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よくよく考えれば、たった二日しか旧連邦に滞在していないんですよね。一日の長さどうなっているのだろうか……作者が考えなくてはいけないことなのですが(笑)
部屋は大きな暖かい暖炉をはじめとした軍事施設らしからぬ調度品で彩られていた。恐らくは貴賓室の類だろう。
そこで見た光景は全員の寝顔が見せる安堵の表情だった。そこら辺の椅子やらソファーやら手当たり次第に体を預けて無防備に眠っているのだ。
もう帰るだけの力しか残っていないというような疲れ方である。ここ何十時間も休息のないままでいたのだ、無理もない。全く例外もなくマルカにローズまで眠ってしまっているのだ。赤の銀華が静かに少年に声をかける。
「お疲れのようですね」
「だろうな。寝ていたのは俺だけのようだしな」
「その前にあれだけのことをやったのですから無理もないかと。貴方も少しお休みになられては?」
「いや、いい。もう休んだ」
「十分休んだのなら軍医に泣き付かれることはないのでは?」
少し間を開ける。なぜあまり笑うという感情を見せない彼女が珍しく微笑むのかわからなかった。このところ何度か、普段は笑顔を見せない――文化が違うので笑顔の意味や笑顔を見せる条件、相手が他国とかなり違い我々が想像するものとは殆ど正反対という意味での話だ、堅物なのとは違う――旧連邦出身の彼女達が微笑んだのを見た記憶がある。
「見たのか」
「いいえ。察しました」
「……」
少年からすれば全く意味の解らない言葉を言われたのだが、いや、前にも似たようなことを言われた気がする。自分はそんなに分かりやすい人間なのだろうか。ミアを除いて。
「少しお休みになられた方がよろしいのでは?」
同じことを二回も言われた。一回目とは意味合いの違う、断れない実効性のある言葉だった。何も拒否するわけではないのだが少し抵抗感を覚えてしまう。なんと言おうか、休んだのだからその分働かなくてはいけないという衝動といえば分かるか。
「過去の清算も必要では?働き過ぎてまた軍医に泣き付かれてもよろしいのですか?」
それは困る。少年にとっては何より、あの少女が見せる涙こそ対処ができないものなのだから。
「分かった。少し寝よう」
折れる他なかった。というより渋る理由もなかったのだが何より自分はどこか疲れていたのだろう、そう言い聞かせれば寝れる気にもなったに違いない。簡単に言えば信じたのだ。彼女たちの言葉を、その意味を。
少年はその辺にあった椅子を持ってきて暖炉の前に構えた。丁度良い暖かさにゆっくりとした時間を肌で感じながら静かに目を閉じる。
しかし少年は眠ることはなく考え事を始める。全くこれまでいろいろなことが起きすぎて整理がついていないままなのだ。
まず、そもそも彼らは皇国へ帰還するために共和国を出国した。大西洋を安全に渡ることが出来ないため隣国の旧連邦に向かうことになった。
そして旧連邦、ただ通るだけの予定だったこの国で随分と面倒なことに巻き込まれたものだ。この国に来てまだ二日しか経っていないのにも拘わらずここまで苦労したものだ。いろいろなことが一度に起こりすぎている。不完全な形でしか処理されていないものを形に変えてゆかねばならない。
旧連邦では、赤軍と白軍による抗争が表立った所では起こっていた。しかし実際は何者かが双方を先導し自分の利益のための戦争を起こしただけであった。
結果としてその誰かは不幸な事故によって灰となって消えてしまったうえに彼の商売道具も役に立たなくなってしまった。
……誰のせいかと言われると判らないが、誰が原因と考えられるかと問われれば間違いなく自分だと答えるだろう。何かを知っているのは自分であり、あのメメント・モリも何らかの暗示だとすれば何らかの鍵を自分の手で握っている可能性が高い。
何より最もな問題はここに来た瞬間からこの二勢力は抗争を始めており、そこに新たな組織FSBが介入した形になっているのだ。
三つ巴ともとれるだろうが全く状況が違う。彼らの介入はあくまで抗争の仲裁であったとすれば……なぜ彼らは白の銀華を連れ帰ろうとしたのだろうか。
そもそもが間違っているのかもしれない。
この抗争には二勢力の他にもう二つ勢力がいたという可能性が出てくる。まずはFSB、そして国家政府そのものだ。
軍が政府機関から独立して運用されることはこの時代においてまずない。その軍の肩身の狭さのおかげでクーデターは起こるし内戦も起こる。
しかし今回の場合、もしあの基地にいた機械人形が独立して運用されていたらどうなっているのだろうか。
当然、クーデターに近い状態に陥る。そのために政府は混乱し軍全体にまともな指揮を執ることが出来なくなる。
そしてその隙に別の目的を持った介入者が戦争を起こす。そうすれば指令系統は混乱し全体がマヒすると考えられるからだ。
そこを終了させようと政府は治安維持部隊を送り込む。そこまではどの国家でも同じような対応をとるのだろうと考えられる。
しかしそこでどうして政府の人間が介入を行ったのだろうか。そしてなぜ全員が白の銀華を欲しがっているのだろうか。
全く想像の域を出ない思考を少年はただ繰り返しているのだった。




