分断
別にサブタイトルに困ったわけではありません。日本語に困っているだけです。
地面に倒れ込んで回避しようとしていたために頭から盛大に地面に突っ込むような形で二階から飛び降りることとなった。
「きゃっ」
高所から飛び降りることを全く想定していなかったマルカは小さな悲鳴を上げて少年にしがみつく。しかし元より誰もそんなことは想定していないのだからそのままではただ落下するだけなのだが、彼は違った。彼は自分達の落下速度を緩めながら空中で身体を捻り足で着地をする姿勢をとる。本来なら怪我をしないほど安全な速度まで緩めるがそんなことをすれば後ろからやってくる輸送機と衝突してしまう。
それ以外に方法が思いつかなかった彼はまるでアクション映画のスタントさながら現実離れした挙動をしながら機体との接触を避けるべく自らの方向を強制的に変更して二人を横に跳ばす。
「きゃぁぁぁ!」
当然、能力に適応するために進化した少年の身体は耐えられるがそうではない少女は振り回される感覚に付いていくことができない。
そのまま振り子の原理で機体と接触する間一髪の所を通り過ぎる。輸送機は主翼を大きく破壊し先ほどまでいた場所を巻き込みながら地面に衝突した。
そして二人は空中を滑るようにして地面に強制的に着陸しようと試みる。急激にスピード感を消失した彼女は不安になって声を上げる。
「なにをやっているのですか!」
「つかまってろ!」
「やってます!」
着地することを伝える暇のない彼がとった行動は、彼女に怪我をさせないようにすることだった。
意外にも輸送機が跳んでくる速度が速かったために横にずれる速度も増し、かなりつんのめる様にしてコンクリートの地面に降り立った。失敗すれば背中を削られる危険な着地だったが何とかなった。
「大丈夫か」
「だ、大丈夫ですけど……何をやっているのですか!失敗したら貴方が」
「大丈夫だ」
「そんな……」
「離れるぞ」
彼女が何か言おうとしたがそれよりも先に少しでもこの場から離れる必要があった。主翼が破壊されたということはその中に入っている燃料が漏れ出しているということになるからだ。
少年は少女の手をつかんで奥へと走る。恐らく爆発や火災は発生しないだろうが何があるかわからないのでとにかく極寒の雪原を走り続けた。
当然、内部に取り残された彼らも例外ではない。少年が窓から飛び出した時点で全員がその場から一目散に逃げ出し、輸送機が突入する衝撃を目の当たりにしたのだ。
「伏せろ!伏せろ!伏せろ!」
「おいっ、大丈夫か!」
多少の混乱はあったものの彼らは何とか直撃を免れた。寸断された廊下の向こうに二人の女性が見える。秀明が輸送機の近くまで向かって声をかける。
「そっちは大丈夫か!?」
「問題ない!何が起こっているんだ!?」
「想像はつくがよくわからん!とにかく離れてくれ!」
「了解した!」
そういって彼女達は現場から遠ざかって行く。破壊された輸送機を見た秀明は燃料が大量に漏れ出していることに気づく。
「チッ、早く離れないと不味い。燃料が溢れていやがる」
すぐさま状況を報告しに副隊長の元まで戻る。本来ならどこかにいる残滓――この異変の元凶――を探し出して倒さなくてはならないがそれどころではなくなった。
「仕方ない、とりあえず一階に降りる手段を探そう。それとアフガンカを着よう。恐らく相手は外にいる」
そうして防寒着を着こんだ彼らは一階に降りる手段を探し始めた。
時を同じくして銀華も行動に移る。青年に言われた通りに輸送機の残骸からはいくらか離れている。
「どうしましょうか、閣下」
「とりあえず彼らと合流しなければ。私達では分からないことが多すぎる」
「はい。それは同感です」
「あと、ごめんなさい私情で。マルカと、合流して話がしたいわね」
「……」
不意に、少女の足が止まる。やはりなにか思うものがあるのだろう。しかし彼女はそれをきっぱりと否定する。
「あれは貴女が気にするようなことではないわ。全ての元凶は貴女達ではなくFSBの連中、しかもそのごく一部でしょうから」
「ええ。分かっています」
先程からずっと暗い表情のままの彼女に普段の軍人然としたローザが見せることのない、少し気の抜けた調子で声をかける。
「貴女、さっき私のことをお姉ちゃんって呼ぼうとしたでしょう」
「ひぇっ!あ、あの、それは」
唐突に話を切り出された少女は驚いて少しおかしな返事をしてしまう。
「いいのよ。私も、貴女のことは妹だと思っているわ。だから、無理にとは言わないけど。お姉ちゃん、って呼んでもらえると嬉しいわ」
少女の表情がぱっと明るくなる。よほど嬉しかったのだろうか少し笑っている気がする。
「では、お姉ちゃんって呼ばせてもらいますね。お姉ちゃん」
「よろしくね。ローズ」
「ローズ?」
「ええ。貴女の呼び名よ、嫌だったかしら?」
「いいえ、とっても嬉しいです!」
「そう?なら後で皆に伝えないとね」
「はいっ、そうですね」
少し和やかになった二人は、もう誰も分からない迷宮の中を一階に降りる手段を探しに駆け出していた。




