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起床編

純情ヤンデレには天然ボケキャラ彼氏が似合うと思いませんか?

「ふふっ、おはようレイくん」


 目が覚めた時、彼女の顔は間近にあった。


 長く黒い髪。シミも皺も無い張りのある白めの肌。シャープな眉にスッと伸びた鼻。


 切れ長の目にある黒い瞳が、僕の顔を、瞳を、真っ直ぐに捉えていた。


「今日は晴天よ。良く眠れたかしらァイタァッ!」


 それに気付いたのは、僕が起き上がったせいで互いのおでこをごっつんこしてからだけど。


「おはようニホドちゃん。昨日も言ったけど次からもうちょい離れない?」


 ズキズキする額を擦りつつ提言する。


「ふふふっ、レイくんの顔を近くで見たいから明日もこの距離にいるわ」


「痛かったでしょ?」


()わ。それでもあなたの側に()()わ。そう言()()()わ」


「そうですか」


 彼女――――――【ぬしニホド】は上手い事言った感を出していた。額を擦りつつ。






 僕こと【浅井あさいレイ】の一日はニホドちゃんから始まる。


「朝ごはん出来ているわ。顔とお口を洗って一緒に食べましょう?」


 いつからこの光景に慣れたのか忘れたけど、この前『目覚まし時計が壊れてて~』と遅刻の言い訳をしていたクラスメイトに『どうして起こしてもらえないんだ……?』となったくらいには長いようだ。


「父さんと母さんは……」


「ふふっ、その2人ならもうとっくに――――――」


ニホドちゃんの不敵な笑み。ま、まさか……2人とも……




「お義父とう様はお仕事に、お義母かあ様は健康のためにジョギングしていたわよ」


「やっぱり?」


 実家暮らしである僕の家に平然と上がり込んでいるニホドちゃんだが不法侵入ではない。両親ご公認の彼女なのである。


「ふふふっ、今日もお義母様からレイくんの事をよろしく頼まれたわ。精一杯レイくんのお世話をさせてもらうわね」


 よっこらせ、と僕の体を起こしてくれるニホドちゃん。


「あーありがとうニホドちゃん。でも自分で起きられるから大丈夫だよ。なんか介護されてるお爺ちゃんの気分になるから」


「ふふっ、レイくんが事故や病気になった時のためよ。そう――――――レイくんが動けなくなっても、ね」


「ニホドちゃん……」


 怖い顔になるニホドちゃん。ま、まさか僕がそうなるとでも……


「ふふっ――――――



 

