初めての誕生日 ~重大発見~ (前編)
目が覚めたわ。
昨夜は両親の部屋で眠ったようね。
そびえ立つ柵の両脇から二人が覗き込んでいる。
「うちの天使がお目覚めだよ」
「今日も世界一可愛いわ」
「てんし」は誉め言葉。よく言われるわ。
「可愛い」は生まれてすぐに思い出した。世界共通語よ。
うちの親はちょっと大げさだと思うけど、悪い気はしないわね。
それにしても朝から彼らが揃っているのは珍しいんじゃない?
「まーま、ぱっぴゃ」
目が覚めて一番最初に視界に入ったのが彼らだということに、にやにやを隠せないままそう呼びかけると二人は蕩けそうな笑顔で朝の挨拶をしてくれる。
そのままパパに抱かれ、――どうやら談話室へ向かうようね。
「今日は従伯父様たちがいらっしゃるのよ」
「子供たちとは年が近いから、仲良くなれるかもしれないね」
ほう。いとこーじ?耳慣れない単語が聞こえたわ。
談話室では既にじぃじとばぁばが寛いでいた。
パパに降ろしてもらって駆け寄る(三歩)。
「じぃじ!ばびゃ!」
「おはようヴィオラ。今日もご機嫌だねぇ」
「可愛い」はなかったけれどじぃじもばぁばもニコニコしてるわ。
ヴィオラとして過ごしていく内に意識と感情はほとんどリンクしたのだけれど、視覚以外の情報処理が本体ベースらしくて、全く結合しないの。
自分の行動は意識が把握しているから説明できるけど、外からの情報は何故かうまく理解できない。
いっそ思考も完全に赤ちゃんになってしまった方が違和感がないと思うんだけど。
でも時々ヴィオラ経由の情報を意識の方で整理できると達成感がすごいのよ。
「だんわしつ」の音、いつもみんなで集まることなどから、この部屋と「談話室」が一致したのも最近のこと。
紫式部だった頃に利用したことも無いのによくわかったと思うわ。
今日はお休みの日?朝からずっと皆一緒に過ごしている。
普段あんまり会えないパパがたくさん遊んでくれるのは嬉しいけれど、じぃじとばぁばも揃っているのは珍しいわね。お昼寝の時間も過ぎてしまったし。
「もうすぐ船が付くころだね」
「アルフレッドさんが先程迎えをやっていましたよ」
パパと従者の人の会話に、ママが反応した。
「夕食が待ち遠しいわ!私たちもそろそろ着替えましょう」
するとその場は解散になり、私もナニーと一緒に子供部屋に戻った。
そう言えば何度かお客さんが来るというような話をしていたから、今夜は晩餐会が開かれるのだろう。
いつもは寝る前にママが会いに来てくれるけど、今夜は無理そうね。
子守唄を聞きながら揺られて眠くなってきたもの。
――そういえば私、夕食をもらっていないわよ!!!
空腹で目が覚めて、久しぶりに大泣きしてしまったわ。
すぐにナニーが抱き上げてくれたけど、どこかに連れていかれるみたい。
私はご飯が食べたいのだけれど!
大泣きは長続きせず、精一杯不機嫌な顔をして見せるけど、ナニーはなんだかご機嫌。
「お嬢様~、いよいよですよ~」
微笑みかけてくるけど安心はできない。
お昼寝なしで夕方早い時間から寝かしつけられるなんて、よく考えたらおかしいわ。
階段を降りると、入ったことの無い部屋の扉の前でママが待っていた。
「ヴィオラちゃんお腹が空いたでしょう?もう少し待ってね」
ママが私を受け取って笑顔を見せるものだから、なんだか私も嬉しくなってきた。
ナニーがノックして扉が開かれると
「「「ヴィオラちゃん(様)、誕生日おめでとう!」」」
大勢の声と突然の音楽に驚いて、自分でも口が開いているのがわかるわ。
大広間は豪華に飾り付けられ、簡易的なステージや、軽食が載ったテーブル、ドリンクコーナーにオーケストラまで居た。
何が何だかわからず見回したところ、パパやじぃじ達の他にも知らない人が何人か居る。
その中でも特に異彩を放つ集団は、なんと着物を着ている。
……いや、誰? 世界観に合わないでしょ!
