~幕間~ 第一王子の憂鬱②
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命を狙われるような生活は、幼い頃から当然のような。もはや日常だった。
飲み物に、食べ物に、触る物に毒が仕込まれていることは当然だったが。何もない時に急に襲われることも、数え切れないほど。
そうやって生きてきたせいで、当たり前のことだと思ってしまっていた。
そして同時に、周りを常に警戒していた。
そう。
警戒していた、はずなのに。
『リヒト様!!今日の差し入れには、毒が仕込まれているようですから!!右下のお菓子だけは、食べないようにしてくださいね!!』
「…………君は……。便利と言えば便利だが、時折違う意味で怖いな……」
何の前触れもなく、扉からですらなく部屋の中に入り込んできた彼女は、大きな声でそう告げて。
表情にも声にも出してはいなかったが、内心かなり驚いた。
いや、まぁ……扉や窓以外から入ってこられる存在など、普通の人間ではあり得ないのだから。驚くのは当然といえば当然なのだろうが。
それでも大急ぎで帰って来たらしい彼女の言葉は、あまりにも不穏だったからこそ。
誰かが来る前にと、聞き出したそれは。
「チョコレート、ねぇ」
あまりにもいつも通りすぎて、もはや呆れるしかできなかった。
ただまぁ、父上にそれを献上しようとしたうえで下賜させようなどと。それに関しては許せる範囲を大幅に超えていたが。
毒見をそうと悟られずにやってみせたカーマに対して、こんなにもハラハラさせられたのは初めてだったかもしれない。
どうせ最初から一つ抜かれていたそれは、陛下への献上品だから毒見された後のものだと、安心だと誤認させるためのものだったにすぎないだろうし。
こういった場合、大抵は毒見役も共犯だ。チョコレートを持って来たこの男は、私が確実にそれを口にするのを確認するためについて来たにすぎない。
それを理解していて、あえて連れてきているカーマは茶すら用意していなかった。あくまで食べるのはカーマと私の二人だ、と。事前に断られたのかもしれないが。
「失礼。おや、休憩時間にチョコレートとは。随分と優雅ですねぇ」
とはいえ、まさか第二王子陣営の者がこんな時に現れるなど、予想もしていなかっただろう。
実際私も予想していなかったので、どうやってすべて食べずにこの男を部屋から追い出すべきかを考えていたのだから。
「……どういう、つもりですか?」
「兄弟二人で分けろというおつもりだったんだろう。こちらも確認せずに悪かったな。残りはフォンセが楽しめばいい」
「食べかけを、お渡ししろ、と?」
「嫌だと言われたら、使用人たちで分ければいいさ」
だが私からすれば、逆に好都合だった。
こんないらないもの、押し付けてしまえばいい。後で勝手に向こうで処理するのだろうし。
この時ばかりは、執務を私に押し付ける腹違いの弟に感謝してもいいと本気で思った。
実際焦った様子で毒入りチョコレートを追いかける姿は、内心ではざまぁみろと鼻で笑ってしまうような滑稽さだったのだから。
だが。
だがっ!!
『これは……先ほどの方を追いかけてみる必要がありそうですわね』
「……何を考えているのか、一応聞いてもいいか?」
『当然です。ずばり、敵情視察!ですわ!』
嫌な予感がして、幽霊である彼女に問いかければ。
案の定、予想通りの答えが返ってくる。
しかも、だ!!
「いや、別にそんなものは必要――」
『わたくし、見失わない内に追いかけてきますわね!』
「あ!おい!!」
この幽霊、人の話を全く聞かない!!!!
確かに今の所は誰にも見えないかもしれないけどな!?もしかしたら誰か他に見える存在がいるかもしれないだろう!?
そういうことは考えないのか!?なぁ!?考えないのか!?
「…………私には、彼女を制御するのは不可能かもしれない……」
ある意味、第二王妃たちよりも厄介な存在かもしれない、と。
そう思いながらも、なぜか本当のことをつい話してしまった私は、私自身に多少驚いていた。
だが、まぁ。
『大変ですわ!』
…………。
やっぱり、この幽霊。
私には制御できない事だけは、確実だと思う。
あぁ、そうそう。
彼女が心配していた誘拐についてだけどね?
またいつものことだから、毒入り紅茶をかけて退治してやったよ。
本当に、懲りない馬鹿どもばかりだな。