16.性格悪そう……おっと、いけませんね
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急いで壁をすり抜けた先で、長い長い廊下の端。どこが額と頭の境目なのかが分からなかった大柄な男性が、ちょうど角を曲がる姿が見えました。
『らっきーですわ!もう少し遅かったら、間に合わなかったかもしれませんものね!』
どうせならと一度外に出てから、真っ直ぐ曲がった先に向かっていたわたくしの目の前の、少し先の窓の内側に。フォンセ様の従者であろう方の姿も見えたのですから、さらにらっきーですわね。
『……あら?急いで部屋を出て行った割には、随分と間隔をあけていらっしゃいますのね』
見つかったら困るような間柄なのかしら?
わたくしはあの方々のお名前も存じ上げないので、人目がある場所で親し気にされることが不利益を産む可能性があるのかどうかも分かりませんけれども。
『けれど明らかに距離を取っていますものね。おそらくはこのまま、人目につかない場所までついていくおつもりなのでしょうね』
第二王子派であることは明らかでしょうから、毒入りのチョコレートの存在をこんな場所で大っぴらにお話し出来ない、と。
まぁ、そんなところなのでしょう。
『それにしても……。リヒト様の執務室は、廊下の端の端でしたのに……弟であるフォンセ様の執務室は、一体どちらにあるのかしら?』
このままだと、お城の中心部に第二王子でありながら執務室をお持ちということにならないかしら?
それとも、全くの反対側に位置している、とか?
『そんなこと、あり得るのかしらね?』
見えていない、聞こえていないのをいいことに、窓の外をふよふよと浮きながらの独り言。
これが生身の人間でしたら、完全に不審者でしょうけれども。幽霊ですからね。何の問題もありませんわ。
『あ。そもそも生身の人間は、宙を浮けませんわね』
まさかこんなところに密偵が潜んでいるなどとは、きっとどなたも想像すらなさらないでしょうし。
本当にこの体、便利ですわね。
『あら?』
わたくし一人で少しだけ楽しくなってしまっていたら、いつの間にやらフォンセ様の従者であろう方の姿が見えなくなってしまって。
ついつい焦って、窓から廊下へと入り込んだ先で。
「失礼いたします。フォンセ王子に、急ぎお伝えしたいことがございまして参上いたしました」
先ほどの額と頭の境目の分からない大柄な男性が、リヒト様の執務室よりもずっと豪華な扉の前でそう内側に声をかけていらっしゃいました。
つまり。
『ここが、リヒト様の弟君であるフォンセ様の執務室……』
随分と、ご兄弟で差がありますこと。
いえむしろ、リヒト様が遠ざけられ邪険にされていらっしゃるのかしらね、これは。
『場所さえ分かってしまえばこちらのもの、ですわ!』
額と頭の境界が分からない大柄な男性は放っておいて、わたくしは一人悠々と扉が開くより前に部屋の中に侵入してみせます。
壁抜けはお手の物、ですからね!
『さて、と。一番偉そうな方は、どちらかしら?』
どう考えても執務室ではなさそうな、煌びやかというにはいささか以上に目に優しくない黄金の部屋の中で。
あ、なんだか趣味の悪そうな壺も置いてありますわね。
きっと部屋の主であるフォンセ様は、きっとこれまた目に優しくない黄金の椅子に……。
『まぁ。本当に黄金の椅子に腰かけていらっしゃるなんて。布地だけでなく刺繍も金ですの?なんて悪趣味な』
ちょっと、わたくしの感覚からしたら考えられませんわね。あまりにも盛りすぎていて。
豪華であることは良いのですが、節度という物がおありではないのかしら?
それに……。
『性格悪そう……おっと、いけませんね』
つい、本音が零れてしまいましたわ。いけないいけない。
けれど癖のある黒に近い茶の髪は、ところどころだらしなくあちらこちらにはねていて。
暗ーい青の瞳は、重そうな瞼で上が隠れてしまっているのですもの。
『これではただの肉の塊ですわ』
どう考えても有事の際に動けないでしょうに。周りの方々はどうお育てになっていらっしゃるのかしら?
王子の威厳も何も、あったものではありませんわね。