目覚めと共に
自分の作品を見ていると昨今の人気作品に比べて非常に肌色成分が足りない代わりに赤色成分が多いのではないかと思い始めたので平和要素の追加をしました。
目を覚ます。どれくらい眠っていただろうか。こんなにゆっくり眠れたのは何日ぶりだろうか。彼は朝起きると体を伸ばすのだが今回は右手に何かが当たった。視界はあまりはっきりしない。柔らかいものが自分の上にあるそうだ。
「カイくんっ、カイくんってば!」
ぼやけた視界の中でハルの声がはっきり聞こえる。しかし自分の天秤はどうやら彼女よりもこの何かの正体を掴む方へと全力で傾いてしまったようだ。
試しに持ってみる。そもそも浮いているのだからこの表現が適切かどうかは分からないが眠いのであまり深く考えないことにする。ずっしりと重い、しかし金属の様には固くない。何とも形容しがたい。枕か……いや違うな。もう少しこう、人間らしいなにか……ん、そういえば俺はなにを下にして寝ているんだ。
「あっ、ねえっ、カイくんってばぁっ!」
嫌な予感が全身を駆け巡って変に動けなくなる。この間ヒデが人間の体は何とも言えない独特の柔らかさがあると言っていたがとにかく、調べない事には分からない。俺が触っているものを物体X、俺が枕にしているものを物体Yとしよう。
まずはXからだ。試しにまた軽く揉んでみる。
「んっ」
ハルが反応した。声が結構近い気がする。まあいい、次はYだ。どうすればこれが何なのか特定できるのだろうか。とりあえずもぞもぞ動いてみる。
「か、カイくん……」
彼女のか細い声が聞こえる。嫌な予感は的中したようだが目を覚ましたくない。夢であって欲しい。普通なら喜ぶのだろうが今はそんな余裕は全くない。
「と~の~、どこじゃ~」
レイまで来た。
「マスター、どこにいらっしゃるのですか」
知ってた。
「む、榛名殿、殿がどこにおられるの……か……」
レイの言葉が切れる。どうやらこの事態に気づいたらしい。この場にいる全員が固まる。人間の記憶を消す能力が欲しいと初めて思った。今までは厄介な能力だなとしか思わなかったのだが流石にこの場面になって必要のなるとは、もう嫌だ。
ここから先は大喧嘩の始まりである。もうこうなったら手の打ちようがない。
「榛名殿、とりあえず離れるのじゃ。それと殿、いつまで寝ているのじゃ」
「そ、そうね」
目を開けた少年はその光景に興奮するわけでも、どぎまぎするわけでもなくただやはりそうかと思うだけであったが、目の前の小さな少女はご立腹の様子である。
「まず榛名殿、事の経緯を説明してもらおうかの」
榛名と引き離された。リーが彼女を正座させる。
少し遠くであぐらをかいて傍観しているとミアがすっと彼の横まで来ては逃げないように右腕を絡めとる。向こうの見かけはまるで小さな軍法会議でも開かれているようだがこっちはこっちで面倒ごとが発生した。
「えっと、カイくんを探しててこの丘に辿り着いたら気持ちよさそうに寝てて、邪魔しちゃ悪いかなって思たから膝枕をして待ってたら……」
「そこじゃそこ!なんで膝枕することになるのじゃ!」
「だって、カイくんの寝顔が可愛かったから、つい」
「ついなんじゃ!?これだから榛名殿は目を離すとすぐにもう!」
もはや怒っているのか羨ましがっているのか分からないことをぎゃーぎゃー騒ぎ始めたのだがそんなことはお構いなくミアはミアで鳥海に色々な事を聞き始めた。もちろん、体を密着させて耳元で囁くように。
「マスター、こんなことを聞くのは良くないことだと思いますが榛名様のその……感触はいかがだったのでしょうか。いえ、別に深い意味はないんです。ただ、参考になるかなと思いまして」
…逃げたい。とりあえず誰か応援を呼びたい。
「マスター、無駄ですよ。貴方がお探しのものは左のポケットにありますが今下手に動こうとしたら、分かりますよね?」
色っぽく言ってくる。脅しているのか楽しんでいるのかどちらかにしてほしいものなのだが。いつの間にか彼女は少年に抱き着くような形をとっており、見事に彼の左腕を封印している。下手に動こけばその少しサイズの小さいメイド服から何かがこぼれ落ちても可笑しくはないのだ。全く笑えない。しかもぎゅっと抱き着かれる為色々と当たってくるし。
「これ、ミア!何をしておるのだ!」
小さな少女の怒りは収まるどころか一緒に探しに来たミアにも向くが彼女はお構いなしに勝ち誇った笑みを浮かべながら引っ付いてくる。
「――!!」
リーが突撃する。両サイドに挟まれる形で捕まった。右側は楽しそうに、左側は罠張りを侵された猫の様に、すっごいうるさい。これは本格的にどうするか考えなくてはいけない。しかし、彼は重要な事を一つ忘れていたのだ。
後ろから柔らかいものに包まれる。振り返らなくても誰かは分かる。
「えへへ」
いや、えへへじゃない。どうにかしてくれ。
「榛名殿まで!お主はさっき十分楽しんだじゃろ!?」
うるさい。もう少し静かにしてくれ。
「隊長、マスターがもう少し静かにしろと仰ってます。このままでは耳が壊れると」
…面倒くさい。
助けを呼ぶこともここから逃げおおせることも出来ないまま、小一時間過ごす羽目になった。




