雨が好きになったのは。
いつからだろう。
雨がすきになったのは。
澱んだ灰色の空が、美しく見えるようになったのは。
あれは、まだ俺が小学二年生の梅雨の時期。俺は帰りたくなくてバケツをひっくり返したような雨が降っているにも関わらずブランコに座っていた。両親は共働きで、帰ってきてもいっつも喧嘩ばかりだ。俺はその光景を見ているのがすごく辛く、ストレスになっていた。父さんと母さんが離れ離れに暮らすことになるのはうすうす勘づいていた。本当は離れ離れになるのが怖かった。前みたいに三人で笑顔になりたいと願っていた。
俺は知らない間に涙がこぼれていた。すると傘を持った少女が、
???「大丈夫?」
俺は声のする方に顔を向けた。声をかけてくれたのは、隣の家に住んでいる幼馴染の武藤 海菜だった。
海菜「大丈夫?」
俺「海菜ねぇちゃん!!」
海菜は俺の2個上である。俺にとって海菜はお姉ちゃんのような存在なのだ。
海菜「どうしたの?春秋」
俺「あのね…」
俺は海菜に全てを話した。「そんなことがあったの・・・」と親身になって聞いてくれた。それが俺はうれしかった。
海菜「正直に言ってみたら?春秋の願いを。」
俺「うん!言ってみる!海菜ねぇちゃんありがと!!」
俺は土砂降りの雨の中を勢い良く走って行った。
俺が家に帰ると両親はすでに帰ってきていた。また今日も言い争っている。俺は二人の間に割って入った。
俺「父さん、母さん!俺前みたいに三人で笑顔で暮らしたい。」
母さん「無理に決まってるでしょ。子供は黙ってなさい。春秋には関係のない話よ。」
父さん「お前なに言ってんだ。子供に向かって。」
母さん「子供なんて本当は嫌いなのよ!よくここまで我慢したと思わない?」
父さんは母さんを殴った。人が人を殴る瞬間を間近で見るのは言葉で表せないほど怖かった。
言っても意味がなかった。言わなきゃよかった。悪化するなんて、なんで、どうして・・・怖い。この時初めて母さんの本当の気持ちが分かった。すごく優しかった母さんはもういない、いっぱい遊んでくれる父さんもいないという現実を突き付けられた。俺は自分の部屋でただただ、泣くことしか出来なかった。
週末母さんに連れていかれたとこはアイハード院という養護施設だった。子供たちが元気に走り回っている。
母さん「春秋バイバイ。」
母さんの最後の笑顔はとてつもなく怖かった。もう誰も信用しないと誓った。「春秋くん」と呼ばれた方に振り向いてみた。すると、若い女の人が立っていて、その女の人に養護施設を案内された。
シスター「今日からここが春秋くんの部屋だよ。荷物置いたら自由に遊んでいいからね。」
俺「はい。」
俺はそのまま部屋にこもった。その日はとても退屈だったので、もう寝ることにした。
翌日
目が覚めた俺は顔を洗いに洗面所へ行こうと廊下を歩いた。だが、
俺「洗面所どこだっけ・・・」
俺はまあいいかと部屋に戻った。部屋に戻るなりベットにダイブした。ベットはフカフカでとても気持ちがいい。何か考え事をしてたがそのまま二度寝をしてしまっていた。
もう一度目を覚ました。外を見ると雨が降っていた。あれから何時間たったのだろう。時計を見たがそれほど時間はたっていなかった。廊下に出てみるとシスターがいた。
シスター「春秋くん、そろそろ朝食の時間だからおいで。」
俺「はい。」
俺はシスターについて行き朝食をとることにした。
朝食をとり終わると部屋に戻り、本を読むことにした。本を読んでいるとシスターから
シスター「春秋くん、お友達が来てるわよ。」
俺「友達・・・?」
俺が不思議に思っていると奥から声が聞こえていた。
???「はるきーーー?」
俺にはすぐ誰の声だか分かった。
俺「海菜ねぇちゃん!!!」