 そんなレイくんの姿を想像したら辛くなってきたわ。悲しいわ。ずっと健康でいてね」


 涙を流すニホドちゃん。純情。


「あ、うん。じゃあ僕、洗面所に行くから」


「ふふふっ、私も着いていくわ」


 宣言通り僕の後ろに着くニホドちゃん。僕の後ろを追従してくる。


「ふふふふふ」


 三歩くらいしか離れていない距離を、ずっと着いてくる。後ろからずっと僕を見ている。


ずっと着いてくる。


ずっと見ている。



 以前『これゲームでよく見るやつ~』と思い、デバッグよろしくグルグル回ってみた事があった。


『う、うふふぅ、ふふふぅぅ』


 結果、ちゃんと着いてきてくれた。目も回していた。


『うぅぅふふふぅ、レイくんが楽しいのなら私も嬉しいわ』


『あ、うん。大丈夫?』


『大丈夫じゃないけどレイくんが心配してくれたから大丈夫になるわ。なったわ』


『あ、うん』


 そんな実験結果を思い出しつつ、洗面所で僕は顔を洗い歯磨きをする。そんな僕をニホドちゃんはガン見している。


「そういえば。ニホドちゃんって恋愛漫画とかでよくある目覚めのキス~みたいなの、しないんだね」


「ふふっ。本当はしたいのだけれど、寝起きの口内環境はとても悪いのよ。だから我慢しているの。私、賢いでしょう?」


 なるほど~ためになるな~。



「じゃあ口以外にキスするのは駄目なの?」



「ふふっ……ふふっ全く思い付かなかったわ。

 さすがレイくん、天才の発想よ。まさにコロンブスの卵、高校卒業の頃には世界をも変える発明をするのかしらね」


「あ、うん」


 耳が赤くなっている、おそらく恥ずかしさを隠すつもりで褒め殺そうとしているようだ。ニホドちゃんは抜けてる所がある子だ。


「ふふっ、明日から目覚めのキスを顔中にさせてもらうわね」


「あ、うん」


「それはそれはもう、めちゃめちゃキスするわ。おでこも頬っぺたも、ちゅっちゅちゅっちゅするわ」


「わーうれしー」


 何故だろう、眠ってる飼い主を起こそうと顔をペロペロ舐める子犬を連想した。






 歯磨きも終わり、僕達は食卓へと足を運ぶ。そこには鮭の切り身や味噌汁などのTHE・日本の朝食が並んでいた。


「今日もおいしそうだね」


「ふふふっ……そう言ってもらえて私、嬉しい。頑張った甲斐があるわ」


 確か中学くらいからニホドちゃんが朝食を作ってくれるようになったのだ。母さんが「楽できて助かる」と笑っていたし。


「はい、ゴツゴツのアハンよ。違うわアンアンのゴハツよ」


「アツアツのゴハン?」


「それよ」


 お茶碗にホカホカな白米をよそって渡してくれるニホドちゃん。言い間違えがわざとなのか天然なのか分からない。アンアンのゴハツ is 何?


「「いただきます」」


 うーむ、毎日ニホドちゃんの手料理を食べているのだが全く飽きる気配がない。いつも美味しくて大満足だ。



「……あれ、この味噌汁の味いつもと違う?」



「ふふっ気付いた?」



 僕の反応にニヤリとするニホドちゃん。何かを混ぜたような――――――


「ま、まさか……!」


「ふふふふふふふふふふふ……そうよ、レイくんを想って私――――――




 レイくんの苦手なニンジンを入れたの」


 まるで自分の血を入れてましたとでも言ってのけたかのようなドヤ顔。実際はとても家庭的だ。


「なんてことだ……でもすんなり食べられる」


「スープに溶け込ませてあるのよ。レイくんはニンジンの食感が苦手だからそうしたの」


 僕を凄く観察しているからこその調理。参りました。



「ん、この食感は……?」


 口の中に噛みきれない違和感。これはおかしいと指で摘まんでみると――――――



「え……髪?」



 長い1本の黒髪。僕も母さんも髪は短いし、父さんはハゲだ。僕も将来ハゲるのか心配だ。


 それはそれとして、だとすればこの髪の主は1人しかいない。


「に、ニホドちゃん……?」


「ふ、ふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふ」


 俯いたまま肩を震わすニホドちゃん。これはまさか――――――ッ!?





