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始まってしまった説明会 ~主催者直々のネタばらし~


 心を読まれているくらいで、少女があれ程動揺するはずがないのだ。

 思考を読んだその先に、男は何かを企んでいるのだ。




(嫌な予感がするわ。これ以上聞いてはいけない。話題を変えましょう)



「君は察しが良――」「今日はいい天気ですわね!!!」


「「…………」」


「誤魔化すのは苦手なようだね。まあ、確かにいい天気だ」

「あ! ほ、ほらあそこで紫輝しきが昼寝をしておりますわ。待機に飽きてしまったのね」


(よかった。話題に乗ってくれたわ)


「きっとそのつもりで特大サイズのピッチャーを用意したんだね。おかわりを入れてあげよう」



 少女が扱うには少々重たいため、男が代わりに持ち上げる。

 勿論侍女も、主人が持つことはないという前提で毎度この大きなピッチャーにギリギリまで茶を入れておく。

  ――ちなみに保冷効果があるため、グリーンなティーは常にひえひえである。まさにご都合主義である――


 この庭の茶会では、少女のカップが空く度に男が甲斐甲斐しく世話をするのが最早恒例化しているが、二人がお茶目な侍女の目論見に気付いたのは今回が初めてである。

 彼女が話を聞いていれば「お客様め、余計な事を」と上品に舌打ちしたであろう。

 が、生憎彼女は安らかに眠っているため、知らぬが仏状態である。



「ありがとうございます。ミントは爽やかで()いですね」

(やっぱり気になるわ、、)

「そうだね。最初はこの清涼感に違和感を覚えたけど、いつしか暑い日はこれがないと過ごせない程になってしまったよ。この庭から取り寄せたミントで従者に淹れさせているんだ」

「存じておりますわ。ミントティーは比較的簡単なので、誰が淹れても美味しくなりますもの。やっぱりミントは素晴らしいですわ」

(いったい何を企んでいたのでしょう。)

「そのはずなんだけど、やっぱりこの庭で飲むものは格別に感じるね」

「紫輝はお茶を淹れるのが上手いですからね。どんな茶葉でも完璧に仕上げてくれますよ」

(紫輝はお菓子作りもお料理もプロ並みなのよ!!)

「君と過ごす時間がそう感じさせるのかもしれないよ」

「環境も影響するかもしれません。貴方のところのお庭にもハーブをたくさん植えてみては?」

(やばいこちらも話を変えなきゃ! この手のウザ絡みは15年に一度で充分よ!! えーっと。話題話題、、)

「そんなことをしたら会えない時間、君のことばかり考えてしまうよ。今以上にね」


(げぇっ! もうおなか一杯! そもそもなんて答えるのが正解なのよ!! あっそうとしか言えないわよ!! こういう茶番を繋ぐ模範解答なんて「光栄ですわ」くらいしか浮かばないから毎回無視を決め込んでいるのに!)


 心の叫びが男に筒抜けなことを考慮できる少女ではなかった。

 そしていつものように、並列思考で考えていることを口にする。

 そこにはもう先程までのぎこちなさは見られない。

 好奇心を隠すのは苦手な少女だが、男との噛み合わない会話は得意なのだ。内心でいくら焦っていても、涼しい顔で呼吸するように言葉が出てくる。


 しかしそれがいけなかった。


「ところで先程は何を企んでいましたの? まさか異世界転生を再現するおつもりかしら?」

(それはちょっと安直すぎね。いくらなんでもそんなわけがないわ。一体どんな恐ろしいたくらみを…………???)


