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閑話~本当の地獄~

ここからまた更なる深淵に引き込まれていくことでしょう。ゆっくりと、しかし確実に

「やはり、FSBの連中が言っていることは信用なりませんね」

 全くの皮肉なのか、足を進めても人間に出くわすことはない。どこまで行ってもそこら中に転がる金属と合成皮膚の群衆が何も言わず立ち尽くしている。

 どれだけ歩いても目的の場所へは向かえない。まるでさっきから道が回っているような感じさえもする。

「一向につかないな……」

「それどころか、他の同志達も見当たりませんね。流石にここまで誰とも出会わないと不気味になっていきますね」

 お互いの存在以外全てが現実か、幻想かも分からない暗闇の中を彷徨っている感覚に陥ると、次第にこの状況に耐えられるものと耐えられなかったものの差がで始めた。

「い、いつまでこの廊下は続くんでしょうか」

「分からない。一体何がどうなっているのかもだ。しかし今は進むしかない」

「そうですよね。同志」

 その時、何かを思い出したように白の銀華が声を上げる。

「あっ、あの、ポルコヴォージェツ」

「どうした?」

 彼女は今までの雰囲気とは違って少し、榛名に近いようなオドオドしながら話を始める。

「その、私とお姉……中将は顔も名前も全く同じではないですか」

 唐突に不思議なことを言い始めたものだ。そもそも異母姉妹なのだから似ている上に息子は母に、娘は父に似る、といった言葉があるようにその方でも似ていたのだろうから仕方がないとはいえ、流石の鳥海もパッと見ただけでは判別がつかない。

「まあ、そうだな」

「それで、ですね。その……私のことをクリヤトヴナと呼んでくれれば、区別がつくかなと思いまして」

「それは……」

「はい。父称です」

 父称というのは、字のごとく自分の父親の名前をミドルネームとして使うことを指す。即ち彼女達の父親はクリヤトフ=カウロフという名の男だということを示しているが、そんな人間はもうこの世界に存在しない。彼の意志だけがこの世界に生きているのだ。

 そして

「いいのか?」

「ええ。父のことはあまり好きではありませんが、姉と混同するくらいなら問題はありません」

 先ほどのオドオドした感じから少し、軍人然とした固い気持ちを感じる。

「いや、それもそうなんだが。ローザはそれでいいのかと思ってな」

 通常、父称は私生児が名乗るものなのだが、今回に関しては事情が事情なのだ。こちらが口を出す問題ではないことは承知でもこちらが名前を呼ぶのだから気にはなる。

「私には、初めから父親なんてものはいません。当然、父称なんてものも持ち合わせてはおりませんので」

「そうか。余計なことを聞いたな」

「お気遣い感謝します。タヴァーリッシ」

 とんだお世話だったようだ。しかしこんな話で気を紛らわしても一向につく気配がないのである。

「タヴァーリッシ。ここ、どこなんでしょうか」

「わからない。ここがどこなのかも、どこへ向かえば良いのかも」

 この会話を最後に、もう何分も口を開くことなく黙々とただ歩いている。だがいくら歩こうがどこにも出られない。まるでそもそもここから移動していないような錯覚にとらわれたような気分になり始めた。

「……」

 最悪の思考が頭に浮かび上がってくる。それはこの状況をどうしようもないものであると彼女達に告げてるようなものだ。

「なにか、思うところがあるのですか?」

 ローザが聞いてくる。ほんの少し考えた後、少年はゆっくりと口を開く。

「もしかしたら、の話だが。俺達は残滓に捕らわれたのかも知れない」

「残滓、とはまた。聞いたこともないですが」

「ああ。彼らは恐らくだが旧時代の人間が残した亡霊だと達は考えている」

「プリーズラク、ですか」

 まだ、何も確証がない道を。彼らは歩くしかなかったのだ。


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