俺は嬉しさのあまり海菜に抱き着いた。何故だか涙があふれてきた。それを見た海菜は俺をなでなでした。すごく可愛く見えたのだろう。
シスター「あら、よっぽど仲がいいのね。」
海菜「そうなんです。本当に小さい頃から一緒だったので、弟みたいなものです。」
シスター「へぇ、そうだったの。」
海菜「はい!」
っと、笑顔で話す海菜。
俺「海菜ねぇちゃん、雨なのに来てくれたの?」
海菜「そうだよ。大変なんだから!」
俺「ごめん・・・」
海菜「うそうそ。」
俺は海菜のなでなでが大好きなのだ。ふとんと同じぐらい心地いい。
海菜が「今日は用事があるから帰るね」と一言だけ言い帰ってしまった。明日からまた学校が始まる。めんどくさいなと思いつつ明日の準備をしようと部屋に戻った。
次の日
俺はため息をつきながら学校に登校した。教室に入ると急にいじめっこ男子が
いじめっこ男子「お前親に捨てられたらしいな!」
俺「・・・うるせぇよ。」
いじめっこ男子「は?聞こえねぇよ。もういっぺん言ってみろ。」
俺「だからさぁ、うるせぇって言ってんの。聞こえないの?その耳、飾りかよ。」
いじめっこ男子「なっ・・・」
いじめっこ男子は顔を真っ赤にさせクラスの笑いものになった。それに腹を立てたそのいじめっこ男子が腹いせにいじめてきた。最初のうちは何とかなるだろうと思っていた。そんな甘い考えじゃダメだった。靴をゴミ箱に捨てられたり、私服をズタボロにされ捨てられたりした。だが、俺はへこたれなかった。海菜ねぇちゃんが慰めてくれたり、話を聞いてくれて全然苦にはならなかった。そのおかげもあって小学生の時、皆勤賞をとったことを今でも覚えている。
中学校に入学して新しい友達もできて毎日楽しい。相変わらず海菜ねぇは施設に遊びに来てくれるし、勉強も教えてくれる。毎日楽しい・・・と思っていた。いつからだろう。海菜ねぇが来なくなったのは。あんなに楽しかったのに・・・
俺「シスター、聞いてもいいか?」
シスター「ええ、いいわよ?」
俺「あのさ、海菜ねぇが来なくなった理由ってシスターは知ってるのか?」
シスターは少し考えてから
シスター「あなたが高校を卒業してから教えてあげるわ。」
何で教えてくれないのかこの時の俺はまだ知るよしもなかった。この時の俺は海菜ねぇがどこかに引っ越したのだろうとおもっていた・・・。
4年後
俺は無事高校を卒業した。今日は海菜ねぇのことをやっと聞かせてもらえるんだ。俺はシスターに「早く海菜ねぇのこと教えて」と早々と言った。
シスター「分かったわ。」
俺の喉がゴクリとなった。シスターが口を開く。
シスター「実は4年前、海菜のご両親から電話があったの。雨の日に海菜は自転車でここの施設に来ようとしたところに飛び出してきたトラックにはねられて、亡くなったの。」
俺「・・・。」
俺はいつの間にか泣いていた。両親に捨てられた時より泣いた。シスターが続けて言った。
シスター「海菜のお墓の場所知りたい?」
俺「はい。知りたいです。教えてください。」
シスター「言うと思ったわ。この紙に書いてあるから行ってきなさい。」
俺はシスターにもらった紙を見ながら走って行った。海菜の墓の前でようやく海菜が亡くなったことを受け入れたくなかったが受け入れるしかなかった。
俺「ごめんな。俺守れなくて・・・」
海菜『いいんだよ。』
俺「う、海菜ねぇ?!」
確かに聞こえたのは海菜の声だった。俺は久しぶりに海菜の声を聴いて満足だった。ちゃんと聞こえていることがなにより嬉しかった。
あれから6年がたった今、雨が降るたびに海菜ねぇのことを思い出す。はじめは嫌いだった雨は今ではすっかり好きになった。雨の日になると海菜ねぇにあえると24歳になった今でも信じてる。
海菜ねぇ
あなたは今幸せですか?俺は今とても幸せです。来世では本当の姉弟になりたいと願っています。
春秋