表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

ヒロイン誕生 ~やっとこさ本編~

 



 生まれたわ。




 そう、(わたくし)よ。紫式部。

 ……自分で名乗るのには少々抵抗があるわね。



 まあいいわ。私は転生したんですもの。新しい名前を手に入れたはずよ。

 『はず』ということで察してくれたかもしれないけれど、私はまだ今持っている名を知らないの。


 理由は簡単。生まれてこの方泣くか眠るかの繰り返しだから。

 だって新生児だもの。


 泣いている間は自分の声がうるさくて何も聞こえないし、お乳を飲んでいるときは夢中すぎて、母親のものなのか乳母に与えられているのかさえ分からないわ。

 私としての意識はしっかりあるのに、その時々の行動は赤子の本能に逆らえないの。

 二重人格の二番手のような気分。違うかも。


 筋肉のない小さな体が思うように動かないのと一緒。

 赤ちゃんの体を持てば誰しも泣き叫ぶのよきっと。



 …………そう割り切らないとやってられないわ。







――――――――







 どうやら脱☆新生児。こんにちは赤ちゃんのようね。


 (しばら)くひたすら泣き続けていた時期から、どうにも思考が体に引きずり込まれている気がするわ。

 これまでは睡眠・食事時以外の本体の活動はどこか他人事だったけれど、本体が感じていることと私の意識が連動してしまうようになったの。


 何もなく起きていられる時間は長くなったのに、少しでも気を緩めると思考停止状態になる。

 特に泣いているときは並列思考ができなくなって、お腹が減った・おしめが汚れて気持ち悪い・なんだか気分が悪い・うわああああ等、感覚だけの不快さで私の意識自体が泣いちゃうの。


 泣き出す直前には「ああ、そろそろお腹が空いてきたわ」なんて考えているはずなのに、そのことに気が付いた瞬間「空腹」という状態の理解もどこへやら、体内で感じる違和感にひたすら戸惑ってしまうのよ。

 ……伝わっているかしら?



 言葉で説明するのは難しいけれど、要するに「成長している」のね。

 本体が意識を持ち始めたら、その分魂のみの時間が減るのだと思うわ。

 このままだと成長の過程で完全に私の意識が消えてしまいそうだけど、物心がついたら急に前世の記憶を思い出すパターンかしらね。その頃には完全に別人格になっているんだわきっと。


 我儘で意地悪、高飛車で手に負えない愚かな悪役令嬢に育つこと間違いなしよ!



 産道を進みながら、『生まれてみたら実は男の子で攻略対象! ヒロイン(彼女)をオトしてこっ酷く振ってやり、可哀想な悪役令嬢と共にざまぁ演出』なんて展開を、短い小説が一冊書けるほど妄想したけれど、残念ながら私はこの人生でも女の子のようね。


 まあ私が例えイケメンになれたところで女子が夢中になるようなキャラクターは演じられないからこれでよかったんだわ。


 いえ、少女漫画のヒーローのような甘ぁ~い台詞や所謂萌えシチュなんかは幾らでも思い浮かぶのだけど、自分がやるとなるときっと肌が粟立ってしまう。

(それらは決して現実の男性に求めてはいけないと思うの。実写映画なんかは創作物だけれど、生身の人間(リアル)だからどうしても真顔になっちゃうのよ……。イケメンに限っても無理があるわ)

 それに彼女の好みも知らないしね。



 とどのつまり私は悪役令嬢として彼女と対峙しなければならない。

 自信はないけれど、転生してしまった以上は仕方がないわ。

 せめて無様な真似はしないように気をつけなくちゃ。




 ところで肝心の名前のことだけど、心配したほどおかしくはなかったわ。勿論心底ほっとしたわ。


 どうやら私は「ヴィオラ」と名付けられたみたい。イタリア語圏じゃなくて本当によかった。

 でないと結局「紫」になって、単純明快な記号のようになるもの。


 そうそう、私の容姿は紫色らしいわよ。

 濃い色の髪に、少し赤味が強い瞳。奴の仕業かとも思ったけれど、どうやら違うようね。



「君と僕の色が綺麗に混ざったかのようだ。正に愛の結晶だね」

 だの

「貴方の持つその情熱的な赤が、私の色をこんなにも素敵に変えるなんて。とてもロマンチックだと思わない?」

 だの

「なんて可愛いんだいヴィオラ。君の授かった色はお母様と同じように神秘的だね。さあパパと言ってご覧」

「ずるいわ。私もママがいいわ。ヴィオラちゃん、半濁音は難しいわよねぇ。ママなら簡単だから、いつでも言ってみて頂戴な」


 だのと、しょっちゅう頭上で同じような会話がなされているの。

 つまり父が赤、母が青系統で娘の私が紫ってことね。

 この世界の DNA は絵の具と同じ仕様みたいだわ。


 それを見越して奴が私をこの家に転生させたのかもしれないけれど。



 そして二人はどうしようもなくラブラブだということも既に理解したわ。

 まだよく見えなくてどんな人たちなのかはわからないけれど、少なくとも好感は持てるわね。

 早くママだのパパだの発音して、彼らの喜ぶ顔が見たいだなんて考えてしまうのも無理はないと思うくらいにはね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