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王都の風景 ~文学少女の無自覚~




 遂に迎えた今日この日――――



 案の定準備は恙なく、昨日の昼過ぎには終わった。

 昼食を兼ねて前夜祭(どんちゃん騒ぎ)が開催され、空が茜色になる前に解散した。


 そして今朝も早くから街には多くの人が集まってきている。

 屋台も既に稼働しており、各地にある我が商会の支店には既に大勢の予約客が記念品セットを受け取りに殺到しているそうだ。

 パレードが始まればそれらの店員もこぞって観覧に集中するのが目に見えているから早めに用事を済ませるのだろう。


 本店である我が家は今日は閉店で、広場の特設店舗のみでの営業だけど、次から次に受け取り客が訪れている。

 予約済みのセットを受け取るついでにポストカードや記念硬貨などの小物を追加で購入している者も少なくない。呼び込みをする人手すら足りない。

 たまたま長年贔屓にしていただいていたからこその幸運なので、利益率は最低限の価格設定である。とトムが教えてくれた。


 早くから営業しているほかの屋台も、売り上げのためというより待ちきれずそわそわしている都民と一緒に楽しみを分かち合うという目的が強い。



 今日は私もあまり手伝えることがないので、広場の催しを楽しんでおいでとお父様にお小遣いを渡された。

 なんとなくうろうろしていると、学園で見かけたことのあるご令嬢子息もちらほらと居るのがわかる。

 高位貴族の方々は王城に招待されているけど、そうでない家やデビュタント前の子供たちはお留守番だと聞いた。


 他家の高貴な人間までもが朝早くから待ちわびる成祝祭は今日を除けば王家のものくらいだ。

 それほどまでに大人気のお嬢様に、私はフライングで一度お会いしているのだ……!


 改めて考えるとものっっっっすごいことである。

 どのくらい凄いかというと、小等部5年生では凄さを計りきれない程である。



 とにかく、あの夢のような尊い記憶とこの後のパレードに思いを馳せながら、感情をフル稼働させていると


「ジョイじゃねーか!休みとれたのか?」


 わっと青年たちが盛り上がる声が聞こえた。

 ジョイという名前が耳に入り、昨日の笑顔が脳裏をよぎる。

 ――商家の娘は人の顔を覚えるのが得意なのだ。


「いや、今日は使用人全員が休みなんだ!従者とか傍についてなきゃいけない人たちは流石に別だけど」

「よかったな!けどよ、屋敷を全員留守にして大丈夫なのか?」

「それが旦那様、鍵を掛ければ大丈夫って仰ってさ!流石だよな」

「「「かっこよすぎるだろ!!」」」


 彼らの会話に、周囲からも「流石公爵様!」などといった声が上がる。


 我が国の城下は王城を中心にぐるっと町が囲み、エリア分けされた各地区に同じくらいの割合で貴族の屋敷と平民の居住区が存在している。

 治安の差を少しでもなくすためにと大昔の王様が提案した独自の立地なのだそう。――と、二年生で学んだ――


 そのため私達平民は各地区に住まうお貴族様に親しみを持っている。

 勿論領主と領民のような関係こそないが、お屋敷で働く使用人などはかなり身近な存在なのだ。

 私は昨日初めて彼を知ったけど、街の人の多くが彼をグレイフォード公爵家の使用人だと知っているみたい。



 トムやダンさんたちと仲がいいようだから、学園ではなく小学校に通っていたのだろうか。

 トムは見かけのわりに若い。昨年中学校を卒業後うちに来て二年目だ。

 彼はトムやダンさんより小柄だけど、何よりとても大人っぽい。


(……成人男性にとって十歳はきっとお子様ね。)


 来年で中等部だと、もうすぐお姉さんだと思っていた自分が急に幼く感じられた。

 関係ない筈なのになんだか気分が少し落ち込んだ。

 さっきまであんなに高揚していたのに。



「お前はお嬢様を見慣れてるんだから、パレードは俺らに場所譲れよ?」

「見慣れるほど見れてねーし、それとこれとは別だろ!!」


 彼らの賑やかな笑い声に、ここにいる目的を思い出す。


(そうだ!お嬢様のパレード!とっても楽しみ!!)


 そわそわした気持ちが戻ってきた。

 あと二時間後にはクラスメイトの女子数人と合流してパレードが始まるまで屋台を巡る約束をしている。

 貴族の子もいるけど、みんなきっと集合時間よりも早く来るだろう。

 お嬢様の姿を一目でも見れるといいな。そうすればその愛らしさを皆とも語り合え――――


「あ、トムのとこのお嬢さん!」


 彼の目がこちらを捉えた。


 彼を眺めたまま考え事をしてぼうっとしていたから、その目に映った自分は間抜けな顔をしていたのではないか。

 小学生だって女の子だ。中途半端な表情で人と目が合うのは相手が誰だって恥ずかしい。


 だからか――少し頬が熱い。


 だけどとっっっっても嬉しい!!!




 少し曇っていた彼女の表情が、夏の陽に照らされ輝いた。











 ――――――パレードの開始まで、あと五時間。




彼女の予想通り彼らは同じ小学校出身です。


ただしトムは16歳(になる年)、ジョイは13才。社会人歴は同じですが完全に弟分です。


因みにダンさんとジミーさんは17歳です。(誰得?)




ジョイの見た目と職務中ははともかく、素の性格は年相応にお子様ですが、、、恋はなんとやらってね。笑

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