73. オリジナの初戦2
なんか締まらなかった...
とりあえずオリジナの試合が終わります!
死神狐は岩を目前にしたところで足止めを食らっていた。
「うわ、マジかーやだわー」
進んでも進んでも景色が変わらない。確かに岩はほんの先にあるのに、どう走っても岩に近づけないでいた。
元々短気な死神狐である。速攻でキレた。拗ねた口はさっきからこの通りで、とにかくむしゃくしゃする。
(なんかの魔法に引っ掛かったとか...うわーうぜぇ)
幻覚の類いではない、足はちゃんと地面を走る感覚がある。
岩自体が光魔法による幻影、これも違う。死神狐の鼻は岩の匂いを感知している。
風もある、飛ばされてきた木葉が当たることから魔法による隔離でもない。そもそもこんな高精度な景色にする必要もない。
「マジやだわー!!!」
空に吠えた文句は木霊することもなく消えていった。
一方、ユイナたち。
「さぁショーの始まり。まずは猫ちゃん、貴方よ」
名前忘れた...えーと、誰だっけ? まぁいいや、マジックちゃんでいいか。
マジックちゃんがステッキを2度叩く。広がる魔方陣は水色、水魔法か。
「この水玉に、こちらの炎を入れます」
もう片方の手に灯した炎を、どうやったのか水玉の中に入れる。消えてしまうはずの炎が中で燃え続けている。
「どう? 綺麗でしょ。こちらを、猫耳の可愛い貴方に差し上げます。ただの水ですから攻撃能力はありませんよ?」
差し出された炎入り水玉。
ちらっとマナリアを見ると、頷いた。言っていることは本当らしい。
受けとると確かに水だ。上が開いてるわけでもない、どうやって火を入れたんだろ。
「ではでは、赤髪の貴方にはこちらをプレゼント!」
マナリアにはパチパチと電気の綺麗な水玉を渡す。
マジックちゃんはにぱっと笑うと、
「では、今から人体消失マジックを披露します! 観客の皆様、よくみていてくださいね!」
「「!!!」」
水玉がうねる。
とっさに手を離した水玉の水と炎、電気が融合する。そこから生まれるのは莫大なエネルギー。
マナリアが逃げようとするとするが間に合わない。爆発の寸前、マナリアの手を掴んでこちらに引き込む。
林に爆音と衝撃波が走った。
会場がざわめく。
『あーっと!? これは至近距離、オリジナの2人は大丈夫なのでしょうか!?』
爆煙がもくもくと草原を包む。その中で勝ち誇ったぺテロが防御魔法を広げて佇んでいた。
回復バッチの光柱は見えない、だが2人の安否もわからない。
会場が静まる中、時間が過ぎていく。
「あれ、まさか木っ端微塵にしてしまったかかしら!?」
煙が去った跡地は抉れ、クレーターのようになって地面が露出していた。林は爆風で薙ぎ倒されている。
そこにユイナとマナリアの姿はなかった。
しかし、
「っ、これは...逃げられた!?」
クレーターの中央に丸く残った草地、ぺテロの攻撃は防御されていた。
「...マジックとしては成功だけど、これは残念ね。でも私たちにはとっておきがあるのよ」
気を取り直したぺテロは隠れていた大男のガガを連れてステッキを振る。
2人はポンッと白煙を飛ばして消えた。
一方ユイナたち。
爆発をユイナの魔法で防いだ後、マナリアの指示で林を越えた草原に出ていた。
「さっきもだけどあのぺテロって子厄介ね、複合魔法が上手。でも見抜いた私の方が凄いから!」
はいはい、何時ものマナリアだねー。
「...で、罠の魔法って?」
罠魔法、さっきマナリアが気付いたマジックちゃんの魔法だ。魔法名ではなく、設置系の魔法の総称。
「草原にいた栗鼠人の子、たまたまいて私を狙ったんじゃなくて、あそこが罠の仕掛け場所だったから排除しようとしたのよ」
「罠って見えた? 私分からなかったけど」
魔力も感じなかったし、違和感はなかったと思ったんだけどな。
「あのぺテロファミリアって魔法以外に沢山のアイテムを使って奇跡を演出するチームなのよ。ほら魔法ってわかる人にはバレちゃうでしょ? それがわからないから奇跡なの」
ネタがわからない魔法...この世界版マジックじゃん。
走りながらマナリアが解説してくる。っていうかマナリア、詳しいな。
「わからないならマナリアは何で罠があるってわかったわけ?」
「あの栗鼠人の子が消えた跡に水晶の欠片が沢山あったの。全部魔力が籠ってた、たぶん簡易魔方陣よ。あの子が設置した後にぺテロたちはあの地点に転移する、多分今頃は移動済みね。そこで欠片を使って何か魔法を組み立てようとしてるはず」
そうなんだ?
ちょっとよくわからないからマナリアにお任せしよ。
「その魔法が奴らの切り札なら、確実に岩を狙ってくるわ。欠片を潰せば阻止できると思うけど、....ばらまくタイプの魔道具だから其処ら中にあるじゃないの!」
ダンッ! とイライラ混じりに踏み込んだマナリアの脚が落ちていた欠片を砕く。
うわーほんといっぱいあるねー。ってマナリアこわっ、鎮まって...
