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グレイフォード家の仲間たち ~トクベツな日の朝の光景~


 夏の朝は早い。王都に隣する港はすっかり東雲色に染まっている。

 この時期港では、一日の始めに皆で集まり海を眺めて過ごす住民が多いそうだが、王都の者の多くは、季節を問わず早朝に優雅な時間など持たない。


 大抵、朝の支度に勤しむ者か、仕事を終えてぐったりしている者か、まだまだ起きる気配のない者に分けられる。



 起きている者たちにとって生活の境目は一番慌ただしい時間である。

 一日の終わりと始まりが交差する朝も例外ではない。

 空の色の移り変わりなぞに注目する暇はないのだ。



 しかし今朝はいつもと様子が違うようだ。


 グレイフォード邸地下の使用人エリアにて。




「いよいよ明日ですね!お嬢様の誕生日!」

「そうね。でも今日を乗り越えてからよ。なんてったってこの家の本番なんだから」


 使用人達の中でも一番朝の早い調理場で、キッチンメイドのマーサがいつも以上に張り切っている。

 明日はヴィオラの誕生日。誰もが知るビッグカップルの第一子が無事に生後一年を迎えることに、国中が祝賀モードなのである。



 この国では「生まれた子供が一年間無事に過ごせた」ということを祝う習慣があり、各家庭でのパーティーに加えて、月に一度各地域で一歳を迎えた子供たちを一斉に祝う祭り(成祝祭)も開催される。

 領地を持つ貴族や、地方有力者の子供であれば誕生日当日に住民が総出で祝うこともある。


 三公爵・王族の子女の成祝祭は誕生日当日に王都で開催されるが、身内でのパーティーは前日に行われる。

 そのため、料理長のラングスターが言うように今日がグレイフォード家にとっての本番にあたるのだ。



「おはよう皆。今日は忙しくなるだろうけどよろしく頼む」


 執事のアルフレッドが調理場に顔を出すと、厨房係たちは皆心得たと頼もしい笑顔を見せた。


「ラングスターさん。お子様方の食事はあちらのナニーが到着次第打合せを」

「わかったわ。こちらは大丈夫だから、一旦お茶にしたらどう?」


 琳佳の妊娠発覚以来になる大物ゲストの滞在を控えて、アルフレッドは夜明け前から食器類の手入れやワインのチェックをしていた。

 毎晩欠かさずやっているにも関わらず。


「いや、もうすぐ朝食だから結構だ。ありがとう。ところでジョイはまだかな?」

「よふふぃふぁふぃふぁ(呼びました)?」

「……急ぎの用ではないから、支度を終わらせて来なさい」

「あらまあ。まさかあの子、歯を磨きながらうろうろしていたの?」

「まったく。フットマンにするには早すぎたかもしれない」


 庭師の息子のジョイは長年、小学校に通っている間の放課後や休日、卒業後も毎日グレイフォード邸へ通い下働きをしていたが、見目が良く背の伸びも早いため、先日13歳の若さでフットマンに昇格されたのだ。

 それに伴い現在は居住区に一室を与えられている。


 今日はジョイにとって初めての、客人を招いた晩餐会である。

 これまで主人たちの前で粗相をしたことは一度もないが、いつも以上に大事な場面で緊張した彼が何かしでかさないかアルフレッドは心配しているようだ。




「ねえみんな!配達のダンも、郵便のジミーもお嬢様の成祝祭を楽しみにしていたよ。準備の準備をしている近所の人たちも二人についてきて、僕に声を掛けてきたんだ。すごいと思わない?」


 朝の受け取りを終えたジョイは朝食の席でいの一番に口を開いた。


「それはそうだろう。奥様と旦那様は多くの人から愛されていらっしゃるから、ご息女のヴィオラ様が無事に一歳を迎えることを皆自分のことのように喜んでいるのだよ」

「祝福の気持ちを関係者とシェアしたかったんでしょうね。教えてくれてありがとう。旦那様に伝えておくよ。きっと喜ぶ」

「あまり実感はなかったけど、凄い家に仕えてるんだよなあ。さっきのを見ちゃったらみんなが羨むのも納得」


 アルフレッドと、公爵の従者であるオースティンの説明を聞いてジョイは感心しているが、そもそも一般人にとっては公爵家に仕えていること自体が大変な栄誉なのである。

 それを自覚している他の使用人たちは、主人の評判を誇らしげに聞いていた。

 準備の準備とはいったい何だろうと思いながら。



――食後


「我々は日頃から素晴らしい方々のお世話をしている。その質は王城の使用人にも劣らない水準だが、今日からお迎えするのも大変高貴な方々だ。くれぐれも失礼のないように、心して取り掛かろう」


 久々の大仕事を前にどこかウキウキしているアルフレッドによる宣言と共に、使用人たちの一日が始動した。

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