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幕間箔打紙 ~彼女は知らないアレコレ~


 吾輩はウサギである。固有名詞は存在しない。

 今は主に跳官(ちょうかん)と呼ばれているが、下々の気分で変わる。ニックネームというやつだ。

 同僚や上司からも大体そんな感じだ。

 一時期「ぴょん吉」が定着しかけたことがあったが、言い出した奴は見せしめにしばいた。直属の上司だった。


 そんな上司は珍獣。

 最近は建者(けんじゃ)様と呼ばれている。こっち(ダム)の話だ。気にするな。

 我々は世界を管理している。実に多くの管轄があるのだが、まあ天国地獄魔界二次元といった感じだ。

 其方らはそう認識してくれれば()い。



 …………少し飽きてきたから口調を戻そう。「吾輩」なんて軽い気持ちで言っちゃいけないね。

 改めまして。多分皆お察しの通り、転生の舞台を用意した例のウサギ頭だよ。

 僕たちは、僕たちが存在を認識している世界の全てを、様々な形で管理するために生み出されたんだ。

 例えば、魂の循環とかね。まあほとんど神みたいなものだ。創造主ではないけれど。


 生まれながらにして最上位種である僕たちは、他の存在と違って名を持つ必要がない。

 それを不便だと感じるようになったのは、「あの子」の所為だね。

 向かい合って話しているときは「貴方」や「こいつ」で事足りるけど、会えない期間に僕を想って「今頃何をしているかしら」と呟くことさえできない。


 因みに荷物が届いた際は毎度「奴からだわ」と紫輝に教えているようだ。

 毎回違う人参柄スタンプだけで僕からだってわかるなんて、とても愛らしい。また送ろう。




 あの子は誤解しているようだけど、僕の能力は心を読む力ではない。

 いやあまり違わないのだが、正確には、「心を繋げる力」なんだ。


 上級種族は皆そうなんだけど、波長の合うものや信頼し合っている者とは意思疎通ができる。

 読もうと思えば心も読める。ただ、それ以外の者相手には、かなり意識しないと使えない。

 結構消耗するんだよねこれが。


 つまり、あの子は人間だから僕の心は覗けないけれど、あの子に居心地の良さを感じている僕には筒抜けだってこと。

 考えていること全てを知りたいと思うようになってからは、少しの集中で思い描いている映像を共(?)有できるようにまでなった。



 天界の者であれば、信頼してくれている下位種や同位種の心が上位種には自然に覗けて、なんとなく心が通じていても下位種が上位種の心を正確に読むことは不可能だ。

 かなりの信頼関係を築いている場合は例外だが。


(因みに僕には上司が数人いるけど、種族は同じだから、心を読めない相手はいないということになるね。直属の上司に至っては駄々洩れで聞こえてくるから、きっと僕の心も繋がっているんだろうけど、不本意だし気合で拒絶しているよ。無理に覗かれない限りは僕の心は読めないさ)




 さて。時は数年前に遡る。

 異世界転生なるものが下界の物語の定番になった頃、案の定あの子も好んで読んでいるということで、その内送り込もうと、ひとつ世界を作ってみたんだ。


 そして、面白そうだ(彼女一人だと心細いだろう)から、あの子の苦手なある女性を一人招待しようと考えた。

 勿論、嫌がらせではないよ。派閥にまつわる様々なしがらみのない世界でなら、仲良くできるんじゃないかと思ってのことさ。



 話を持ち掛けるために、その女性の屋敷に行ったけれど留守だった。まあ想定内さ。

 すぐ隣にある小ぶりの宮殿(もとは豪華な木造建築だったはずだ)を覗いてみれば、やはり女性はそこにいた。宮殿の主人達と、今日も仲睦まじく過ごしているようだ。

 温室をのぞき込み、お邪魔するよと声をかければ、中でお茶会をしていた三人は快く輪に入れてくれる。

 すぐに僕の分の飲物も用意された。今日は煎茶のようだ。

 この空間に、寿司屋風の湯飲みはミスマッチだと思うけど。



 別に機密情報ではないから、女性にはその場で話を持ち掛けたんだ。

 異世界転生を再現したら面白そうだと考えてるんだってね。

 まだ誘ったわけじゃないけど、彼女は美しく微笑んで


「参加いたしますわ」


 と言った。食い気味だった。


 まあ、話が早くて助かる。

 この女性ならばノリノリで承諾してくれそうだとは思っていたけれど、二人も丸め込むのは手間だからね。

 二人も、と言うよりはこの女性に対しては、あまり好んで労力を割こうとは思わないだけだけど。

 いや、それはほとんどのことに対して同じことが言える。



 とまあ彼女の参加は無事取り付けることができたのだけど、



「楽しそうね」「興味深い話だ」


 とこちらはゆったりと穏やかな微笑みがふたつ。

 完全な第三者目線の感想に聞こえなくもないが、こちらに向かう視線には、隠しきれ(そうとしてい)ない期待が混じっているのがわかる。

 何も問題はない。どこかでそんな予感もしていた。



「あなた達も参加す――「「喜んで」」」


 とても食い気味だ。

 転生者三名、一丁あがりィ!



