幕間 ~紫式部の日記(という名の設定解説回)~
私はどこにでもいる平凡な女の子☆
庶民よりはちょっと身分が高いけれど、貴族の中では大したことないのよ。
生前は縁戚の彰子様の女房をしていたわ。
諱は秘密☆ 字は「藤式部」だけど、現代では「紫式部」が一般的のようだから、便宜上後者を名乗っているの。
平凡とはいっても、普通よりは賢いわよ? 才女というやつね。
「源氏物語」はもちろん知っているでしょう?
ただ、当時は女性の賢さを良しとしていなかったからなんの自慢にもならない。
自分の教養の高さをひけらかしつつ、平仮名ばかり使って謙虚を演じていた彼女は随分やり手よ。
…………いっけなーい☆ 話がそれちゃったわね!
ここからは、私の天上でのこれまでについて軽く記していくわよ☆
本編にはあまり関係ないから読み飛ばしても大丈夫!
プロローグに面倒な前提匂わせちゃって、キャラクターにくどい説明させるとか、物書きとして一番有り得ないんだけど~チョベリバ~
とにかく、ごく普通の私だけど、一応生前活躍したってことで安易に魂を空っぽにするわけにはいかないらしくて、死後の生き方(?)について選択権が与えられたわ。
折角だからお言葉に甘えて、人格を維持したまま天上での暮らしを満喫しているってわけ。
因みにほとんどの著名人が魂の再利用を望まないらしいわ。生前積んだ徳も虚しく、一度記憶を消された魂の行き先は完全にランダムのようだから当然ね。
ちょっとした特別扱いだけど、その分手続きはうんと面倒だったわ。
通常の事情聴取(という名ののホームビデオ鑑賞)や自分亡き後の現世の観測などの死亡自覚過程(しかも行列)、地獄見学(罪人認定された人は体験)ツアーや信仰外の宗教の世界展等々の記念特典に加えて、戸籍登録や所在地の設計、天上での生活の事前講習といった数々のチュートリアルをこなさなければいけなかったの。
生活が始まった後も、家のリフォームや容姿の変更を希望する場合や用意してほしいものがある場合はその都度申請しなくてはいけないけれど、最近は「選べるデザイン」の充実だったり、「インターネット受付」や「熱帯雨林」をベースにした手続きの簡略化が進んでいるから随分楽になったわね。
そもそも下手な設計図を書いてもイメージ通りの家ができるのだから、これらの手続きが本当に必要なのかは疑問だけど。
屋敷の掃除や料理は自分でしてもいいけれど、基本的にはその辺に沸いて生まれる「何か」がやってくれるわ。
作り方や材料を理解、または完成形を一度見たらそれ以降は完璧に再現することができるから、料理本や下界から取り寄せたものを渡せば、私たちの望んだものを用意してくれるってわけ。
例えば調味料や洗剤、スキンケア用品などの消耗品や、現物を見たことがある型の洋服のデザイン違いなども、いちいち中央に注文しなくても手に入れることができるわ。
お願いをした分誰かが残酷なおねだりをされることも無いようだから安心ね。
天界ではその辺の雑草のような扱いだけれど、正直下手な下級種族よりも優秀だと思うわ。
彼らは決まった姿を持っていないらしくて、見る者のイメージが反映されるようね。
初めの頃は、私の目には人形代(紙人形)の姿に見えてたのだけど、某小僧と美しい其方が出てくるアニメを見てからはカタカタと首を振る白い精霊にしか見えなくなったわ。暗いところで見かけると少し怖いのよ……。
そうそう、紫輝のことだけど、彼女も初めはその辺の「何か」だったわ(彼らの名称は無いの。私にとって何かわからない何かって意味よ。嫌だわ、ゲシュタルト崩壊しそう)。
彼らは基本的に私たちに対して好意的なのだけれど、中でも彼女は飛び抜けて私のことを好いてくれているようで、用のない時でも私にべったり付いて回っていたの。
そのうち私の方も憎からず思えて来て、例のウサギ頭に尋ねてみたわ。
彼曰く、基本的には仕事を熟すだけの彼らの中に稀に彼女のような知能の高い個体が居て、それらは名を与えることで下級種族へと進化するらしいの。
まだ実際に下級種族というものを目にしたことがなかった私には、彼らと下級種族の違いなんて判らなかったけれど、ならば名を与えれば良いのねとその場で彼女に名前を付けたの。
「人形代が進化→式神になる」というイメージが強かったから、式神の式の字からとって「シキ」と。彼女はその場で飛び跳ねて喜び、くるくると回りながら去っていったわ。
アレは本当に知能が高いのかしらと疑問だったわ。
その日はもう彼女の姿を見ることはなかったのだけど、次の日の朝目覚めたら枕元に進化した彼女が座っていたわ。
とってもスレンダーな姿の女童らしき何かだったわ。
彼女と目が合った瞬間叫びながらブラックアウトした私だったけれど、薄れゆく意識の中で彼女の真っ白な頭部を眺めながら理解したわ。ああ、シキなのねと。
顔面一杯に太い文字で紫輝と書かれていたから。
「そんな大層な字を与えた覚えはないのだけど!!!」
と叫びながら目覚めたときには両脇から覗き込まれていたわ。
起き抜けに気を失った私を心配した紫輝が大層慌ててウサギ男を呼び寄せたらしい。
紫輝には悪いことをしたと思うけれど、奴に寝顔を見られたことは今思い出しても腹が立つ。
一旦彼を追い出し身支度をしてから一応麦湯を出してもてなしたけれど、二日連続彼とお茶をしたのはあれが最初で最後よ。そしてこれからもあり得ないんだから。
彼の言うことには、どうやら進化した紫輝はまだ不完全のようだったの。