 自身の発言に対して、少女の頭に疑問符が浮かぶ。一拍おいて、「しまった」という顔をした。

 実際そう思ったし、心の声は男に届いている。


「ご名答。やっぱり君は勘がいい。」


 少女の並列思考は、二列がせいぜいなのである。



(まずいまずいまずい。ヒジョーーーーーにまずい。)

「でしたら(わたくし)は嫌われてしまいますわね。お帰りはあちらからどうぞ。紫輝には後で伝えておきますわ」

「僕はどんな君でも愛せるよ」

「…………」

(もう何も言えないわ。彼女なら「光栄ですわ」以外のノり方ができるのでしょうね。こういうやり取りに慣れていそうだもの)


 少女は笑顔を保てず、げんなりとした表情だ。


「君が興味を持ってくれたなら、実行するしかないね。大丈夫、悪いようにはしないから」


 男はもうこれ以上ないくらいのイイ笑顔である。



(実行? そういえばさっきご名答って、、もしかして、本当に異世界転生を再現するの? というか決定事項なの?)


「実行、とは何のことでしょう? というか私は関わりませんよ。巻き込まないということでしたらお話は伺いますわ。」

「うーん、その選択肢はないなぁ。ぶっつけ本番の方がいい?」

「そんな! 断る権利はありませんの!?」

「僕が考えた設定はね、ありがちだけど中世ヨーロッパ風の舞台で――」

「あーーあーーー!! 聞こえませんわ!」

「もちろん君のライバルは彼女だ」

「……それで釣られたりはしませんよ?」

「トイレなどの文明レベルは現代日本に合わせてある。君達は完全に下界の科学技術に染まっているからね」

「合わせてある? 合わせるつもりの間違いですわよね? そうと仰ってください!!」

「流石に世界観を壊すようなもの、例えば自動車なんかはないけどね」

「令嬢に馬車は必須ですものね。っっってそうではなく!」

「千年以上の歴史がある世界だから、独自の物語なども数多く生まれているよ」

「沢山の、物語……」

「女流作家はまだ少ないけど、ちょうどこの頃女名で活動する者も出てきたようだ。」

「待ってください! まるで、既に舞台となる世界が存在しているような口ぶりではないですか」

「勿論準備は抜かりないよ」

「貴方も、小説の中の所謂神のようなことをしていたのですか? というか出来るのですか……?」

「まあ僕にできないことは、、あんまりないね」


 少女はこれ以上何から問い詰めればよいのかもわからず、明後日の方向に視線をやる。



「実を言うと、君がその手の小説を好んでいると聞いたときにね、いつ君が転生してみたくなってもいいようにと用意していたんだ」

「直近じゃないですか。そもそも転生してみたい等と言った覚えはありませんわ」

「僕たちが時間を操作して、現在から過去を行き来してることは知ってるよね?」

「ええ、死者の記憶の中で風化してしまった過去を観測するためだと伺っております」

「まあそれが大義名分だね。下級種族や死者同士の間で言った言わないの喧嘩が起きた時や、同僚の黒歴史を掘り返して嫌がらせする時などに使うこともある」

「普段無意味にうろうろしていることも存じております。しかし、過去に干渉することは出来ないのでしたよね?」

「そう。未来を変えてしまいかねないからね。その辺は下界の認識と同じだよ。同じく起こっていない未来を見ることも不可能だ」

「でしたら千年前に遡って新しい世界を作ることは規則違反なのでは?」

「まったくの新しい世界を創造するならば未来も過去も関係ない。他の全ての存在と交わらない、それが異世界だろう?」

「では私が経験した時空以外に、他にも様々な世界線があると?」

「まさか。本来僕らにそんな発想はないさ。初めから存在しているものを管理しているだけ。それらは一見別の世界に見えても、お互いに影響し合ってはいるからね。」

「? つまり創作物の中だけのものを現実に変えた?」

「見たもの・聞いたものを生み出すのは簡単さ。パラレルワールドだって作れるけど、人間が思い描くものがそのまま実現するだけだ。彼らが新しい仮説を立てたらその分小難しい仕組みになるんだよ。君たちは本当、想像力に()けている。」


 少女は開いた口が塞がらない。生み出す? 作る? どうやって!

