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13.命を狙われるような生活、だったんですね

「全く……。仕事が進まないだろうが」

「休憩も大事ですよー」


 当然のように執務室内のローテーブルに用意されていくティーセット。その横には、小さな箱に入ったまま包装だけが取り除かれているチョコレート。

 高級品なのでしょうね。ふたが開けられているそれは乱雑に入れられているわけではなく、一つ一つの間に仕切りがしっかりとあるので、割れることもヒビが入ることもないように工夫されているように見えました。

 その、一番右下は。おそらく中に毒が仕込まれているのでしょう。

 ふたが取り外しの形ではないので、しっかりと上下左右が分かるようになっているのは。一つだけ抜かれている場所にあったチョコレートを、毒見役が間違えずにとれるように、かしら?


『それにしても……。命を狙われるような生活、だったんですね。リヒト様』


 わたくしの言葉になのか、それとも目の前で着々とセッティングされていく状況になのか。ふっと小さく息を吐いたリヒト様は、仕方がなさそうにローテーブルとセットのソファに腰を下ろしました。

 毒入りだと分かっていても、きっと口にしなければならない事情がおありなのでしょうね。


(それはまた、あとでお聞きすればいいだけのことだもの。それよりも今は)


 この状況下で、どうやって毒入りのチョコレートを残してもらうか、ですわよね。


「じゃあお先にいただきますねー」

「本当にお前は……。勝手にしろ」

「はーい。いっただっきまーす」


 どう考えても非常識なのですが、なぜそれが許されているのかが不思議でならないのです。

 ただおそらくリヒト様の従者なのであろう、カーマと呼ばれていたその方は。なんと真ん中のチョコレートを一つ摘まんで、お行儀悪くポイっとお口の中に放り込んだのです。


「ん~~~~!おいしー!」

「よかったな」


 その様子を見ながら、リヒト様は用意された紅茶を一口。そのあとに、同じようにチョコレートに手を伸ばして口へと運ばれました。

 どちらも、右下のチョコレートにはまだ手を出してはいらっしゃいませんけれど……。


(どうしてあの方、ずっと睨んでおいでなのかしら)


 そのチョコレートを持って来た大柄な人物は、なぜか部屋の中でお二人のことを睨むように見続けていらっしゃいます。

 しかもお二人ともにそれが当然かのようにしていながら、その男性の分の紅茶は用意されていないのですから、なおさら不思議で。


(護衛騎士、ではないですよね。剣を持っていませんもの。でもそれなら、どうしてここに留まるのかしら?)


 渡して終わり、にできない理由でも?リヒト様が口に入れるかどうか、確信がないから?

 確かに、その可能性は否定できませんけれど。

 それからどうして、この方は髪を全て剃っておいでなのかしら?顔と頭の区別がつきませんわ。どこまでが額なのかしらね?


「おいしいですねー。さっすが陛下への献上品!」

「父上はチョコレートがお好きだからな。おそらくはお好みの店の物ではなかった上に、大量だからと回ってきたんだろう」

「ラッキーでしたね!」

「お前にとってはな」

「はい!」


 和やかな会話とは裏腹に、どこか緊張感を含んでいるのは異質な存在がいらっしゃるからなのか。

 それともわたくしが、真実を知っているからなのか。


 そんなことを、考えていた時でした。


「失礼。おや、休憩時間にチョコレートとは。随分と優雅ですねぇ」


 今度はノックの音のあとに、返事を待たずに入ってくる若い男性。

 何でしょうね。全体的に、ここには失礼な方しかいらっしゃらないのでしょうか?


(お相手は第一王子だというのに、随分と礼を欠いた振る舞いの方々ばかりですのね)


 とはいえ完全なる部外者であるわたくしが、口を挟むわけにはいきませんもの。

 挟みたくても、リヒト様にしか届かないのも事実ですけれども!!


「どうかされましたかー?」

「あぁ、お前か。フォンセ様より、追加の仕事だ。あの方は忙しいからな。こちらで処理すべきものを持って来ただけだ」


 フォンセ様って、どなたなのかしら?

 そしてその言葉と態度に違和感を覚えたのは……おそらく、気のせいではないのでしょうね。


(なにかが、おかしいですわ)


 そうわたくしが確信を持てるほど、この場所は本来あるべき姿を保てていないのですから。



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