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婚約破棄




 北部にある辺境の地は、冬になると雪が積もり辺り一面真白になると噂では聞いていたけれど、何て美しいんだろう──。


 初めて目にする光景にキョロキョロと忙しなく視線を動かし、流れ行く景色を堪能していると、馬車横に近付いてきた護衛騎士に「大人しく座っていてください」と一言告げられ、馬車の窓を閉められてしまった。


 子供の様にはしゃいでしまったなと恥ずかしくなった私は、浮かせていた腰を深く座席に落ち着け、これから会うであろう辺境伯は一体どの様な方なのだろうかと思いを馳せる事にした。



◇◇◇



「お前の婚約は破棄された」


 久々に呼び付けられ、今度はどんな無理難題をふっかけられるのかと身構えていれば、飛び出てきた言葉に一瞬思考が停止した。


「シュレイン様からは新たにライラとの婚約を結びたいと申し出があってな。バッハール前侯爵に義理立ててお前との婚約関係を続けていたそうだが、ご本人は昔からライラを想って下さっていたとの事だ。前侯爵亡き今、従う理由も無しと仰られていたよ」


 父は「残念だったな」などとうそぶきながら本題へと移った。


 曰く、侯爵令息であるシュレイン様との婚約が破棄された私はとうに適齢期を過ぎているため、今更縁談話など来るはずもないだろうとの事。いつまでもこの家で面倒を見る訳にはいかないのでせめてもの情けで嫁ぎ先は見繕ってやったのだから感謝するように。お相手とはやりとりも済んでいる。準備に一日だけ待ってやるから今すぐ荷物をまとめて明日の朝には出発しろ──というものだった。


 私に反論の余地など与えないように捲し立てた父は、用は済んだとばかりに追い払うような仕草で部屋からの退室を促す。

 元々反論など許されない事は分かっていたので「かしこまりました」と一言だけ発し、そのまま自室へと戻った。


 まとめる荷物はそれほど多くはない。元々私物として買い与えられた物はあまり無く、服も数着を着回していたので全てトランクへ詰め込んだ。母からもらった唯一の形見でもある植物図鑑は多少重くかさ張るけれど、置いていくときっと処分されてしまうのでこれは絶対に持って行こう。

 図鑑を作業机から取る際に目に入った道具をそっと撫でた。

 丁寧に扱い手入れも欠かさず十年近く使い続けたそれらは、祖母からもらった物だった。私の『ギフト』を活かせるのではと、幼い頃にプレゼントしてくださったのだ。

 本当は道具類も持って行きたかったが、今までに書き溜めたレシピと共に置いていくよう父に言われたのでぐっと堪えて目を背ける。


 お母様やお祖母様、それに先日亡くなられたバッハール前侯爵様との約束が果たせなくなった事を申し訳なく思う反面、どこか肩の荷が下りたような気分になる自分に自己嫌悪するが、感傷に浸っている場合では無いと止めていた手を動かし荷造りを再開した。



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