70. 不穏な気配
お待たせしまして申し訳ありませんっ!m(__)m
何カ月ぶりかの本文更新です。
前の話をうろ覚えの方は読み返してくださいね。
時は少し戻り第1試合前。
緊張でどこか落ち着きのないシーアの気分転換に、リサはシーアを連れてコロシアム入口の屋台へと来ていた。ちなみにシーアに抱えられていたルーンも一緒だ。
「すっごい沢山のお店...!」
「ね! オリジナの比じゃないわね」
広いエントランスホールの壁側にはびっしりと屋台が並んでいる。人でごった返す中に手を繋いで入っていく。
「あ、見てみてシーア! アイス売ってる!」
「えっ、あ、うん」
リサにぐいぐいと引っ張られて、気が付くと両手は食べ物やらおもちゃやらで一杯になってしまっていた。ルーンは早々とリサの頭の上へと避難している。口には串団子。最初は人の群れに緊張していたルーンも随分と馴れたようだ。
歩き疲れたのかシーアを気遣ってなのか、2人は景色の見えるバルコニーにやって来た。エントランスから少し遠いため人もまばらだ。
ベンチに座ってアイスを頬張る。
オリジナでは貴重な砂糖だが、アインシュバルトでは少し高いが手の届く調味料なせいか屋台にもお菓子の店が多かった。
あまり食べたことのない甘味。ミルク風味の甘い棒アイスをなめる度、何とも言えない満足感がする。
秋にしては暑い気温にちょうどいい。
「つ! んきゅ~ぅ!」
ルーンは冷凍果実が気に入ったのか、小さな口に一口サイズにカットされた果肉を放り込んでは嬉しそうに咀嚼する。
ルーンを挟んだ隣では、貴族衣装のリサが頬袋を膨らませるくらいクレープにかじりついている。
ほのぼのとした空気にシーアの緊張も解けて、秋の高い空を鳥の群れが横切っていった。
「んー! 美味しかったわねっ」
「きゅー!」
「うんっ」
アイスに串焼きに唐揚げにシフォンケーキと沢山の味を堪能したシーアに、リサは心の中でホッとした。身分不相応なんじゃないかとビクビクしていた最初なんて嘘のように楽しそうにしている。どうフォローしていいのか分からなかったリサに出来たことは、美味しいもので笑顔になる事だけだったから。
(なんか思考がユイナみたいになってきてる気がする...)
兎にも角にもシーアは立ち直れたようだ。よかった。
最後の一口をペロリと平らげ満足げにしっぽをゆらすルーンの口回りをシーアが拭いてやっていると、側の庭木がカサカサと揺れた。
不思議に思って覗き込むと、枝に巻き付く1匹の蛇。
「あ! えっと、シェルさん...?」
紺色の蛇は首を縦に振って返す。そこにいたのは蛇の幻獣のシェルだった。
人がいないことを確認して人型になって出てくると、シェルは蒼白な顔をしていた。
「きゅー?」「どうしたの?」
つられてリサとルーンも加わる。
しばらく押し黙ること数秒、顔を上げたシェルは震える声で言った。
「....たんです...」
「え?」「きゅ?」「なにどうしたの?」
「ドラのやつが、捕まったんです...!」
「「ええっ!?」」「きゅ!?」
シーアたちは預り知らない所だが、第1試合の異常さもある。
なんだかこの大会、よくない雲行きのようだ。
◆
そのころの王都イスカンダリア。
今日も今日とて祈りを捧げにたくさんの人が訪れる聖教会メリエラ・ドクトール大聖堂。
なんと築1500年以上であるのに、縦長い地から延び上がるような四角錐形の白水色の外観はどこを見てもその古さを見受けられない。
広大な敷地には大聖堂を中心に多重円を描く魔除けのオベリスクが見渡す限り点在する。それらから可視化されるほど重なりあった結界が光を歪め、遠目に見ると大聖堂の周囲の空はうっすらと多色化しており、その神秘性から多くの観光客が訪れるほど美しい外装。
もちろん内部も壁の継ぎ目にまで装飾の施された徹底様。清楚な白を基調とした内装には、金細工の魔法道具の数々が埃1つなく輝いている。色とりどりの光球をぽっぽっと生み出しては形を変え、キラキラと光の帯を纏う。
長く広いホールの先には三つの扉。中央の最も豪華な大扉の先は大祭壇。円形の客席の最下層のステージにはきらびやかな小さな教会。1階は扉のみ、2階へ上がる階段がぐるっと一周続いて屋上が演説台のようになっている。
その小さな教会の扉に太った大神官のノックが響いた。
興奮して息を荒くする大神官は、返事も待ちきれない様子で扉を開いて入っていく。地下へと繋がる階段を降りれば祭司の部屋だ。
「祭司様、大神官の..ホランで..ございますっ! ..祭司様のおっしゃっていた通りっ..〈境界〉の魔王..は聖教会の情けを蹴りました!」