この場面だけ見ると、下界のセレブの結婚披露宴のような、ミスマッチとは言い切れない光景だけど、とても中世ヨーロッパをイメージした異世界には見えない。
何より仲良く寄り添う、殿様風の男性と大奥風の女性は下界のパーティーに居てもおかしいと思う。
拍手を浴びながら、あれよあれよという間にステージの上に運ばれる。
抱っこはパパにバトンタッチされた。
「皆、今日はありがとう。明日でヴィオラは一歳になる。僕たちの宝がすくすくと健康に育ち、成祝祭を迎えてくれることを何よりも喜ばしく思う」
「今日は私達だけでヴィオラを独占よ。皆遠慮せず目一杯パーティーを楽しんでくださいな」
パパとママの言葉に、会場が湧いた。
音楽が再開し、私はステージの目の前に設置されたふわふわのラグと低い丸テーブルのスペースに運ばれた。
小さなケーキの前の赤子用椅子に座ると、蝋燭に火が灯され会場が薄暗くなる。
あ、これあれだわ。誕生日だわ。
皆「おめでとう」って言ってたもの。
バースデーソング(?)を聞きながら視線を上げるとステージに大きな画面が現れていた。
私が映っている。蝋燭の光が揺らめいているから、リアルタイムの映像だわ。
ハイテク過ぎない?スクリーンの映像なのかしら。
「「「おめでとう~!!」」」
歌が終わって、ああ火を吹き消すやつねと理解したけれど、うまく息を吹きかけられない。
するとパパとママが
「「せーの」」
と一緒に火を消してくれた。
会場が明るくなり、ママがケーキを食べさせてくれる。
お腹がペコペコだったことを思い出してきれいに完食したわ。
リンゴとヨーグルトの味でとても美味。
じぃじやばぁばと一緒に近くで見守ってくれていたお殿様と大奥風美女が私の向かいに座って、
「初めまして、小さな姫君。一歳おめでとう。」
「おめでとうヴィオラちゃん。これからの成長も楽しみにしているわ」
「おめでとう」を言ってくれた。
衣裳は浮いているけど、とても優しそう。やたら体格の良いお殿様は頭を撫でてくれた。
あら?そういえば彼、ちょんまげではないのね。
「子供たちを紹介しよう」
「梨瑚、慶瑚、いらっしゃい」
近くにいた子供たちが、着物姿の女性に手を引かれて来た。
二人とも煌びやかな和装で、男の子は少し緊張気味のようだ。
「はじめまして!私りこ!びおらちゃんお誕生日おめでとう!」
女の子は元気いっぱいって感じね。
イントネーションが他の人と違うから、こちらの世界にも方言があるのかもしれない。
関西弁っぽいから京都がモデルかしら?
「お誕生日、おめでとうございます」
小さな声で、それでも目を見て言ってくれた男の子は、大奥風の女性に抱き着いて顔を隠してしまった。この子は訛ってないのね?
二人ともお殿様たちの子供のようだけど、お姉ちゃんの方だけが訛っているのかしら?
それにしても、赤子相手に緊張なんてしなくてもいいのに。
「梨瑚も慶瑚も、ありがとう。おばちゃんとおじちゃんにハグしてくれるけ~?」
ぎょっとした。
ママが訛ったわ!似合わないにも程があるでしょう!!
普段からお姫様のようなママだけど、ドレスアップした姿はより洗練されていて、ママの声を持つ別の誰かが放った言葉だと思いたくなってしまう。
でもこれでわかったわ。和装の人たちはママの地元から来たのね。
挨拶をしてくれた家族がママの関係者ってことね。
女の子は思いっきり、男の子は控えめに、腕を広げたママとパパに抱き着いた。
とても微笑ましい光景だわ。
「まーー!んぱあ!!」
「やーん!ヴィオラちゃんもハグしましょ!!」
「ほんとにもう可愛すぎるよ。おいで!」
ちょっとうらやましくなって私も腕を伸ばしてアピールする。
可愛らしい姉弟に嫉妬して威嚇するなんて、そんな大人げない真似はしませんけどね。
せめて仲間に入れてほしいってのが娘ゴコロですわ。
「さあ、梨瑚ちゃんも慶瑚君もそろそろお腹が減っただろう?」
どうやら私の両隣にはこの子たちが座るようね。
あらあら、お子様ランチ?だわ。
二人とももう目をキラキラさせちゃって、思わずにやにやしてしまうわ。
彼らの方が大きいけれど。
私に出されたものはバナナ。
さっきのケーキでお腹いっぱいだから、まだいいやと姉弟を観察していたら、
「さあこれからヴィオラの成長記録を鑑賞しよう。軽食や飲み物もあるから、皆自由に楽しんでくれ」
パパの声で私の名前が聞こえたと思ったら、ステージにお腹の大きなママが映し出された。
「この日はヴィオラが初めてお腹をを蹴ったんだ」
「生まれたばかりよ! 何もかも小さくて―――― 」
「――――――――」
「――――――」
次から次に写真が切り替わっていく。その度にパパやじぃじ達が何か話しているみたい。
どうやら私の写真がメインらしいわね。
画面に映る赤子が少しずつ大きくなって見覚えのある姿になってきた。
会場の皆は笑顔で画像を眺めているけど、よその子供のアルバム(?)を見て何が楽しいのかしら……。正直恥ずかしいからやめてほしい。
両隣の童も食い入るように見ていて、姉の方など時折「可愛い!」や「ちっちゃい!」と歓声を上げている。まあ、悪い気はしないけど。
梨瑚と琳佳の発音
文章ではわかりませんが
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おめでとう・ありがとう
て感じです。因みに京都弁ではありません。
読んでくださっている方へ
ひと月以上放置して本当に申し訳ありません
もう少しヴィオラ幼少期にお付き合いください
間隔空きすぎて我ながらドン引きです。。。
作者の卒論が終わるまで物語は殆ど進まないであろう~~~
ってトレローニー先生が仰ってました。
先に反省しておきます。
今回あまりにも長すぎたので後編を後程公開します