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必要な人間なんです!

「これでようやく一段落か」


 モニターには愚弟が異形狩りを殴り飛ばす姿がはっきりと映っていた。

 激しい破壊音を響かせながら壁に激突した誡斗は、埋まったままピクリとも動かない。

 その光景に満足げに鼻を鳴らす。


 とある薬を投与して以降、剛己の能力は飛躍的に向上した。九ミリを数発防ぐのがやっとだった硬化能力は、見ての通りマグナム弾ですら多少のダメージで済ませる。その他身体能力も上がり、都内に剛己以上のミュータントは存在しないと、毛嫌いしながらも認めざるを得ない。

 その一撃を生身で受けて無事でいた者はいない。

 四肢が折れ曲がり、身体が潰れた死体もある。そういう意味では五体が無事なのは珍しい。もっとも、壁に埋まった部分がどうかは分からないが。

 とにかくこれで異形狩りの看板もおしまいだ。


「……ん?」


 ふと、映像の中で何かが動いた。

 瓦礫か? と思って無視しようにもどこか違和感がある。

 誡斗の周りの壁が細かい欠片となって落ちる。それだけ――いや違う。

 だんっ! という音が聞こえた気がした。

 映像の中の誡斗が、自らの手を壁に押し付けたのだ。


「ちっ……まだ生きているのか」


 誡斗は死にかけの芋虫みたいにモゾモゾと壁から離れ、その場に崩れた。

 だが事切れはおらず、どうにか立ち上がろうともがいている。


「おい、無抵抗のガキ一人殺せないのか貴様は」

『うるせえ。ったくなんで死なねえんだコイツ』


 剛己が近づき、蹴りを食らわす。

 サッカーボールのように跳ねた誡斗は、それでも動きを止めなかった。

 血だらけだ。吐血もしている。内臓や骨だって潰れているはずだ。

 大方、剛己がわざと時間をかけているのだろう。晶を苛立たせる為の単なる嫌がらせだ。


「なんで? どうしてこんなことするんですか?」


 こんなもの見続けても面白くないし、シャワーでも浴びて寝ようかと考えていると、声がかかる。

 花莉奈、とかいう異形狩りの女だ。

 彼女は顔面蒼白になりながら晶に問う。

 これで抵抗しているつもりなのか? あまりの可愛らしさに思わずにやける。


「彼がいけないんだよ。ただの便利屋程度ならまだしも、異形狩りなんて大層な名前でいい気になって、私の仕事の邪魔をする。今年だけでも彼のせいで十件も契約を切られてしまった。はっきり言って迷惑だ」

「そんなことで……」

「そんなこと? 私が雇うことで救われるミュータントが大勢いるのだよ。考えてもみたまえ。彼はミュータントとなれば見境なく噛み付く狂犬だ。今やミュータントとの共存は不可欠。事実、過去に恐れられ嫌われていたミュータントを使った私の商売は年々業績を上げている。人類もミュータントを必要としているのだよ。にも関わらず未だにミュータントを排斥する動きはある。であれば、彼らを救ってやっている私と、殺す彼。どちらが社会的に有意義な存在かは一目瞭然ではないかね」


 現に表の社員達は晶に感謝している。仕事を与えてくれた、ミュータントに理解のある社長だと。


 ……そうだ。私は上に立つべき人間なのだ。


 剛己のような暴力装置なんかより、誡斗のような見境のない殺人鬼なんかより、世に必要とされている。


「……貴方の言うことも、一理あるかもしれません」

「ふふふ、理解してくれたかね」

「でも、貴方がしていることはミュータントを利用した犯罪です! 業績だって、悪い事をして上げてるだけじゃないですか。ミュータントを使った? 救ってやっている? とてもミュータントの為を考えた言葉じゃありません。

……貴方はミュータントを支配したいだけじゃないんですか?」

「なんだと……?」

「それに彼は狂犬じゃありません。貴方達のような、悪いことをしているミュータントから人々を救っているだけです。誰かがやらなきゃ誰も助からないから、何もしないで傷付く人を見たくないから! 見た目よりずっと優しくて繊細な人なんです。貴方なんかよりも、ずっと必要な人間なんです!」


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