再びの目覚め
この主人公は一体何回眠っては目覚め手を繰り返すのでしょうか。
まあどうせこのノリで行くと何度も起こりそうですがね。
見た事もない光景が広がる。いや、見た事はあるか。深い海の底、青い空の上、陽が燦々と照らす草原の中、燃え盛る屍の山、虚無の中。
これは遥か昔から訪れた生と死が渦巻いている混沌。自分の思うままに動け、触れ、感じる事の出来る暗闇。
誰もいない。繰り返される創造と破壊。何度も何度も、何もかもを失っても続けられる輪廻。永遠を永遠に苦しみながら死んでゆく。
――さア、壊レなさイ。貴方ハもう十分……たノだかラ。静かに最期の時ヲ向かエる事だっテ……デショウ?何ヲ恐れテイるの?それトも、知ってシまったノカしラ……でモ、モう分かるデしょウ?貴方は自分ノ手デ……タ何千モの悲鳴を、体中を炎に包まれて殺しテくれと叫ンだアの絶叫を、致命傷を負ってモ死にキれナカッタ……ノすすり泣く声を覚エてイル。
「……」
何かが話しかけて来る。所々、聞こえないままその声はだんだん、はっきりと、大きくなってゆく。
――そレを貴方ハ一生背負い続ケテ、マた更に増やソウというノデしょうカ。まタあの……地獄ヘト向カオウとしテイるのデシょうか。
「地獄」
――ソウ。地獄デす。貴方の行キ着く先ハ地獄です。貴方はこレカら何億という生命ヲその手にかける事になルデしょう。それデモ、地獄にしか向かエナイ。
「屍の山を登ればそこに地獄があると。なら天国は」
――天国なんテ、最初カラありませんよ。それは人間が考エタ、都合の良い救済の言葉。神の言葉ヲ捏造した数奇者達ノ妄想……アア、神様ハイますよ。しかし、彼らがソレを自由な形に変えてしマッタだけです。
「……偶像、崇拝」
――その偶像を造り、売リ払イ、その資本で私腹を肥やす。またアル時はそれを罪ノ楯としテ、歪ンだ世界を望んダ愚か者に手ヲ差し伸べる様な事さえアッタ。
「手段を間違えただけだ。それに、そいつが無ければ人は生きれなかった」
――ソノ優シサガ命取リ。だから、愚カダト言ウノだ。死んで救われルタめに生キナケればならないノは、矛盾が生じるでしょう?信じるモノは救われると、信じていないから救ワレないと。
「死は、救済たり得るのか」
――そう。その意味を思い出して。間違えないで。死は、救済と繋がらない。明日死ぬかもしれないけど、今日を楽しく生きようとした彼らの強さを思い出して。忘れてはいけない。騙されてはいけない。死ぬ事では、決して救済されない。
「メメント・モリ」
――さあ、もう目覚めなさい。大丈夫。私達はいつでもそこに居る。行き方から分かるでしょう?選択肢は、いつも……
そこで誰かがいなくなった様な感覚がした。まるで花びらの様に散っていった何かが頭の中に引っかかる。
自分自身が形成されてゆく感覚に陥る。もう一度、あの世界へと帰れる。だが心には何かが抜け落ちたように感じる。
ふと、先程の会話を思い出そうとしたが、いったい誰と話をしていたのか。何を話していたのか思い出せないのだ。
……いや、一言だけ、忘れてはいけないと言われた言葉だけを覚えている。それをゆっくりと口に出してみた。
「……メメント・モリ」
目が覚める。口が動いたことを覚えている。辺りを見回せば知らない場所にいた。そこには榛名がいた。それだけで、十分だった。
「おはよう」
彼女はゆっくりと少年にそう伝えた。
「ここは?」
体を起こし周りを見てから、やはり来たことのない場所だと分かる。
「あの場所から一番近い基地よ。ここに全員が避難しているわ。この基地の名前は、えっと……」
「ここは、イヴァノヴォ・セヴェラーニ空軍基地。我々の同志である外務省軍が所有し赤軍が抑えている拠点の一つです」
見れば入口にローザが立っていた。
「よく回復してくれましたね、同志」
「ああ、なんとかな」
「それで、起きて早々に申し訳ないのですが一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「何を?」
「先程貴方が言ったメメント・モリという言葉。確か意味は、死を忘れるな、でしたよね」
「……ああ、そのはずだが」
「いえ、その、なぜ、今その言葉を言ったのかと思いましてね」
「そんなことか。なんでかというと……」
そういうと彼は不思議そうな顔をして黙り込む。
「あの、同志?」
「いや。なんでか、分からなくてな。ただぼんやりと、忘れてはいけないと言うことだけは覚えていたんだ」
「忘れてはいけない?この言葉を?」
「ああ……いや。違うな」
真面目に思考を始める少年を今度は少女達が不思議そうな表情で見守る。そして少年はあることを思い出した。
「死は、救済たり得るのか」
「……?」
「メメント・モリの本当の意味を知れば、この言葉の答えを見つけられる。そう、教えられた」
「誰に?」
「記憶にあるだけだ。誰かじゃない。そのことだけが残っている」
不思議な時間が流れてゆく。ただ、その答えを求めて。