「じゃあなんか動けない死神狐に代わって私が岩を壊してくるってのはどう?」
要は相手の魔法発動より早く勝てばいいんでしょ。
頑張ればそんなに時間はかからないと思うけど、マナリアが首を振る。
「んー、それも良いけど...いい考えがあるのよ」
その赤い瞳が妖しく輝いて、心なしか薄ら笑いを浮かべているマナリアにガラにもなく背筋がゾクッとする。
え、なに、なにそれ顔怖い、怖いよマナリアさん!?
猫耳がぐいっと摘ままれて、観客に聞こえないように耳打ちされる。
「ね、ユイナ。魔力くれない?」
はい?
「ユイナなら、この魔法で出来たフィールドの地面を通して私に魔力を送るくらい出来るでしょう?」
マナリアがマジな魔女になりました。
常人からかけ離れたことをやるなと散々私に言っておいて、ぶちギレたら今度はやれと言ってます。しかもなんか絶大な信頼を寄せられている....。
「......で、それで何するの?」
これは一応聞いておかないと。金借りるときもそうだと思うけど、使用用途を明らかにしてくださいってやつ。
「ん? もちろん...」
怖いほど明るい笑顔で、ごく自然な事のようにマナリアは言い放つ。
「焼くのよ全部。この草原」
...............だそうです。
一方ぺテロたちは草原に来ていた。
その無残な草の焼け焦げ様に顔をしかめるが、地面には水晶の欠片。既に目的は達成しているようだ。
「さぁガガ。ちゃんとあいつらの動きを止めなさいよ?」
ぺテロは魔方陣を編んでいく。くねらせる両手はしなやかに、ステッキを回しながら地面に術式を描いていく。
その場には大男のガガはおらず、1人別のところに転移したようだ。
地面に完成した複雑な魔方陣の中心、魔力線が集約されたど真ん中にステッキを突き立てる。
「さぁ、ショーの始まりよ」
魔方陣が魔力線を伸ばして円を増やしていく。円同士が交差する点には地面にばらまかれた欠片が輝き、その範囲をフィールドに拡げて完成していくいくそれは巨大魔方陣。紅日の輝きが草原を赤い光に埋めていく。
「ちょっとほら早くじゃんじゃん注ぎなさいよ、なんかもうあっちは魔法出来始めてるじゃない!」
「ゆっくり入れないと身体弾けるんだってば....」
ギャーギャー急き立てるマナリア。その足元の地面を通過させて魔力を身体に流し込む。
魔力を動かせるとはいえ、他の魔法に割り込ませるのは難しい。台風の中で針に糸を通すようなものだ。
糸を通しても細い脆い穴を壊さないようにゆっくり糸を動かさないといけない。
「ほらもっと!」
「...はいはい。そろそろ魔法組んで、こっちが合わせるから」
魔力の操作はマナリアも出来るだろう。もう諦めてとにかく丁寧に魔力を送り込むことに専念する。
観客はただ立ったまま動かない私たちを見て首をかしげているだろう。まぁ、その方がいいんだけど...
マナリアの内臓魔力が馬鹿みたいに膨れ上がって、オーラのように赤い炎が漏れ出る。
「さぁ。あんたたちの小細工、まとめて焼き払ってあげるわ」
眼を開いたマナリアが突き出した杖、その魔石が赤い閃光を放つ。空気を揺らすような炎の魔方陣が展開され、照準される。
「いっけぇっっっっ!!! 超広範囲・炎雨ッッ!!!」
それは雨とはあまりにもかけ離れていて、地に降り注ぐ隕石群のようで。
魔道具の造り出すフィールドさえ業火に沈め、引火した油のように拡がっていく。
「なによこれぇぇ!?」
「知らねぇし!?」
大魔法を今まさに撃とうとしていたぺテロたち。編み上げた魔方陣すら焼き尽くされ、ガガは退場。一人残ったぺテロは防御魔法を展開し、地に這いつくばる。
(まだ負けじゃない! この炎は私の魔法を突破出来てない。私が炎に紛れて奴らの岩さえ砕けば勝ちよ!)
だが、ぺテロの思惑は叶わなかった。
なぜなら、試合終了のコールがかかったから。
「えっ...?」
呆然とするぺテロを他所に、フィールドが消えて元の闘技場が現れる。
固まってしまったぺテロに近寄るのは死神狐。
「いやぁ焦ったよ、走っても走っても景色が変わらなくてさ。でも仕掛けは簡単だった。よく思い付いたね、靴の裏を進行方向と逆向きに回転させるなんてさ」
「っ...!」
見破られた、ぺテロのマジックが。そのネタが。
『グリムリーパーの鮮やかな遠隔狙撃が岩を粉砕! オリジナチームの勝利です!』
会場が湧く。それはぺテロたちにではない。
「ま、あんたたちの魔法が先に発動してれば分からなかったけどね」
「うん、ギリギリだった。楽しかったよ、私は」
「俺もー」
オリジナの3人は笑ってぺテロに別れを告げ、退場口へ帰っていった。残されたぺテロの元へガガたちがやってくる。
「失敗も成功の内だよ、次は俺たちがボコボコにしてやればいいよ」
「ほら、みんな待ってる」
顔を上げると、観客席の中に出場しなかったチームメンバーたちの姿。誰も、負けを責めることはなく、お疲れ様、よかった、頑張ったと声がかかる。
ぺテロはハッと息を吐くと、マジシャンの笑みで会場に一礼をした。
すいませんなんか途中から迷子になりました。
次回はおそらく観客組の話。ドラの冒険です。




