とてもデキる侍女ぷれぜんつ ~ヒロイン様観察記録~
ここは天上。
わが主がおわす御殿――
ではなく洋館――
とも言い難い、異国情緒あふれる小綺麗な民家でございます。
本日は数年~百年に一度は訪れるお客様からの前触れがあったため、主ご自慢の庭園にお茶の準備をしております。
美しい花々が咲き誇る薫り高いこの庭園にはもちろん四阿が……
あるはずもなく、張り巡らされた石畳の小道の先にある作業用の広いスペースに、ガーデンテーブルと椅子とパラソルを設置しただけの会場でございます。
柔らかい日差しを浴びて輝く植物達は観賞用のものではございませんが、一年の中で最も美しい景色になると言えるこの時期を好んで彼の方は訪れるのです。
……ああ、一区画向こうには一応春咲きの薔薇も見えますわ。
主がいらっしゃいました。いつも通り一足先に始められるご様子。小説を読みながらしずしずとこちらへ向かってこられます。
あの格好でながら読書をしていても危うさを覚えさせず、かえって見惚れてしまう程美しい佇まいは、ある種の才能でございますね。
たまに壁にぶつかっておいでですが。
お客様がいらっしゃる際、主は必ず十二単を召されます。
小道は広くできており、十二単を纏った主でも余裕で通ることができるのですが、ヨーロッパ風(←主曰く)のこの空間とは些か不似合いかと思、、いえ。なんでもありません。
さらにパラソルにガーデンチェア、些かおもしろ、、やばい主が睨んでくる。
慌ててなどいないわたくしはごく自然な微笑みを貼り付け、主のカップにお茶を注ぎます。
取れたての若いミントを蒸らした自家製のグリーンなティーでございます。
本日は少々暑さがございますので、ひえひえ仕立てです。
主は少し唇を尖らせながらも一口召し上がり、満足そうにうなずかれました。
さらにスリーティアーズから木苺味のマカロンを一つ取り差し出すと、顔を綻ばせてお食いつきあそばされます。
なんと愛らしいのでしょう。これだから給仕はやめられません。
皆さまお気づきかと思われますが、テーブルの上は完璧なアフタヌーンティー状態でございます。
百年以上前に取り寄せたセットで、しばらくは忘れ去られていたのですが、近年下界の女子に人気だということで再ブーム到来(㏌わたくし界隈)なのです。
自分で用意しておいてなんですが、海用パラソルの下平安貴族がカラフルなスイーツを召しあがるご様子は、なんともこっけ、、いや夢のこらぼれーしょんでございますねぇ……。
ごめんなさい足を踏まないで!!
――そんなこんなで読書をする主を愛でておりましたところ、漸くお客様がいらっしゃいました。
「やあ若紫」
今回は十五年ぶりの再会。
お二人の時間を邪魔せぬようわたくしめは少し離れて、育ち盛りの美しい植物達を収穫することにいたしましょう。
こちらからは以上でございます。
皆さまはわたくしの位置からでは聞こえない会話を、是非現場でお楽しみください。
はじめまして。おしみず ちとせ と申します。以後お見知りおきを。