「ごめんなさい、調理の時に混じっちゃったみたい、本当にごめんなさいあの、ほんとごめんなさい」


「やっぱり?」


 涙目で謝るニホドちゃん。ニホドちゃんは髪長いし多いしニホドちゃんだからそういう事もある。


「あの、残していいから」


「大丈夫だよこれくらい。美味しいし」


「ごめんなさい……」


「ううん、これくらいどーってことないよ。ニホドちゃんが僕のためを想ってくれてるの、ちゃんと知ってるからさ」


「レイくん……好き(好き)」


 他の料理には入ってなかったし、全部美味しかったので完食した。


「ご馳走さまでした。今日もとても美味しかったよ、ありがとうニホドちゃん」


「好き(レイくんありがとう大好き)」


 ニホドちゃんはときめいた表情に。瞳にハートマークが浮かんでいるようだ。


「そういや、好きな人への料理に髪の毛やら血やら入れるって話を聞いたことあるなー」


「私はそんな事する気ないわ。不衛生だし相手にも料理にも失礼ですもの。私が入れるのはレイくんへの愛情よ」


 ニホドちゃんは真面目だなぁ。


「かー照れますな」


「もっと照れていいのよ」


「照れ過ぎて……照る照る坊主」


「ふふふっ、私の心はレイくんの存在で毎日が晴天だと伝わっているのね」


「あ、うん」


「つれない態度に私の心は雨になったわ」


「ごめんごめん許して」


「はい晴天」


 ニホドちゃんは天気より分からないけど分かりやすい。


「さてと、着替えなきゃ」


「ふふっ、そうね」


 学制服姿のニホドちゃんと違い、まだパジャマのままの僕は自室へ戻って学校へ行く準備を。






「あったあった」


 部屋に入るとタンスの前に畳まれ積まれた服が。ニホドちゃんの気遣いだ、慌てずに済むから助かるなー。


「物を置くなら定位置を決めておく。これ、整理整頓の常識よ」


「んでニホドちゃんは僕の着替えを堂々と覗きですか」


 当然のごとく後方待機しているニホドちゃん。


「覗きじゃないわ、もしタンスが倒れてきたり、窓からテロリストが入ってきた時でも咄嗟にレイくんを助けるためよ。あと眼福だからよ……駄目?」


 ニホドちゃんは言い訳が上手くて正直者だなぁ。ボディーガードならもっとソーシャルディスタンス保っているはずなのに僕のうなじまで鼻息が届いている距離なのはどうなんだろう。


「そこまで言われちゃあ、恥ずかしいけどまぁ……でも見てて楽しい?」


「レイくんは私の着替え見たい?」


「見たい」


「そういうことよ」


「く、論破された」


「論破しましたふふふ」


 見たい。


「……よし、着替え完了」


 パジャマを脱いだパンツ一枚状態すら監視されつつも、無事(?)制服着用。


「今日も制服を着たレイくんはさまになっているわ。パジャマ姿も可愛らしくて好きだけれど、制服姿は格好良くて好きよ」


 毎日聴いてる褒め言葉。そうだ、論破された腹いせにニホドちゃんをからかってみよう。


「なら――――――パジャマ姿の僕と制服姿の僕、どっちが好き?」


「レイくん姿のレイくん!」


 僕じゃない姿の僕とは……


「例えレイくんの姿が変わっても私はレイくんを愛するけれどね」


「あ、うん」


 やっぱりニホドちゃんには敵わないや。


「はい、鞄と体操服入れ」


「ありがとうねニホドちゃん」


 準備済みのニホドちゃんから僕の分を受け取り、2人で玄関へ。


「あら、学校へ行くの? 行ってらっしゃい」


 玄関にて、丁度ジョギングから戻った母さんと鉢合わせ。


「うん、行ってきます」


「ニホドちゃん、今日もレイと仲良くしてあげてね」


「はい、お義母様。命を懸けてレイくんを御守りさせていただく所存です」


「あらまあ。レイも『俺が守ってやるぜ』くらい言ってあげたら?」


「いざとなったら僕や警察とか病院とかが守るぜ」


「公共機関に守ってもらえるなんて、レイくん素敵……!」


「2人がいいならいいかー」


 呆れたように母さんは僕達を見送り、リビングへ向かった。


「じゃあ行こうか」


「ええ、行きましょうレイくん。でもその前に――――――」


 僕の両頬に手を添えて、互いの顔を対峙させたニホドちゃん。


 そして――――――唇と唇が触れ合った。


「……行ってきますのキス」


 目と目で通じ合う感情。


「ニホドちゃん……好き」


「私もレイくんが大好きよ」


「じゃあ僕は大大大好き」


「なら私は超超超大好きよ」


「じゃあじゃあ僕はスーパー・アルティメット・ウルトラ・マックスオーバー・リミットブレイク・ハイパー好き」


「ならなら私は真・究極・無限・完璧・天上天下・風林火山・大胆不敵・電光石火・寿限無・完全勝利・未来永劫・唯一神レイくんすこすこ強襲型・市街戦仕様・改」


「はよ行けや」


 母さんに急かされてしまった。


「ふふふっ、お義母様に怒られてしまったわね」


「だね。それじゃ行ってきまーす」


 玄関を出て、登校。


 2人、並んで歩いて、腕を組んで。


「ふふふっ、私幸せだわ」


「うん、僕も幸せ」


 僕とニホドちゃんの、こんな日常。

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