謎の建造物
「心当たりがあるんだ。」
「心当たり?」
ミアは恵瑠の肩から手を離す。
「ね、アール?」
恵瑠に呼ばれたアールが横にフワフワと浮き上がってきた。
「アールさん?あの、心当たりとは何なのでしょう?」
と春香が尋ねると、アールは
「皆、恵瑠が別の世界から来たってのは知ってるか?」
と、尋ねた。
「ハァっ!?別の世界ぃ!?」
とミアは声を上げると、
「初耳です。」
と、冷静に答える春香。
「・・・・・。」
翼は黙って大分前のことを思い出していた。
それは、アールの存在を知る前の出来事。恵瑠が寝ているとき、たまたま部屋の前を通りかかった時、恵瑠の寝言が聞こえたのだ。「くるま」とか、「あの時」とか、「どうして」とか、後は「かりん」とか。
翼は聞いてはいけないものだろうと思い、すぐにその場を去ったが、その言葉が少し気になっていた。
「実は恵瑠は別の世界で不思議な女の人に出会って、その人にこの世界に連れて来てもらったんだ。」
「連れてきてもらった?帰りたいとは思わないの?」
とミアが尋ねれば、恵瑠は暗い顔で下に俯いて、アールも暗い顔をして長々と話した。
「実は、その世界では、周りの人に沢山ひどいことをされたんだ。自分の所有物には落書きされて、当然のように自分の悪口を言われて、後は殴られて蹴られて・・・。家族も皆、私を嫌って、弟だけを大事にして、私のことだけは何一つ気にしてくれなかった。自分に親切に接してくれていた人たちは少なかったけどいた。でも、そのうち皆いなくなった。そして、自分を一番信頼してくれていた人は手の届くところで死んだ。」
恵瑠は涙を流しながら耐えようとしていた。その震えるこぶしを翼は優しく握った。
ミアと春香は静かに俯いて、アールの話を聞いた。
「この世界に来てからは、過去に目を背ける自分の中に、それでもあの世界の人々に復讐しようとする自分がいた。それが私だ。そのために私はあの世界への行き方を調べていた。そうして見つけた方法が、遥か北西の方だ。」
「は、遥か北西?」
と、ミアは何かを思いついたような表情をして、紙とペンを持ってきた。
そして、その紙に簡単な地図を書いていく。
書き上げられた地図には、真ん中にリトル街、そこから陰陽の里、マジョノ町、魔物の森、そして朱雀の国・・・と、様々なものが書いてあった。
しかしだ。翼はその地図の違和感に気づいた。
「・・・・北西が何もないな。そういえば、そこには私も行ったこと無いうえ、誰も行く気配はなかったな。」
「私たちは、行ったことあるよ。」
と、さっきまで震えていた恵瑠が言った。心なしか、顔が少し赤くなっていた。
そしてアールは再び話を始める。
「うん。あの時私が手始めにこの世界を自分の影で染め上げてやろうとして、この世界を支配しようとしたことがあったじゃん?その時、恵瑠と戦ったことがあって、それがこの北西の所だった。」
「あそこにはでっかい神殿があったの。あそこは何か神聖な空気が漂っていて、誰も気づかせず、誰も近づけないようなオーラを放っていた。」
と、恵瑠が途中で話すと、アールは
「そう、私はそこがこの世界の出口だと見て、あそこに行った。」
と言えば、春香は
「つまり、そこに行けば、神々の首都に行ける、と。」
と確認すると、アールが、
「あくまでも、かもしれないだよ。」
と言う。
「でも、誰も行ったことがないんでしょ?行くべきでは、あるわよね?」
と、ミアが言う。
「じゃ、行ってみるか?」
と翼が確認すると、恵瑠は
「もちろん!」
と言った。
こうして恵瑠達は清爽の森を出て、遥か北西に向かうのであった。