 そのプロセスを考えることが一番難しいのではないか。存在する(かもしれない)ものを解明するほうがずっと勝算がある。

 初めから存在しているものを管理しているだけならば、彼らにとって世界を一から作ることは未知の作業に当たるはずだ。


「言っただろう? 僕にできないことはあんまりないのさ。新しい発想、というのがその数少ない1つだね」

「……人間の脳内はどこまでも自由なのですよ」


 少女は考えることをやめた。彼らとはそういうものなのだ。理解しようとするのは時間の無駄だ。

 粘土で土台を作って魔法をかけるとかそういった方法なのだろう。もしくは頭に浮かべて願えば発現するとかだ。


「イーセー王国の概要はこんなものかな。詳しいことは向こうで学んでね」

「何ですかその妙ちきりんな国名は」

「僕が考えたんだ。王族の名前でもあるね。初代国王は神の子で、カイと名付けた。彼自ら国土や国民を生み出してくれたよ」

「やだダッサイ。生物学全無視ですし」

「君の故郷も似たようなものだろう? 神工(じんこう)(?)の世界のプランクトンが地球と同じ進化を遂げる保証は無いから、完成形から作った方が確実だ。流石に、太陽系のレプリカを幾つも用意して条件の合ったものを利用する、なんてめんどくさいことはしない。」

「二択が極端すぎます……」


 少女は彼の発言にもう突っ込みは入れまいと心に誓う。キリがないのだ。


「参加希望者は彼女の他に数名いる。あとは個人的に面白そうな魂を複数送り込むつもりだから、君は展開を観察しているだけでも楽しいと思うよ。」

「転生者だらけではないですか! 私要りませんわよね?」

「君がいないのは都合が悪い。物語が始まらないよ」

「やはり悪役令嬢ものということですのね。他にはどんな方が? やはり有名な偉人でしょうか。厩戸皇子(うまやとのみこ)様とか」

「皆有名人ではあるけれど、君と同じ時代に生きていた者だけだ」

「ほぼ知り合いではないですか!!」

「いくらお互いの前世を知っていても、向こうでは別の人間として生きていくのだから、ちゃんとそのつもりで接してね。特に、魂のみの者たちは前世の記憶を切り離してあるし」

「白々しいごっこ遊びのようですわ、、」

「まあものは試しさ。因みに彼らはほとんど彼女を振り回す存在として採用したから、君は是非平安転生者(?)以外の者たちと交流を深めてよ」

「所謂攻略対象たちというわけですか」


(まあ君の言う設定で、ヒロインとしての彼女への嫌がらせなら、君が攻略対象者である彼らと恋に落ちるのが確実だろうけどね。それこそ都合が悪いから教えてあげないよ)


「勿論、元となるゲームが存在しないからシナリオの強制力は発動しないし、起こり得るイベントなんかの情報もない。向こうの世界に住まう人々はキャラクターではないから、皆自分の意志を持ってそれぞれの人生を生きている」

「それはただの転生ですわね」

「バッドエンド回避のために奔走したり、ややこしい裏設定を謎解きしたりするのは疲れるだろう?」

「単に複雑なストーリーを考えるのが面倒なだけでは?」

「そもそも思い浮かばないとも言う」

「高クォリティーのパクリしか能がないのでしたわね」

「そんなに褒めないでよ」



 目まぐるしい展開に、少女はいつの間にか参加の意思が無いとを訴えることを忘れていた。

 何ならつい先ほどの誓いもどこへやら、なのである。


「というわけだから、今から君を転生させるね。「ちょっと待っ――」 向こうで命を落とした場合はまたこの庭に戻って来る。正式な人生ではないから、死後の面倒な手続きも不要だよ。「そういう問題では――」 状態保存のために、こちらに存在する物質に流れる時間(とき)は止めておくから大丈夫。「それをご都合主義だと言っ――」 正直、上がこの計画に大層乗り気でね。早く実行しろって(うるさ)かったんだけど、君のための世界だからと黙らせていたんだ。だから今日君が自ら興味を持ってくれて助かったよ。」


 光に包まれて今にも消えようとしている少女へ、男が一方的に話す。




 少女は悟った。風向きを変えたのは自分だった、と。









「大丈夫。また会えるから。だから、それまで暫しの別れ――――」




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