 幾ら乗り気だからと言っても、ある程度の説明はせねばなるまい。




「舞台は異世界ファンタジーの王道、中世ヨーロッパ風の世界だけど、衛生設備は完備されている。そして世界観は――」

「悪役令嬢役でお願いします」


 またしても美しいほほえ、、満面の笑みだなこれは。心なしか強い圧を感じる。


 確かに主人公(ヒロイン)はこの女性ではない。()()()()()()()、所謂「乙女ゲーム」を参考にした。と説明を続けるつもりだったから、文脈も間違っていない。

 つまりまだ悪役令嬢の「あ」の字も口にしていないわけだが……。



(わたくし)は名実ともに貴方と結ばれる運命がいいわ」

「そうだね。私達(わたしたち)の間に障害は必要ない」


 こちらはこちらで二人の世界を作り上げてしまっている。

 僕が関与できるのは彼らの出生までなのだが、まあ身分年齢が相応であれば自ずとそれぞれの望みの通りになるだろう。

 あの子にヒロインを全うするつもりがない以上、悪役令嬢の方はどういう風になるか知らないけどね。



 ところで彼らはヒト族の筈なんだけど。。



 その後は二人と一人それぞれの妄想や意気込みを聞かされて、あっという間にお茶会は終わりの時間を迎えた。夕食にも誘われたが遠慮した。


 彼らと過ごす時間は嫌いではないが、彼らのことは苦手だ。得体が知れない。

 読もうと思えば彼らの心も読めるし、種族としてのスペックは僕の方が高いはずだけど、それすら凌駕するような何かを持っている気がする。






 職場に戻ると、彼の女性の映えぐらむが更新されていた。

 どうやら本日の晩餐はイタリアンだったらしい。

 炭水化物とやたらお洒落な装飾が多めの豪華な食卓の写真とともに、



『今日は珍しい方がお茶会に参加してくれたの

 勿論、素敵な手土産を携えて(emoji smile)

 いつもより賑やかで楽しい時を過ごせたわ!

 

 近々素敵なサプライズがあるみたい

 とっても楽しみ♪


 新しい世界も素敵なお二人と共に

 Wish upon a star ☆.*。


 #イタリアン

 #チーズ

 #手料理

 #石窯ピザ

 #キャンドル

 #異世界転生

 #悪役令嬢

 #主従の絆

 #丁寧な暮らし

 #フォトジェニック

 #写真好きな人と繋がりたい        』





 という、やや()()()()文章が投稿されていた。

 まあ、天界随一の映えぐらまーである彼女は皆の憧れだから、これが模範なのだろうが。


 それにしても、これまた掴み所のない言い回しだね。

 手ぶらで訪れた僕に対する嫌味なのか、僕を揶揄うために敢えて皮肉を含ませたのか。

 まあ、きっと後者なんだろうけど。


 彼女の場合はそれに加えてきっと、「手土産」はなかったけどそれに代わる旨い話を持ってきてくれたからプラマイプラス!合格よ!っていうちょっとした言葉遊び程度の表現で、実は素直にお気に召しているという要素も入り混じってくるだろうから面倒なんだ。

 たった一言から予想される可能性が、どれも合っているかもしれないし、どれも違うかもしれないという事象は、僕たちにとって複雑すぎる。だから心も読みたくない。



 そして何より、なんでも発信せざるを得ないカリスマ根性が厄介だ。

 「サプライズ」について匂わせのるは百歩譲っていいとして、「新しい世界」はもう大ヒント極まりないよね?? こっちにも計画があったんだけど。。


 「一大プロジェクト始動」、「全ては少女の一言から生まれた」、「実行は三日後」、「乞うご期待」とか!! 壮大な告知 PV 作る予定だったのにさ!


 極めつけは、さりげなさを装って付けられたタグ!

 異世界転生って言っちゃってるし。悪役令嬢って言っちゃってるし。

 公式よりも先に大々的に発表したも同然なんだけども。。



 まあ肝心のあの子はSNSをやっていないから大丈夫だろう。(宣伝のインパクトはもう諦めよう……)

 昔、ツブヤキーを非公開にして想いを垂れ流す、「オンリー・ロンリー・呟きニスト」に挑戦したことがあったようだが、わざわざネットワークの海に放流する必要はないと思い至ったらしい。

 非常に残念だ。ほら、僕に開けられない鍵は無いからさ。


 他人の呟きにも全く興味がないあの子だから、呟きツールで誰かがゲロっても問題ない。

 それなのに、彼女好みの下界の呟き出身の作品は余すことなく購入しているのだから不思議だ。

 プレゼントを考える側の身にもなってほしいね。

(まあ特例で購入申請は僕を通させているから、下調べはそれほど難しくないけど)


 天界の時事にも無関心だし、向こう十年は確実に、掲示板や各種コミュニティツールを覗くこともないと見た。

 つまり完璧。あとはタイミングを計ってあの子を丸め込むだけ。

 その前にちゃちゃっと他の魂を見繕って、時間差とかも計算しなくちゃね。




 中央公式ホームページの管理はあいつに任せ(丸投げし)ようそうしよう。




「という経緯(いきさつ)があったのさ☆ あの子には内緒だよ」

「誰に何を隠しているのですか?^^」

「やあ若紫。君は気にしなくていいよ」

「しつこいわ。私の駄作文は強制的に読まれたのにずるいですわ!!」

「わかったよ。僕の文章も今度見せてあげるから、今日のところはトランプ・キャットの新作マスコットで許してくれない?」

「…………(ぱあああ(*゜∀゜*)ああああ)…………仕方ありませんね」

「随分長考したようだね(ちょろすぎるんだよなあ)」



――――――――――


男はあまり上品な人間ではありません(人間でもありません)。

それでも醸し出す高貴な雰囲気。解せぬ。




サブタイトル・・・枕草子から連想した、幕間紙まくあいのかみが初案。視点はウサギだけど。

草子と比べて(紙の枚数も内容も)ぺらっぺらだと言いたかっただけなので、深い意味はありません☆

強いて言うなら、酷い作品だけど薄くて良い紙使ってるからトイレットペーパーが切れたときにでも再利用してやってよって感じですぅ


箔打紙≒あぶらとり紙

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