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14.大丈夫ですよ。夜はわたくしが見張っていますから

「お預かりしますねー。ところでフォンセ様の所には、陛下から何か下賜されていないのですかー?」

「休憩する暇もないほどお忙しい方だからな。いい気なもんだ。執務中に優雅にティータイムなど」

『あら、休憩は必要ですわよ?ずーっとお仕事し続けるなんて、体に悪いですもの』

「なるほど、フォンセの所には何も行っていないのか」

「だからどうしたって言うんです?第一王子だからって、ご自分は特別だとでも仰りたいのですか?」

「いや……。父上は平等がお好きな方だからな。おそらくは伝え忘れたんだろう」


 そう言いながら、なぜかリヒト様はチョコレートのふたを閉じて。そのまま書類を持って来た男性に渡してしまわれました。


「……どういう、つもりですか?」

「兄弟二人で分けろというおつもりだったんだろう。こちらも確認せずに悪かったな。残りはフォンセが楽しめばいい」

「食べかけを、お渡ししろ、と?」

「嫌だと言われたら、使用人たちで分ければいいさ」


 さわやかに笑っていらっしゃいますけれども……。リヒト様、それ、毒入りですよ?

 しかも先ほど、兄弟と仰いませんでしたか?

 毒入りのチョコレートを、おそらく唯一であろう兄弟に渡すリヒト様。


(あぁ、なるほど。兄弟仲が、非常によろしくないのですね)


 王位継承権を巡ってなのか、それとも他に理由があるのかは分かりませんけれど。

 ただおそらくリヒト様に毒入りのチョコレートを差し入れしてきた貴族は、おそらくそのご兄弟であるフォンセ様の派閥の方なのでしょうね。


「リヒト王子っ!それは陛下から王子へとお預かりしたものでっ――」

「あぁ、私はちゃんと一つ頂いた。それならばせっかくの美味いものを、他者とも共有したいと思って何が悪い?」

「ッ!!」


 今の今まで黙ってお二人を睨んでいただけだった大柄な男性が、なぜか焦ったように言葉を発したのですから。間違いないのでしょう。

 けれど一見柔和そうに見えるリヒト様が、鋭く男性を睨んだからなのでしょうね。驚いたように黙ってしまわれました。


(気圧された、というところなのでしょうね)


 優しそうに見えても、やはり第一王子ということなのでしょう。その肩書に見合う眼力を、しっかりとお持ちなのかもしれません。

 それと驚いたまま、頭に汗をかいているのがわたくしからは丸見えなのですが。その焦り方、尋常ではありませんね。怪しいですわ。


「なるほど?ではまぁ、今回はもらっておいて差し上げましょう」

「あぁ。楽しんでくれと伝えておいてくれ」

「あぁ!チョコレートぉぉ……」

「カーマ、仕事の追加だ。今日中には終わらないだろうから、期限が早いものを仕分けてくれ」

「うぅ……はぁ~い……」


 お二人のそんなやり取りに、どこかバカにしたように鼻で笑って。


「では、失礼しますよ」


 入ってきたとき同様、頭を下げることなく背中を向けて去って行く青年と。


「わ、私もこれにて失礼します!」


 焦ったようにその後を追うかのように出ていく大柄な男性。

 結局、お二人ともお名前が分からないままでしたけれど。


「カーマ、ここはいい。至急父上から私に下賜するよう進言した貴族を特定してくれ」

「承知いたしました」


 それよりも急に顔つきから声色から話し方まで変わってしまわれたカーマ様の様子に、わたくしは余りにも驚いてしまいまして。

 気がついた時には、既に執務室の中にはリヒト様お一人になっていらっしゃいました。


(な、なんて素早い……!い、いえ。それよりもっ。今までの様子とはまるで別人ではないですか!!)


 唖然としているわたくしに、リヒト様が一つ笑いを零して。


「カーマはな、本当は優秀なんだ。夜も落ち着いて眠れないほど警戒していなければいけない私についているには、愚か者を装うしかなかった。だから普段はあんな態度なんだ」

『まぁ!ではまさか、先ほどの行動全てカーマ様の計算通り、ということでしょうか?』

「だろうな。チョコレートを先に食べたのも、毒見の代わりだ。まぁ今回ばかりは、私の方が冷や冷やしながら見ていたが」


 どれが毒入りなのか、既にご存じでしたものね。

 それにしても、夜も安心して眠れないなんて。そんなことでは、体を壊してしまいますわ。

 それに!こここそ、わたくしの出番なのではなくて!?


『大丈夫ですよ。夜はわたくしが見張っていますから』

「君が?」

『幽霊ですから、誰にも警戒されませんもの!』


 ただ一つだけ問題があるとしたら、眠くならないかどうか、でしょうか。

 体がないので大丈夫だと思いたいのですが、どうなのでしょうね?



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