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71. 試合前、とある思い出

だいぶ遅くなってしまい読者の皆様、申し訳ない...です。しかも、初戦始まるとか言っておきながら試合がまだという。

次でちゃんと初戦です!

控え室にて

とある案内係の追憶


選手確認を終えたユイナとリサを案内係が連れてきたのは、フィールドの地下にある待機ルーム。円形のルームを囲うように併設された控え室の一室だった。


小さな部屋には丸椅子が4つに中央に簡単なテーブルが1つ。太陽の光が届かないこの部屋には、ランプの魔道具が壁に1つ設置されているだけ。少し薄暗い。

そんな緊張感を思い起こさせるような控え室はどこも時折ひそひそと話し声が聞こえるほどの静けさ。案内するこちらも緊張してしまうほどの空気の張りつめ様だ。いや、()()()と言うべきか。


「オリジナの選手きた! 案内よろ」


「っす。あ、こちらでーす」


通路係の先輩が、扉を開けてオリジナ選手2名を待機ルームへ案内してきた。どちらもまだ幼さの残る少女だ。って、あと1人いねぇじゃん。

いきなり広いルームに入ったことで、少し歩みが遅くなった2人に呼び掛ける。白っぽい水色髪の子がふわりと髪を揺らめかせてこちらを振り向いた。赤髪の子はズカズカとこちらに歩いてくる。


「どうも。私たちの部屋は?」


うわぁ、気の強そうな子だな。俺より大分ちっちゃいのに。


「ご案内します。こちらへどうぞ」


オリジナの部屋は一番奥だった。しかも両隣は強豪と知られる王都と我がアインシュバルトのチーム。どちらもピリピリとした空気が伝わってくる。


「こちらです」


「どーも」「ありがとね」


開いた扉に2人が入っていく。

ん、...ん? 今の子、なんか耳這えてなかったか!? 黒いの、猫耳か!?

営業スマイルを浮かべる俺の頭の中は?が発生しまくっている。そんな俺の手のすぐ横を、黒い猫の尻尾がウネウネしながら過ぎ去っていった。


「!?」


耳...に、しっぽ!?

いや可愛いけど、可愛いんだけど? あれ、ああいう装備なのか? いや、え、...うん?

にしては自然すぎるというか、.....え...?


「..? なにか?」


猫耳っ子が振り返る。と、同時に猫耳もこちらに向けられる。


「あ、いや、えー、っと。あぁそうだ、選手が3人全員揃ったら、自動退場用の安全バッチを渡しますんで。あと、呼ばれるまでは部屋に待機でおねがいします」


「わかりました」


パタンと閉められる扉。

え、あの子なに? いや、可愛いし、いい子だから何も問題ないけど。え、何、あの子。

オリジナの部屋からは何とも言えない雰囲気が伝わってくる。

なんと言うか、ほんわか?

他の部屋が殺気立っているのに、ここだけ花が飛んでいるみたいな。

しかし、それはもう一人の選手が到着すると同時に消えた。


「やっときた! こっちでーす」


キツネの皮を被った異様な姿の少年を部屋に通すと、赤髪の少女がこめかみに皺をつくって迎え入れた。

それからの部屋の空気は一変して、熱くヒートアップした。比喩ではなく、物理的に。

俺はしがない街の衛兵、アルバイトで一流の冒険者を見られたのは偶然だった。だからこそ、この日のことは一生忘れないだろう。

部屋がまるごと吹っ飛んだ、なんて日は。




◆◆◆◆◆





「遅いわよキツネ! もうすぐ試合始まっちゃうじゃない!」


「悪い、寝てた」


やっと死神狐が入室したのは、第1試合が終わった後。オリジナの初戦まであと30分を切った頃だ。

しびれを切らしたマナリアが死神狐を掴んで強引に座らせると、回復のバッジを押し付けるように渡す。

特に悪びれた様子もなく、死神狐はバッジを付ける。

マナリアはどかっと椅子に腰をおろすと、試合の大まかな作戦について口を開いた。

「もう知ってると思うけど、私、近接は苦手だからね。相手がこっちの懐に入ってくるようなら死神狐とユイナが応戦してよ」


完全にマナリアがリーダーだね、このチーム。


「ん? お前、最後の炎を纏ったやつは出来ないのか?」


死神狐が言っているのはオリジナ予選の決勝でマナリアが使った超加速の魔法のことだ。超人的な速さの死神狐とユイナの攻防に割り込んで見せた。しかし、マナリアは首を振る。


