不可算の罪
どんなサブタイトルなんですかね
関係ないことはかけないし、だからといって唐突に#98と書くわけにもいかない
妥協してはいけないところだと、自分の中では思っていますが
さて、一時間くらいだろうか。椅子を回して目を開ければ全員がゆっくりと起きていた。背伸びをしたり欠伸をしたり、各々がのんびりと起床を迎えたのだ。
「おはよう」
少年は誰に向かったわけでもなく声を発した。全く数時間前の目覚めと入れ替わったような状況となっているがそんなことを考えてもいなかった。
「うん……あれ。どれくらい、眠ってた?」
「一時間くらいだよ。姉ちゃん」
寝起きの摩耶が眠い目をこすりながら聞いてくる。珍しいことに頭がまだ回っていないのか皇国語を話している。ここだけ見れば昼寝をしていた姉を起こした弟のようにも見えるだろう。
「そっか。一時間ね。そんなにのんびりできたんだ」
「もう少しゆっくりしていかれても構いませんよ?同志大将」
「んぇ、ああ。摩耶でいいよ。別に気を遣わなくても」
まだ寝起きで少し呂律が回らないのかあまりうまく共和国語を喋れていない。彼女の言葉に少々狼狽える。寝ぼけているのか、本当に言っているのか判別がつかないのだ。
「ええと、では。同志摩耶、今後の予定について話したいと思っていますのでそのままおくつろぎください」
「あたしだけかい?」
「いいえ、貴女方全員に関わるお話ですので。そうですね、まずそのボサボサの髪の毛を直されてはいかがですか」
「えっ?」
彼女が髪の毛を触ってみるとなんともボサボサなのだ。これ以上どう表現すれば良いか分からないくらいにはボサボサなのだ。
急いで髪の毛を整え始める摩耶を発端に半寝ぼけだった全員が慌ただしく準備を始めた。マルカとローズも一緒に。
数分後、配置についた――暖炉を左手に座った少年の正面に旧連邦の面々、右のソファや椅子に座っている独立機動小隊の面々が構える――のを確認したローザが口を開く。
「お疲れのところ申し訳ありませんが我々の置かれている状況はあまり芳しくないことを承知ください。手短にお話ししますと、我々は貴女方を軍事的交流のために皇国からいらした賓客。という事として処理いたします」
「賓客……それは大丈夫なのかい?国家元首や行政長官に本来なら声をかけないといけないと思うんだけど。今の皇国はあたし達でさえ連絡がつかない状態にあるんだよ?」
「その辺は問題ありません。この国家共同体は現在まともに把握している事実は半分もないでしょうから」
それはそれとしてどうなのか疑問が残るが今はその事について言及するより利用してしまった方が良いと判断している。
「賓客としてして街をゆっくり観光していってください。これ以上そちらのお手を煩わせる訳にはいかないので。この問題は本来、この国で対処するべきものだったのですから」
彼女からは強い信念を感じた。自国の問題に巻き込んでしまった事への反省と、これ以上無関係の人間を巻き込まない決意を。
「そうなると、どうやら俺達はその問題に首を突っ込んで邪魔しに来た連中らしいな」
少年が肩をすくめる。悪意がある訳じゃない。本来から大きく逸脱した結果ここに立っているのだ。そう考えるのが自然だろう。しかしマルカがそれをキッパリと否定した。
「いえ、とんでもございません。私達が同志を利用したのですから」
「……そうだったな」
今の会話に疑問を覚えないものなどいない。尤も、少年を警護するために組織された神皇守備隊の長であるリーは強く反応した。
「それは、どういうことなんじゃ?」
「そのままの意味だ。初めから、俺達があのMi-26に乗った時から赤軍は準備を終わらせていた。白軍の兵士と入れ替わり輸送機の運用を偽ってあの場所に潜入したんだ、俺達を案内するという名目で」
「殿様は、知っておられたのですか……いえ、差し出がましいことをいたしました。申し訳ありません」
自体がどれほど深刻なものだったのか考えてしまった時雨はつい抑えきれずに話を遮ってしまった。少年も誰も解っているので咎めることもない。
「構わない。そもそもこれには俺しか関わらない予定だったんだ。その予定が随分と狂ってしまった結果こうなった。流石に想定外のことが多すぎたんだ」
赤ふちの目だけがローザ=カウロフを捉える。視線に気付いた彼女は他の誰にも分らないように頷き言葉を続けた。
「同志の言葉に甘えて言い訳をするつもりはありませんが、我々もプリーズラクの存在は承知しておりませんでしたし、あれが如何様なものなのかも知ってはおりませんでした。しかしながらFSBの介入は事前に調査し、阻止を行うことも可能だったと考えられます。そうなれば我々は元よりここから動くこともなかったでしょうが」
少々自虐じみたことを言ったものだが実際のところFSBが動こうとしなければ赤軍も、政府も動くことはなかった。意味がないからだ。
「しかしながら、我々は不本意ながらに目的を達成してしまいました。あの憎き機械人形達の凶弾に倒れた同志の無念は晴らせたのです。それがいかなる手段であろうとも」
誰かが悪いことはない。ただ、その時があってしまったのだ。計画も、彼らの登場も、介入も、何もかも初めから仕組まれていたように見えただけで、実際は一つの条件が整ったのをはじめに連鎖的に物事が成立してしまっただけである。
誰かが、声を発することはなかった。知っていてもなお、言葉をかけることは出来ない。善悪か、正義か。咎める方法がないまま静かに時だけが流れて行くのだ。
「……もし、我々に贖罪の機会を与えてくださるなら、もう少しだけこの舞台に付き合ってもらわなくてはいけません」
静寂を破る彼女の声は、非常にはっきりと聞こえた。それに対する応答は、最高指揮官に委ねられているのだ。
「そうか。なら、案内をしてくれ。この国を見て回りたい」
そう言って立ち上がれば、誰もが切り替えを済ませ立ち上がることが出来るのだ。




