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激戦と死の境目

とうとう物語も折り返しに来た…のかなあ。

計画性?それなら月に旅立ったよ(遠い目)

 激戦は続いた。

 持ち得るすべての力を注ぎ込みお互いに一歩も引かない戦いであった。

 2発目のロケット弾が瓦礫に当たり、その衝撃で鉄骨やコンクリートが飛散した。それは敵の胴体を貫通し、吹き飛ばした。

 鳥海も例外ではなく、

「ぐッ、くそ!」

 後ろから一本、鉄骨に腹部を貫かれた。

 鳥海は咄嗟に鉄骨の動きを止めた。そのまま貫通すれば出血がとんでもないことになるところだった。しかし、敵は攻撃を止めてはくれない。さらなる銃弾が迫ってきた。

 どれだけ優れた能力を持っていても使うのは人間。いくら鳥海が常人離れしていたとしても、化け物と呼ばれようとも、同時に2つの事を成すのは難しい。

 凶弾が彼を撃ち抜き殺してしまおうと迫った時。彼の肩に掛かっていた無線機が激戦の流れ弾で外れ、その銃弾にぶつかった。

 その衝撃で無線は壊れ、外との連絡は取れなくなった。

 全身に銃弾を浴びながらも本能的に致命傷になる銃弾を止めて撃ち返した。

 小銃のスリングに銃弾がかすりその衝撃で彼の手から小銃が落ちた。

 それでも拳銃を取り出し撃ち続けた。

 彼は実に30人以上の人間を殺しつくし、戦場を赤く染め上げた。


 ――あれからどれだけ経ったか分からない。1時間かもしれないし、10分かもしれない。

 静まり返った戦場。残っているのは炎と瓦礫と人であったもの、火の粉が散る音が時折するだけの場所に立っていた。銃弾は尽き、服は所々破けては血で赤く染まっている。誰の血かはわからない、少年の髪のような色をした地面。

 彼は地面に捨てた小銃を拾い上げ、ふらふらと日陰に座り込んで装備の確認をした。小銃の弾は尽きた、拳銃には一発だけ残っている。無線機は彼の命と引き換えに壊れてしまっていた。

 彼の意識はあまりはっきりとしていない。彼は自分が負った傷を見た。

 腹部にはまだ鉄骨があり、先ほどから血がとまらない。口の中は鉄の味がする。

「ハァ、こりゃあ、内臓もやられてるな、うっ、ゴフッ、ゴホッ、ゴホッ」

 彼の口が真っ赤に染まる。息も満足にできない。

 遠くに彼の故郷が見える。彼は『()()』の生まれだ。彼の他には幼い頃の仲間が見える。彼は銃をおいて左手を伸ばしたが、不意にその腕が視界から消えた。

 皆で楽しく遊んでいるのだ。これはあの頃の記憶、今となっては夢でしかない。

 アルファ小隊の面々を思い浮かべた時、ふと思った事を呟いた。

「あいつらは無事に、艦隊と合流できたのかな……」

 少年は自分が死にかけているというのに今はいない全員の心配をしているのだ。

 彼らは無事だろうか、自分がいなくなって悲しんでいるのではないのだろうか。

 そんなことを思っていると笑いが込み上げてくる。何を考えているのか。吹雪をここに置いて行ったのは他でもない、自分だ。

 これは罰だ。

 仲間を見捨てた無能な指揮官への罰だ。自分はもうすぐ死ぬだろう。でもそれは不思議と怖くなかった。

 目をつぶろうとした時、1人の少女が現れた。

「あらら、これは酷い。どうしたもんか」

 目の前の少女は笑みを浮かべながらこちらと目線を合わせてきた。

「久しぶり……だな……レイ」

「…久しぶりじゃの。その呼び方をするのは殿だけじゃから少し困ったわい。まあ、傷が深いゆえ、あまりしゃべらんほうがええぞ」

 彼女は杏麗(シン・リー)、自治国家の軍人で鳥海の友人。階級は、確か少将だったか。本当に同い年とは思えないほどに弥生くらい小さい。

 そして鳥海によく突っかかる。――鳥海自身は特に何も感じていないが、よくわざとらしくその小さな双丘を押し付けていたりすり寄って来たりなど、この世界の男女比が1:1であれば男性陣から凄く鋭い視線を浴びせられるだろう(鳥海が感じ取れるかは別であるが)――

 彼女は自治国家義勇軍の特殊部隊『楊丹(ヤンタン)』の構成員だ。そしてゲリラは義勇軍と繫がりがある。だから義勇軍の誰かがいることは大方予想はついていたが、いやしかし人口世界一の国からこんなところまでやって来る人物が既知だったとは意外だった。

「どれ、傷を見ようか。うむ……これは、良く生きておったとしか言いようがないのぉ」

「そんなに……ひどいか」

「ああ、全くどうしてこんなひどい目に……」

 そう言いながらリーはそっと彼の頬に手を添えて、慈しむ様に眺めていた。

「案ずるな、きっと助けが来よう。それまでわしが守ってやる。して、その拳銃は使えるのかえ?」

 答えるより先に銃を彼の手から取り、スライドを引いて確認していた。

「最後の一発……これではそなたを守りきれるか心配じゃのうて」

 よっこいしょ、と彼の横にしゃがみ辺りを見回していた。


 銃を取られた後のことは分からない。もう意識があるのかどうかすらも。

 遠くで声が聞こえる。自分の大切な幼馴染の、榛名の声だ。

 その声に応じようと最後の力を振り絞って叫んだ。

「ガハッ、ハァ、ハァ、俺はっ、ぐッ、ゴフッ、ゲホッ、ハァ、ハァ、ここに、いる……ぞ」

 返事はない。

 榛名がここにいるはずがない。

 そもそも声を出せたかどうかさえ分からない。

 でも、もしかしたらいるのかもしれない。

 その最後の望みに賭け、彼は一発を撃つよう彼女に伝えた。

 もう、彼は何も見えず、聞こえなかった。

 自分は幻想を見ているのだ。自分の名前を呼んでいる彼女の幻想だ。最期に聴いたのは彼女だったと、そう思いたかったのかもしれない。否、そう思いたいのだ。

 ただ、どうして少年は自分の姉でもなく、謝るべき吹雪でもなく、ほかの誰でもなく榛名だったのか、分からなかった。しかし、彼はもうそれを思考するのに必要な血もなかったのだ。

ああ、もう死ぬんだな。

 彼は自分で立てた決意さえも成し遂げられずに終わることを悔やんだ。

 それは吹雪をショッピングモールに連れて行こうとしていたことだ。それくらい誰かがやってくれるだろう。でもそれは自分の罪滅ぼしにならない……連れて行ったところで罪滅ぼしになるかどうかも分からないが。それだけが、唯一の心残りだった。

 寒気がする、感覚が薄れていく、自分が朽ちていく。

 どうせこの場所は共和国海軍によって爆破される。その為に『ジャガーノート』の海軍部隊を用意したのだ。跡形もなく、自分を巻き込んで全てなかった事にする為に。

 ――化け物にはこの死に方がお似合いだと自嘲気味に微笑みながら、彼の意識は深い海に沈んでいこうとしたが、いつまでも声は少年の名を呼び続けた――


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