「あれは体への負担が大きすぎる。しかも、あんたたちみたいにもとの能力じゃなくて、魔法で身体のリミッターを外してるだけだから効果が切れたら私は戦闘不能で退場よ」


「そっか、じゃあ俺らの後ろで砲台か。神速は前衛? 魔法もエグいし後ろか?」


あー、どうしよっか。


「んー、遠距離も近接も大丈夫だし、中衛かな。どっちにもサポートつく感じでいい?」


忙しくなるだろうけど多分捌けると思うし、とにかく私は勝ち上がって王都のやつらと戦いたい。あいつらは聖教会の手先だし、直接じゃなくてわざわざ世間の目がある公式戦で挑んできたってことは、力を温存してそのあとになにかしてくるかもしれない。バッジがあるから身体のケガは治るけど、魔力は回復しない。せいぜい大会中に魔力を空にしておきたい。


「大変よそれ。まぁ、ユイナなら大丈夫ね」


マナリアは納得したように頷くと、そのままユイナに顔を向ける。


「で、ユイナ。1ついいかしら」

熱波が押し寄せ、...マナリアの雰囲気が変わった。なんか怖い感じなんですけど!? なに!?

笑顔を浮かべるマナリアだが、決して笑っていない。それどころか目が据わっていて無意識にしっぽの毛が逆立つ。ていうか、あっつ!?


「魔方陣、勉強し直しましょ」


マナリアが差し出してきたのは分厚い巻物。様々な魔方陣が手書きで書かれているその中には、前にマナリアとリサが教えてくれた風刃の魔方陣も含まれている。ほかにも、見たことのある、というか2人が熱心に指導してくれたモノばかりで...


「ね?」


あー、これはマズイ。オリジナ決勝戦で魔方陣作るのをサボったのがバレてる。

ド真面目なマナリアの目線が痛い...。

目をそらすが、マナリアが猫耳を掴んで引き戻す。マナリアさん、ちょっとそれは痛い。しかし、マナリアの眼が自業自得だと語りかけてくる。うん、反省しよう。


「...はい」


これは回避不能だ。諦めてちゃんと教えてもらおう。そして、この部屋の熱の上昇をなんとか収めてもらおう。


「それでよし。じゃあ早速やるわよ!」


マナリアは凍った笑みのままユイナの肩を抱くと、丁寧に魔方陣の説明をしていく。だが、その回された手はユイナの肩の肉に食い込んでいるし、説明のイラストを描いてくれるペンはさっきからインクの染みだらけだ。


「..だから風魔法の刃の部分はこの形の術式なのよ。わかる?」


「ひいっ...!」


優しい。いつになくマナリアの教え方が丁寧で優しい。死神狐が見てるからってのもあるだろうけど、とにかく優しい。あのマナリアが。

だが、それが逆に怖い。目、笑ってない。


「じゃあやってみて? 風刃の魔方陣」


「...はい。風刃(ウィンドカッター)


光魔法の応用で魔方陣の展開の演出をしてみせる。が、


「ちょっと、聞いてなかったの? ここはもっと尖った文字なのよ、もっと跳ねをしっかりやる!」


「...はい..」


厳しい。マナリア先生、いつから鬼教官になられたのですか...。


「ちょっと、そんな細かいとこまでは見えないんじゃない? 流石にさ」


見かねた死神狐が口を挟むが、マナリアは一蹴して、むしろ死神狐にも矛先が向いた。

優しい仮面の奥でふつふつと沸き続けていた怒りの矛先が。

狭い部屋が今やサウナ状態だ。キツネさん、その毛皮暑くないのかな。


「いい? 今回の解説者、賢者ロイドシュラホーン=アルフレイドって人はね、ホントに凄い魔法使いなのよ! 残存魔力を探知しただけで、どんな人がなんの魔法を何時使ったのか解っちゃうほどの人なのよ」