姿かたちが完成しておらず、顔が無いから言葉も話せない。
まあそうよね。アレが完成形だったら千年以上一緒に生活なんてしていないわ。
ただ、人形代の時と違って誰の目にも同じ姿に見えていたんですって。
まずは、元同僚(?)達を含む様々な者に名前を認識されることによって存在を安定させて、漸く下級種族に成るらしいわ。
そのための第一歩が、名を貰うということだったってわけね。
ファンタジー小説によくある、精霊に名前を付けることでその姿を認識できる。といった仕組みと似ているわね。
明らかに違うのは、名付け親の特別感かしら。だって、他の者の力に依るところが大きくて、与えられた音に勝手に当て字をすることができるなんて、要するに私はただの過程にしか過ぎないじゃないの……。
――こほん。まあとにかく最初の二日間は名札付きの細長お化けでしかなかった彼女だけど、三日目の朝には今の姿になっていたわ。今の姿と言っても当時は平安風メイクだったけれど。
(そう。三日目に突然人間の姿になっていたのよね。溜めた経験値を一気に消費して一晩のうちに変化でもしたのかしら?言ってくれたら見に行ったのに。)
そんなこんなで晴れて下級種族の仲間入りを果たした紫輝だけど、お喋りが可能になったこと以外に機能面での変化は大してなかったわ。
いえ、元々の能力値が高いから充分なのだけれど、やっぱり下級種族とその辺に居る彼らの差がわからないわ。
(いろんな意味で)「存在感」の差であろうことはわかるけれど、私の知る下級種族たちは能力が低く扱いづらい、如何にも下級って感じの者が多いから、それよりも程度が低いとされている「何か」達の方が優れて見えるわ。
ダントツの上級種族である「奴ら」よりもね。
でも紫輝も、能力は高いとはいえ「何か」達よりも実はアホなんじゃないかって場面が多々あるから、言葉を話すか否かで受ける印象が違うってことかしら。
内心で「仕事だり~」って思っていたり、実は大して働いていない個体がいても、おんなじ見た目で物を言わずに何かしらやっていたら総じて真面目に見えるって現象。
差詰スペックの低いお掃除ロボと、会話機能はついているけどプログラム通りの返答しかできない人工知能の違いってところかしらね。
人工知能の方が高度な技術が組み込まれているけど、有用性に関しては劣っているっていう。
そういえば、彼女と「何か」達の大きな違いとしては他にも「自身のための申請」と「下界の観測」があるわ。
下界に存在するものに興味を抱いたとき、主である私が欲しがらなくても自分で入手することができるの。
特に家電なんかはこちらで生み出すことができない(工場がなくてもトイレットペーパーを量産できたり、受信機がなくても電波が届いたり、水道管がなくても蛇口から水が出たり、あらゆる出鱈目がまかり通っているこの世界で何ともおかしな話だけれど。きっと魔法的なパワーじゃどうにもならないとかそんなところね。)ようだから、私に組まれた予算から最新のものを購入しているわ。彼女ミーハーなの。
……やっぱりなんだか出世に利用されたような気分だわ。
結論:紫輝は私の侍女。割と何でもできる。長い付き合い。たまにアホ。
そして彼女の言う「主」には、なんだかペットの名前を呼んでいるようなニュアンスがある。
あとは、紫輝以外にもいろいろしてくれる存在がいる。
長くなってきちゃったから纏めたわ。別にそろそろ面倒になったとかではないのよ。
…………
べっ、別にっ!そろそ(ry ないんだからねっっっ!!!!
ウサギ頭については割愛するわ。鬱陶しいってことだけわかってくれたら充分よ。
え? 彼の上司の見た目について知りたい? あんまりお勧めしないけど、、
簡潔に言えば間抜け面の(笑顔の可愛い)ゴリマッチョよ。(おっといけないてへぺろ☆)
頭部から胸毛にかけてはダムと揚げあられを作れるげっ歯類で、見事なマッスルボディを携えているわ。
装備は褌一枚で、色白のガタイとちょっと小顔気味の無害そうな表情のアンバランスがたまらなく気色悪いの。
さあ、知ってしまったからには想像してみて。
足元からは風。色白の脚は少し(?)筋肉質だけれど、まだわからないわ。
素敵なおネエさんか、霊長類最強系美少女かもしれない。
「ちらりと見える下着は白!」
「お。Tバックですねぇ~。」
「バックがTのタイプのあれですね!? ――おおぉーーっとここで! ざっくり開いたドレスからはみ出る豊満な胸毛が現れたァッ!! 最早その下の巨乳は目に入らない!!! ……なんとなーく嫌な予感がしてきましたがどうでしょう?」
「いやぁここまで来たら予想は出来ますよ、美女が現れるわけがない。」
「さあ、それでは覚悟を決めて視線を上げ―――― 」
「「…………」」
あらやだ放送事故だわ。カラーバーに切り替わっちゃった。
自分で生み出した想像でも、あのリアルなのに妙にデフォルメチックな顔面が現れるとなんも言えねくなっちゃうわね。
親の顔より見ているであろう彼でも未だに慣れないらしいわ。
そもそも彼らに親がいるのかは怪しいところだけれど。
この辺で勘弁してくれるかしら?
我ながらわけわかめな作文になったわ。忘れて頂戴。
「キャラが安定していない上にイメージが古いね……。」
「無茶振りをしておいて文句を言わないでくださる??? それに貴方は過去に行けるのだから、平成に戻って読まれたら如何? きっとナウい筈ですわ」
(平成は平成でも、大分遡らなくてはならな―― )
「何を考えているか大体わかりましてよ!!」