先の見えない、不安
先週のお休みのあと無事、こうして連載を続けることができて私は幸せ者だなぁと思っております。
戦闘をすることは分かってはいたが、そのための準備をする時間などなかった彼らはたった三、四の予備弾倉しかない拳銃や敵から鹵獲した小銃を手に先へ進んでいる。
「こういう時に言うのもなんだけど、意味の分からない訓練っていうのはないもんだな」
「そうっスね。どこで銃を喪失するかわかったもんじゃないっスからね」
「お前、ほんっとカイのこと好きだよなぁ」
「いや、本当に師匠は物事を的確に言い当てられるなって」
「確かに不思議なくらい当たるよな。でもまぁ想定は出来るから、とか言いそうだな」
「あー、言いそうっスね」
戦闘の合間には少しの余裕ができる。今のうちに作戦や補給、今回の場合は敵はいったい誰なのか調べる必要もあった。
「それよりソウ。まだ能力は使えないのかい?」
「ええ。恐らく陛下が人形を使用しているのだと思われます。実はあれ、あまり燃費の良くないものでして、陛下にお気を煩わせるわけにはいかなかったもので説明しておりませんがあれを使用している間は他のことには使えんのですよ」
「ということは、カイくんは今、誰かと戦っているの?」
「恐らくながらに我々が遭遇したものか、あるいはそれ以上のものと戦闘しているのではないですかな。流石に小官の能力では陛下が何をなさっているのかはわかりかねます」
能力というものは当然といえば当然なのだがその力に応じた代償を支払わなければならない。しかしそれも様々あり例えば秀明や吹雪のように能力を発動し続けなければならない能力者はその間ずっと代償を支払い続けることになる代わりにそこまで大きなものを求まれることはない。
それに対して摩耶やリーのように一度能力を使用すれば恒久的に物体を保てるものはその作成、召喚するものに応じて代償が必要となる。
当然、一部にも例外が存在する。この小隊で言えばミアは常に任意の人物の心を本人の意思に関係なく読むことができるし、時雨の場合は能力を使用すると人格変動が起こることも分かっている。
鉱産資源が有限であるように彼らの能力もまた、無限ではないのだ。
「しかし、少なくても私達より先に彼らと戦闘していることは事実でしょうね。そうなるともう敵はそこら中にいると考えたほうが良さそうね。私はどこかに隠れていたほうが良いかしら?」
「どうしてそんなこと言うの、お姉ちゃん」
「私は武官ではないから、銃を扱う訓練は受けていないの。だったらいっそ、その辺に隠れていたほうが貴女達の負担にもならないと思って」
「どうしたんだい急に弱気になって。大丈夫、比叡がいても誰の負担にもならないよ。いつでもあたしが守っているからどこかにいなくならないでくれないかい?遠くに行ってしまうほうが心配で仕方ないよ」
「摩耶……」
今、最も心配しているのは他でもない摩耶だろう。何せ自分の弟が一体何かは分からないが敵と戦闘を繰り広げているのだ。心配しないほうがおかしい。当の比叡も榛名がどこかで戦争をしているのをただ椅子に座って待っていられない程に心配をしているのだからいかに心配なのかは良くわかっている。
しかしあの弟のことだ、そう易々と敗北するわけがない。とにかく今は一刻も早く彼と合流を果たし現状を確認しないといけないのだ。
「そうよね。ごめんなさい、変なことを言って。やっぱりダメね歳を取るというのは、段々とひねくれていくわ」
「大丈夫よお姉ちゃん。そんなことで嫌いになったりしないわ」
「ありがとう、ハルちゃん」
彼らは前に進む。それしか道がないわけではないが恐らく彼はこの道を通ったであろうと思うところを進んでいく。道中で二、三体ほどの人形と戦闘をしたが何ら問題なく終了した。
そこから更に歩くこと数分、目の前にはかなり奇妙な光景が写っていた。
「これは、人形同士が争った。ということかの」
「ええ、近くに人はいませんし血痕もありません。しかしいったいなぜ?」
「分からん、とにかく殿と合流するほかなさそうじゃな」
もう誰が味方なのかもわからない。唯一信じられるのはこの場にいる十二人と彼女らの王だけである。
「隊長、もしよろしければ朧ちゃんが偵察をしたいと申しているのですが……」
「ならん。お主は能力の代償が大きすぎる。今は状況が分かっていないが故、迂闊に戦力を分散するわけにはいかんのだ」
「私も賛成です。この現状を見ても誰が敵なのかはっきりしていないので偵察もそこまでの意味を成さないかと思われます」
「……確かにそうですね。了解致しました」
その時だった。進行方向から明らかな爆発音が響いた。彼らはとっさに近くにあった障害物に身を隠すが特段すごい衝撃が到達することはなかった。
「今の爆発はなぁに!?」
「すごい音だったねぇ。明らかにただ事じゃないよ」
「ねえねえブッキー、私達でこの先を見てきたほうがいいのかな」
「ううん、それはやめておこう。今この場で下手に動けばどうなるかわかってないからね」
「そ、そうだよね」
不安そうな表情を浮かべる弥生に吹雪は優しく言葉を贈る。
「大丈夫だよ。きっとこの先にカイちんがいて、敵をやっつけてくれたんだよ」
「う、うん」
半ば自分に言い聞かせるように頷いた少女は少し顔を覗かせる。周囲に誰もいないことを確認してゆっくりと通路に体を出した。
「誰もいないみたいだよ」
別の障害物から身を乗り出した秀明が警戒しながら言った。
「なあ、この状況は何かおかしいと思わねぇか」
「いいや、初めから何もかもおかしいよ。何も正常じゃない。もうこの空間自体が異常になってしまったんだ」
「となると、もしかすればアレが出現するかもしれませんな」
「それは厄介ですね。対策もないし言葉も通じない相手であった場合には私達は何もできませんから」
「とにかく、このまま進んでいけば陛下の元へとたどり着けることは分かりました。今は、それしか希望がありません」
彼らは先ほどよりも慎重に、前へと足を踏み出した。