マナリア、随分詳しいな...。そんな有名な人なんだ、ロイドシュラホーン=アルフレイドって。


「そんな人が実際に見たらユイナのエセ魔方陣なんてすぐにバレちゃうけど、今回はマジックワールドがある。細かい魔力の判別が出来ないから、ユイナがちゃんと魔方陣を創ればバレないのよ」


マジックワールド越しに見るから、私の風刃の魔力反応と、見た目の魔方陣が大事なのだと語る。

マナリアいわく、私の魔法自体は術式魔法の魔力反応とほぼ同じらしい。だからあとは魔方陣をちゃんとしなければ、ということらしい。


「神速ってさ、無詠唱だよね。て言うか魔法を使うのに術式も魔方陣もいらないんでしょ? それなら魔力の放出って形にすれば結構な属性が使えるわけ?」


「まぁ、そうだね」


魔力を出してるだけってことにすれば魔方陣は要らないのか。そっか、その手もあった。困ったらそうしよ。


「それでも良いけど、普通の人ならすぐに魔力が尽きちゃうこと、忘れないでよ?」


「わかってる」


マナリアは取り敢えず落ち着いたようで、眼を瞑って瞑想を始めた。死神狐も鎌の手入れを始める。

部屋に冷風を流すと、ちょっと安心したように死神狐が息をついた。

...あ、そういえば人にも出来るのかな、魔力の譲渡。


「マナリア、ちょっといい?」


「...なによ」


あ、また不機嫌...。どうしよっか、やめとこうかな。

マナリアはそんな私の迷いが気にくわなかったらしい。こわ。


「はやく言いなさい、なに?」


「えと、マナリアに私の魔力をあげることはできるのかな」


「ちょっと何いってるかわからないわ」


意味不明どころかあきれた表情のマナリアの手を取ると、マルピチャに流すように魔力を流していく。


「えっ、ちょっと!? 何よこれ、説明しなさいよ!」


焦ったようにユイナの手を振り払うと、マナリアは勢いよく立ち上がった。信じられないといった様子で己の体に混ざったユイナの魔力を確認する。


「意外と出来るね。その渡した分がマナリアの魔法の底上げをしてくれるから。ちょっと試しになんか撃ってみて。迎撃はするからさ」


「なによそのチート!? 魔力が暴発とかしないわよね。とにかく、試しで撃つわよ...ちゃんと受けなさいよ?」


混乱しながらもマナリアは杖を構える。赤い魔方陣が展開され、杖先が私に向けられる。


「いいよマナリア」


「どうかなったら責任とりなさいよ! 炎弾(ファイヤボール)っ!」


聖魔力の壁を張ると、青い光の膜に向かってマナリアが魔法を撃ち込んだ。

赤を通り越して白熱線が放たれる。爆風と閃光を引き連れたそれはもはや弾ではなく光の貫通槍のようで...


「あー、ごめん?」


魔法こそユイナによって消されたが、爆発とその衝撃波が部屋の壁をぶち抜いていた。

カラカラと音をたてて崩れる壁、丸見えになった待機ルームにいたスタッフたちが固まってユイナたちを凝視していた。


死神狐はケタケタと笑いがとまらない。


「え、神速ってマジなに?」


この賠償はもちろん、ユイナが負うこととなるわけで。

特別製な上に歴史的建造物の破損。貯めに貯めたユイナの貯金が文字通りほぼ全て消えたのは余談である。


「...オリジナチーム、次試合なのでスタンバイおねしゃす...」


頭が真っ白になってしまったとある案内係は、このことを後の思い出として語る。

オリジナってワケわからない と。

今年はコロナで制限の多い一年でしたね。そんな今年もあと残り1日です。来年はもっと外出出来ますように!

現実はこれからも縛りが多いけど、小説の中は自由です! これからもユイナ一行をよろしくお願いします!


来年は良い年になりますように、読者の皆様の健康と幸せを祈ります。

また読みに来てくださいね! (*^¬^*)


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― 新着の感想 ―
[一言] 新年明けましておめでとうございます。 ことよろ~(酷い落差) …………ユイナが魔力譲渡して、マナリアが魔法でぶっ壊す。 これだけで大抵の試合には勝てそうな悪寒(背筋ゾクゾク)
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