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耐えられない自己

最近めっきり寒くなりましたね。このまま夏も涼しくなってくれるとありがたいのですがねぇ……

体調には気を付けて

 お互いが邂逅したとき、すでに状況は最悪の方向に向かっていた。己の葛藤に耐えられなくなったマルカは遂に訳も分からぬ暴挙に出始めたのだ。

 彼女は自分の持っていた拳銃をもう姿も見えなくなった敵ではなく少年に向けることになったのだ。

 いや、そもそもそれ自体は何かの間違いであってもその過程は間違っているとは言えなかったのだ。だから、だれも止める手段を持ち合わせていなかった。


 少し時間が戻る。

「ここからどうしましょうか」

 何度も歩いては見つからない出口に少女は疲れていた。それ以前に自分の知らないことが一斉に起こり過ぎていた。

 彼女がここへ来た理由は他でもない。数多の同志たちを葬った忌々しき機械兵どもを、その親玉である白軍を打破することにあった。

 しかし実際に戦場に赴くと、機械兵は何故か全滅している上に白軍が操っていたわけでもない――あのときに連絡が取れなかった理由は分からないが恐らく何らかの工作によって分断されていたのだろう――そして何より、一度銃口を向けた相手は自分の尊敬する人物と双子だというではないか。

 その時点で彼女自体が、そして赤軍兵としての彼女も同時に崩壊を始めたのだ。誰にも頼れない、誰にもこの怒りをぶつけられない。彼女の持つやさしさが彼女の精神を侵し始めた。

 そうして自分が壊れていくことの恐怖と自分が壊してしまうことの恐怖から逃げるために、彼女は一番初めの状態に戻ろうとしていた。

「ポルコヴォージェツ、少々よろしいですか」

 少女は少年を呼ぶ。何も平静を装った彼女を見抜けない訳ではない。しかし、彼は何かしらを思ったのだろうか気にしないそぶりを見せる。

「どうした」

「……」

 見えない表情から彼女を推察する。恐らく実行しようとしているのだ。それがどのような結果になろうとも、止めるほうが彼女に苦痛を与えることになる。

「ごめんなさい」

「……ああ」

 そういうとマルカは鳥海の背に移動し双子の方に向き直りマカロフPMを少年の後頭部に向ける。

「待て……何をしているんだ同志マルカ!」

 突然の行動に一瞬、思考が鈍くなる。誰に銃を向けるべきか、一体何をすればいいのか分からなくなってくる。

「もう限界です!これ以上私は自分を騙せない!」

「どういうことだ!今すぐ銃を下ろせ。それは味方に向けるものじゃない!」

「私は、彼らに殺された同志達の無念を晴らすために銃を手に取りました!そのためなら犠牲をも厭わない覚悟で、私は彼に銃を向けています!」

 銀華は、銃を取り出すことができなかった。少女は間違っていなかったのだ。彼女が憎み、仇を討つと誓った相手は機械でもFSBでもない。とはいってもただ一介の後方勤務をしていた大佐であるクリヤトヴナでもないのだ。彼女は、白軍自体を恨んでいる。誰が裏で操っていたとか、誰の指示によって起こったのかとかを追求するのではない。どうあれその組織の存在自体を彼女は心の底から憎んでいるのだ。

 そして彼女は、恐らく革命を起こそうとしているのだろう。幾度となく繰り返されてきた歴史を彼女は再現しようとしているのだ。日陰者に追い込まれた自分達を再び表に返り咲かせるために。

「なにが、目的なんだ」

 お互いの理解の範疇を大幅に逸脱した状態にもつれ込んでいった。誰かが何かをしようともしない。ただこの現状が維持され、一歩前に進むごとに一歩距離を置かれる。

 マルカは人質を取りながら後ずさる。彼女達が止まった場所はガラス越しに見える滑走路に降り積もる雪をよく映していた。

「ちょっと!これはどういうことだい?」

 そのタイミングで後ろから彼らがやってきてしまったのだ。

 しかし彼らも状況は理解出来ない。味方も敵も判断しようがないほどに彼らは混沌としていた。

「何がどうなっているんだ?」

「とりあえず皆、銃を下ろそう。何が起きているのか情報収集をしないとどうしようもないよ。頼むから、銃を下ろしてくれ」

 摩耶が冷静に諭す。どうにかしてこの場の状況を理解しないことには彼女達が予期している最悪の事態を回避する手立てすらなくなってしまう可能性があるのだ。

 ここに全てが揃ったとき、まるでこの時を待っていたかのように雪空が急に陰った。見ると滑走路に駐機していたはずの輸送機が一機こちらに突っ込んできたのだ。いや、正確に言えば投げ飛ばされたというほうが正しいのだろう。

「離れろ!」

 なんにせよ、狙いは鳥海とマルカのいる連絡橋だと気づいた少年はすぐさま少女を左脇に抱え、桑原製軽便拳銃を取り出しては窓ガラスに向かって乱射した。そのままの勢いで六個の穴が開き強度が落ちたガラスを突き破った時にはじめて気が付いた。

 ずっと一階だと思い込んでいたここは二階だったということを。


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