閑話~終戦後の休息~
はい。やっとの思いでこの戦いにも一区切りがつきました。
現在のビルマのように複雑な状況が絡み合っているのでまだこの話は続きそうです。
気を失った少年を膝の上に乗せながら彼女は彼のボロボロになった軍服を見る。
「これは、流石に寒さで死んでしまうわね。ねえ宗一郎さん、カイくんのアフガンカを」
「む、承知致しました。直ぐに用意致しますぞ」
「あ、おい待てソウ!まだ話は終わって……」
「摩耶殿の説教ならまた今度の機会に、今は怪我人の救護が最優先なので。それではっ」
ほとんど逃げ出すように彼は彼女の元を去っていった。
「はいはい、ただいまお持ちして参りましたぞ!」
「同志、キモノを彼に被せてあげれば楽になりますか?」
「ええ、でも貴女は大丈夫なの?流石にその服のままじゃ……」
「大丈夫です。彼に比べればなんてことはありません」
「そう。じゃあお借りするわ」
羽織っていた着物を脱いで少年に被せる。所々破け血が滲み服としての役割を半分ほど満たしていないものを着ている怪我人に比べれば多少の寒さくらいどうってことはない。
そして申し訳なさそうにしょんぼりと正座をしている神皇守備隊の面々を前に頭を悩ませている摩耶に赤の銀華が声をかける。
「摩耶同志大将」
「ん、どうしたんだい?」
「私はこれから一旦同志の元へ戻って貴方達を安全な場所まで輸送する手筈を整えてきます。勿論、怪我人の輸送を最優先に行うことを約束します」
彼女の真剣な眼差しには嘘偽りのないことを証明しているようだったが、副長はそれでも彼女達を信頼できないと考える。
「……。アタシ達はそこまですぐに貴女達を信用できない。弟の信頼を得ているから協力しているだけであって、貴女の戦争に付き合って無駄な損耗だけは御免なんでね」
当初の予定とは全く異なった道を見せた。誰も予想はつかなかったこととはいえ……いや、彼なら予想していたのかもしれないがここまで問題が大きくなっていることは分からなかっただろう。
「はい。構いません。それでは」
一礼して彼女は足早に去って行く。それを見送ると今度は正座をしていた朧がもぞもぞと動き始めた。
「あのぉ……そろそろぉ、時雨ちゃぁんに戻らないとぉいけないのですがぁ」
「ん?ああ、良いよ」
彼女が目を閉じる。すると見た目が少し小さくなり雰囲気も幾らか穏やかになったような気がする。
目を開けるとそこには紅色がなくなって朝空のような薄く、綺麗な空色の目が見えていた。
「……不思議だね。わざわざ自分の中にあるもう一人を呼び出さないと能力が使えないなんて」
「そうでしょうか、私は別に朧ちゃんのことは好きですから」
「うん、変なことを言ったね」
「いえ、そんな。ですがこの能力のおかげで民間人にも紛れやすいですし」
「適材適所だね。配属を決定した人事も偶にはいい仕事するもんだ」
「いいや、この配属を決定したのは殿じゃぞ」
リーの言葉に少し、驚いたような顔をする。
「そうか……そういえば、この子を誘ったのはリーだったよね」
「そうじゃな」
「一体どうやって……いや、やめておこう」
「そうかの」
少し残念そうに言葉を返す。
「それで、ワシらはいつまで正座しておれば良いかの」
「そもそも正座しろなんて言った覚えはないけど」
「おや、そうじゃったかのぉ」
愉快そうに笑いながらリーは時雨を連れ立って宗一郎の方へと向かっていった。
摩耶もそちらへ向かおうと顔を上げた時、目の前には赤軍人達がいた。彼らは何事かを話しているようだったが残念ながら摩耶には何を言っているのか分からなかった。
「マルカ、彼らが何を言っているのか教えてくれないか?」
「あ、はい。すぐ行きます」
そうしてマルカの通訳の元、少年を搬送すると同時に全員が最寄りにある彼らの基地、イヴァノヴォ・セヴェラーニ空軍基地へと向かうことになった。




