全て回り切る前に、戻ってくることになってしまいましたもの』
「そうか。いいんじゃないか?行っておいで」
『えぇ。行ってまいります』
彼らのことはひとまずおいておいて、まずは城内の探検再び、ですわ!