ゼイゼイと息を切らすホランが扉を全開に開いて部屋に入ると、銀と紫のベッドキャノピーの奥で人影が伸びをしているところだった。突如、クイーンサイズの巨大なベッドの奥からレースの枕が飛んでくる。幻惑的な赤紫の炎の灯りが揺れた。
「乙女の寝室にノック無しで来るなんて...何度言わせるのかしらホラン? 毎度毎度騒々しいわ、少しは痩せなさい」
「はぁっ、はあぃ祭司さまっ! 今日もお美しいぃ...!」
顔にクリーンヒットした枕を抱いて、ホランは祭司の残り香を獣のように吸い込んでは頬擦りする。付着していた一本の長い銀髪を見つけると頬を高揚させて恭しくポケットへと差し込んだ。
「それで、〈境界〉の魔王がどうしたと言うの?」
「んんっ...それが、聖教騎士団が接触してみたところ、こちらとの共闘を拒否どころか敵対すると宣言いたしました。...魔力測定の結果は不明、測定オーブが破損したようです。..祭司さまぁっ、このホランお香りを嗅げるだけで幸せでございますっっ!!」
「まぁ! 勇気のある魔王ね。理の鏡には随分かわいらしいコに見えたけど中身はバケモノよ、準備が済むまでくれぐれも下手な手出しはしないことね」
「はいぃ、仰せのままにっ!」
するりとカーテンを巻き付けて座った祭司は、カーテンで胴体がかろうじて隠れた裸体だった。怪しげな照明の中でみずみずしい肢体が、水流のような艶やかな髪がホランの心を一息に絡めとる。
「っはぁっ、ふッあっあぁ...! お美しいぃっ...どうか、私めをお側にぃっ...!」
理性が本能に負け、ホランの全身が発熱するほどの 美 に腰が抜け、床に崩れ落ちる。
そんなホランの汗ばんだ額を祭司の足先が小突く。
「ふふっ、だめよ? まだ貴方は私に相応しくないわ。もっと私のために働きなさい...その醜い脂肪が消えてから考えてあげるわ」
「はひいっ! ありがたき御言葉っっ! このホラン、あなた様のためにっ「下がりなさい」っう、うほおっっ!!」
祭司の瞳が妖しく輝くと、ホランは部屋の外の壁に打ち付けられていた。べちゃっと音がして汗まみれの大神官が床に落ちる。
「ふざけてないで地下牢のあいつを見に行きなさい。そろそろ開通するはずよ」
自分の汗で滑ってなかなか立ち上がれないホランだったが、祭司の言葉にうつ伏せのまま恍惚に嗤う。
「はいぃ。〈境界〉の魔王討伐開始まで、あと数刻ほどでごさいます...」
ホランは不気味な笑みを浮かべたまま、恭しく礼をすると階段を引き返していく。
大祭壇をあとにして、神域の地下室へと小走りで降りると、黒檀の扉に魔力を通す。厳重な結界を何層も抜けると、そこは広大な地下牢だった。高い天井まで魔鉄の杭が通り、時折どこからか鎖の硬い音がする不気味な燐光に照らされた空間。
奥の特大サイズの檻の中には体長20メートルはあるだろうか、緑の龍が拘束されていた。複雑極まりない魔方陣の上に磔にされ、極彩色の魔力の奔流が人工的に注がれている。
何十人もの聖教会修道士が長杖を掲げ、早口に術式を唱え上げている現場。
「どうだね、出来栄えは」
龍の吐息で大神官のローブが膨らむ。
元は美しい翡翠色だったであろう龍鱗は暴れまわったことでくすみ、調教の痕がくっきりと刻まれていた。関節を固定する杭からは、龍が呼吸する度に鮮血が滴る。その血潮が魔方陣を更に強化していく。
「魔力蓄積は両地点とも良好、目標日時までにイスカンダリアからアインシュバルトまでの空間接続網が開通可能です」
「おお、やっと...!」
現場指揮官の報告に満足げに口元を綻ばせると、うっとりと意識の無い龍の開いた口に手を当てる。そのまま太い牙を撫で、ホランは頬を緩ませる。
その頭の中に浮かぶのは、作戦を成功させ〈境界〉の魔王を討ち取った自身がご褒美に祭司を抱く妄想。夢の中の祭司は普段の余裕を無くして自分ただ一人に夢中になってすがり付く。
「ホラン様、次の術式構築が始まります。牢から退避願います」
「ああ、はいはい」
妄想をやめ、名残惜しげに龍の髭を撫でてから去る。
もう、ホランの頭にあるのは成功した後の事のみ。
覚醒させられ次の段階を強制される龍の慟哭は耳にも入らず、ホランは意気揚々と地下牢をあとにした。
ユイナ出ませんでしたけど、次回、オリジナチームの初戦になります!
今後とも引ケットをよろしくお願いします(^-^)/
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