各々の決断
ここから先かなりの分岐があると思いますが……どうしようか全く考えていないですね。こまりました。
どうして外が暖かくなったのだろうか、当然の疑問が出てくる。極寒の大地が一瞬にして常夏の南国に変わるなんてことはありえない。
どこまで世界に影響を及ぼす能力をもってしてもそれは決して魔法ではない。無いものを作り出すことはできないし現実に存在しないものをいかなる手段を用いても用意することはできない。
そして現実に世界全体を改変する事も不可能に近い。過去の大戦では何百人もの能力者が集まり何日もかけてやっと――その彼らさえ犠牲となるだけの損害を被る結果となったが――国家一つを消滅に至らしめるだけの威力をもった物体を生成したという記録しかないのだ。つまりはたかだか十数人が集まったところでこの周辺一帯の季節を変えることなんてできやしない。
「外に出よう。ここにいても意味がない。凍え死ぬのが先か、カイがここへ来てくれるのが先かなんて待ってられない」
「そうですね。そもそもカイくんが何か無茶をしてまた大変なことになっていたら速く迎えに行ってあげないと」
摩耶と榛名が話している裏で静かにリーを筆頭とした神皇守備隊の面々が集まっている。
「かなりまずい状態ですね」
「武装が不十分でないことは小官の落ち度にあります」
「そんなことを申しても仕方があるまい。今はこの状況を打開する事よりも殿を見つけ出すことを優先するべきではなかろうか?」
「そうですなぁ。万が一ここに残滓でもやってくれば我々に勝ち目はありませぬので、妥当な判断かと」
「万一も何も、ここまでのことをやってのけれるのは奴らしかおるまい?」
「そうですね」
「すみません隊長。その、残滓は現在どのように変わっているのでしょうか。私が存じ上げているのは二年前の情報のみですので」
「いいや、大して変わらん。ワシらで奴を殺すことも封じ込めることもできず、唯一殿のみがその神聖において鎮めることができる何かのままじゃ」
「しかし、過去の記録ではここまでのものはなかったと思いますが」
「恐らくですが二年間で起きた世界の様々な変革に伴ってその犠牲となった魂たちを融合、分化させて世界中に強力で大量の残滓が発生したと思われています。あまり詳しく分かっていないのは本当に変わりません」
「副隊長がそうおっしゃるならば本国でも何ら進展はなかったということでしょう」
全員が一旦会話を終了させ暫しの思考に耽る。時間にして一分も満たない間に答えは決定した。
「この場は仕方ありません。麗隊長、朧ちゃんを呼びます」
「ほぉぅ」
「これ以上ここに留まるのは全員の生命に影響を及ぼします。ご命令さえあればすぐにでも」
長い沈黙の後、少女は静かに自分の部下に命じた。いつもとは全く違う、軍人としての彼女の口調は恐ろしく圧倒的で透き通る声だった。
「……黒よ、曙は己の命によって発する。臙脂を探しだしこの状況を打開する術を見つけてこい。そのための手段は問わん」
「拝命いたしました。我が身に変えてでも」
そう言うと彼女は姿を消した。正確には彼女の能力を使って自分の周囲にある光を屈折させて光学迷彩のように見せているだけである。
「大井副長殿」
少女は顔色一つ変えることなくここの指揮官に向かう。
「なんだい?」
「外に出てみるのはどうじゃ?」
「賛成だね。皆、準備はいいかい?」
彼女が辺りを見回して確認を取る。目が合った榛名は周りにいる女子達と軽い確認を済ませた後に答える。
「こっちは大丈夫です」
「ワシらもすぐに行ける」
「私も大丈夫です、同志」
返事を聞いた彼女は鹵獲したAN-74を構え、ドアノブに手をかけた。
「出るよ」
ドアを一気に押し広げるとともに強い暖気が入ってきた。一瞬だけ何かが通り過ぎたような感触を味わった後、彼らは外になだれ込む。風の発生源の方を見るとそこには煌々と赤く燃え盛る輸送機をただ茫然と眺めている一人の少女が立っていた。
「おい!そこから離れろ!危ないぞ!」
秀明が少女に声をかけるが炎から発する轟音にかき消されて聞こえないのか、返事もなければこちらの存在にすら気にも留めない様子だった。
「聞こえるのか!?大丈夫なのか!」
再度声を張り上げると聞こえたのか少女はゆっくりとこちらを向く。しかしその顔に精気はなく、まるで先の爆発と火事で大切なものを亡くしたかのような表情をしている。
だが、そんな少女を見た全員は一斉に銃を構えた。
「下がったほうが良くないか?」
少し後ずさりしようと足を引いたとき、少女の周りにありえないほどの閃光が走った。全員その光に目がくらみ、どこかしらから聞こえる火災とは違う轟音に耳を塞ぐ。
「な、なんなんだ!」
目を開けたその先には、青白い光を従えた少女の姿があった。




