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~幕間~ 第一王子の憂鬱①

「はぁ……」


 執務中につい思い出してしまうのは、先ほど出て行った令嬢らしき幽霊のこと。

 いきなり部屋に現れて、なぜか普通に会話をしてしまっていたが。目覚めた時はいなかったはずなのに、一体いつどこから入ってきたというのか。

 本人に聞いても、私の部屋にいた理由どころか名前すら分からないのだというのだから。もはや、お手上げ状態だった。


「……いや。そもそもなぜ、幽霊と普通に会話をしていたのだろうな、私は」


 そこにまず疑問を持つべきだったというのに、あまりに自然に話しかけてくるものだから。その思考に至るまで、疑問にすら思わず会話を続けてしまっていた。


「警戒は、していたはずなんだがな」


 一瞬刺客かと思ったが、どう考えてもそういった類の見た目ではなかったし。

 なにより、幽霊だからな。正直、よく分からん。


「金の髪に紫の瞳、か。髪はともかくとしても、瞳の色は珍しいんだ。そこからどうにかしてたどり着けないものか……」


 服装からして明らかに貴族の令嬢であることはまず間違いないとすれば、そこから過去の人物の特徴を割り出してみればいけなくはないのかもしれない。

 ただそれをするだけの時間と、動かせるだけの人員が圧倒的に足りていない。

 瞳の色だけである程度は絞れそうだと思ったが、彼女の前で口に出さなかったのはそれが一番の理由だった。


(ただ、なぁ……)


 ある程度絞れるとは言っても、結局はそれは今生きている貴族の髪色や瞳の色から追えば、だ。

 過去の膨大な資料の中から探し出すことは、出来なくはないだろうが難しい上に時間がかかりすぎる。


「死んでさえいなければ、まだ……」

「リヒト様、そのような物騒なことを口になさらないで下さい」

「カーマか。いや、そうだな。悪かった」


 ノックもせずに入って来たカーマ・ディーナは、耳聡く私の呟きを拾っていたらしい。

 本来であればするべき礼が一切ないのは、この男がわざとそう見せているのだということを知っているので、いまさら何かを言う気には別段ならない。

 ただ普段は眠そうに見せている顔つきは、今は元来の真面目そうな表情に戻っていた。


「……何度見ても、その髪は面白いな」

「大変なんです、これでも。私の髪は柔らかいので、なかなかいい具合には跳ねてはくれないのですから」


 貴族としてはあり得ないほど散らかっている薄い茶の髪は、周りからは「ぼさぼさ髪」と揶揄されていたりもする。

 そこにさらに眠そうに見える瞳の青がくすんで見えるからと、能力だけでなく見た目ですら微妙な男だと馬鹿にされているのだが。


 実はそれが全てこの男の計算の内で、そう見せているのだとは。私以外、誰一人知らない。


「その見た目で優秀だとは、誰も思わないだろうな」

「だからこそ、です。こうでもしなければ、リヒト様のお側から外されてしまいますからね」

「難儀だな、本当に」

「えぇ」


 仕方がない、と受け入れてからだいぶ経つが。それでも面倒であることに変わりはない。

 それなのに、なぜかもう一つの面倒事まで増える始末。しかも向こうはどこから来たのか分からないというのだから、本当に面倒なことこの上ない。


「時にリヒト様。追加の書類をお持ちしたのですが、本日中にそちら分終わりそうですか?」

「ん?あぁ、まぁ。何とかギリギリで終わった風を装うから、問題ないんじゃないか?」

「そうですか。安心いたしました」


 面倒事は増える一方。それでも執務がなくなることはない。

 誰から押し付けられているのかは分かっているので、手は抜かない代わりに不必要に求められる以上の能力を見せない必要がある。


(本当に、面倒だな)


 それでも生きるためには、必要な手段なのだから。

 文句など、言ってはいられないのだ。



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