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同じ高さになるくらい  作者: 岡本晴
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本に囚われた

胸を当てるように机に近づき、作業を始める。


ソフトに番号を登録し、印刷したバーコードを本に張ってから棚に収める。それだけだ。


稀に蝉の声を聴いて外の暑さを思い出しながら単調な作業を続けていると、図書室のドアが開いた。


顔をあげて見ると、よく見かける女子だった。


自分と同じ学年ならある程度みかけるけれど見かけたことはないし、前に一年の校舎へ続く廊下で見かけたから、おそらく1年生だろう。


週一度の図書当番なのに、僕ですら分かるくらいだから、かなり頻繁に通っているのだと思う。


今日は一般生徒に開放しているわけではないのだが説明するの億劫な事と、特に困らないので止めなかった。


彼女はそのまま視線を俺に合わせることなく、窓に近くカウンターから1番離れた机に座って、持っていたハードカバーの本を開いた。


俺は最後の一冊を登録し終えて、新刊と返却されていた本をカートに乗せて本棚へ向かった。


五十音順に本を差し込み半分を過ぎた頃、すぐ隣に人影を感じた。


振り返るとあの女子だった。


「すみません、借りたいんですけど、いいですか?」


俯きながら話しかけてきた。


「わかりました。」


返事をしてカウンターへ戻る。


足音で一人分空けてついてくるのが分かった。


残り数冊だったけれど仕方ない。


カウンターに入って小さくお願いしますと呟く彼女から文庫サイズの本を一冊受け取る。


俺の好きな作家だった。


その作家の作品の中ではあまり有名ではないが、既に読んだことのある本で、面白かった。


本の内容に馳せそうになりすぐに受付の作業に戻る。


バーコードを通して渡す際に初めて正面からしっかりと彼女を見た。


よく見ると差し込んだ陽に照らされて、髪色がこげ茶をしている。


その時初めてまだ図書室の明かりをつけていなかったことに気が付いた。


今更つけても遅い。


「返却は2週間後の15日です。ありがとうございます。」


お礼を言い慣れていないからどうしても口が落ち着かなかった。


彼女は俺を見て一度手を止めた後、本を受け取った。


あまりいい気はしない。


彼女が図書室を後にしたのを見てカートのあるところへ戻り、残っていた数冊を棚に差し終えて。俺も帰路についた。


まだ外は明るかった。


ローファーに履き替えて昇降口を出ると、運動部の活力ある声が聞こえた。


丁度学校の外周を走っていたのだろう女子部が校門に戻ってきていた。


出来る限り避けて通ろうとしていた時、その一段の中から俺へ向けたと分かる声がかけられた。


「渡!」


別れの挨拶だけなら俺へと向けていると判断できないので無視できるけれど、名前を呼ばれてしまっては仕方ない。


振り返るにとどめてその場に立ち止まった。


彼女から傍に寄ってくる。


声の主が誰かは想像がついていた。

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