66. アインシュバルト魔法大会
やっと大会始まります!
12/10 本文を一部修正しました。
2020/4/16 本文を追記しました。
アインシュバルト魔法大会本戦当日
外見は要塞のように物々しい軍の街アインシュバルトの街は朝から盛り上がり、どの大通りも他の街からわざわざ訪れた貴族の馬車や、出場者を人目見ようとチケットもないのに集まる冒険者たち、活気付く商人、旅人や街の人々でごったがえしていた。
競技場は、昨晩には自由席が埋まり、寝泊まりした人々。1度でも席を立ったら知らない人が座っていることなどざらで、小競り合いが絶えない。
高額な指定席に座るのは主に貴族や、逸材を引き抜きに来ている王都やアインシュバルトの軍人や騎手だ。お互いトップを争う大都市同士で、その挨拶は冷ややかなものである。
広範囲通信魔法による8時の鐘鐘が鳴り響き、音花火の魔法道具が景気よく打ち上がる。
開催、1時間前である。
取り敢えず競技場まで来てみたものの、どこへいけばいいかな?
「ムーンなにか見える? 別の入り口から入ってる人、とか」
「きゅうぅん....」
ごった返していてムーンにも見通せないか。うーん、どーすんだろ。
「きゅっ! きゅー!」
「ん? ルーンどうしたの?」
「きゅー!」
ムーンの頭に立つルーンが小さな指を向けた。背中に乗っているシーアの腕から抜け出したマルピチャが、ルーンの横に行く。
「にゃ! リサにゃ!」
「え、どの辺?」
「壁の側にゃ!」
場所は分かってもこの人混みじゃあ行く術がない...。
「跳んでも着地がねぇ....」
石畳も見えないし。
無理に行ったら行ったでリサに「人間離れした動きしないで....心臓痛いわよ....」とかなんとか小言言われそうだし。
うん、人の流れに合わせてゆっくり行くか。
そして50分後、
「遅いってユイナちゃん!人混みなんて 跳び越すなりムーンに乗るなりして来ないと!?」
「え....」
我慢して並んでやっと着いたのに...?
叱られながら急かされ、ムーンたちとのひとときの別れも惜しむ暇なく、開催5分前にして控え室に着いたのだった。
『さて、待ちに待った日がやって参りました! 本日10月2週目、9時をもって、ランヴァルシア魔法大会本戦の開催をここに宣言いたします!』
大歓声のもとに、宣言が競技場からランヴァルシア中に、全ての街で遠隔通信魔法による音声、つまりはラジオで高々と言い放たれた。
競技場の高台の半ば、バルコニーに設けられた解説席では、司会進行を受け持った兎人の少女が魔方陣が音を拾わないよう小さく ほっ と息をついた。薄桃色の長い耳から緊張が抜け、片耳がいつものように前に折れた。
(よしっ!掴みはオーケー、次は.... )
振り返ると、奥の入り口から2人のの男性が現れるところだった。会釈をする。
2人が少女の横に着席したのを確認して口を開く。
(明るくハキハキと....!)
『本日の解説席を紹介します! お一人目、ランヴァルシア魔導隊隊長、レイヴン=シーナー様! シーナー様は未開拓地帯担当指揮官もなさるランヴァルシアに無くてはならない方! 軍や市民の間で見た目が格好いい隊長ランキング2位と、姿だけならと密かに人気の高い方です! 』
『おい、それ若干俺を貶してるよな。てめぇ軍人だよな、どこのどいつだ』
『ひいぃっ!? 』
『まぁいい、魔導隊隊長をやってるレイヴンだ、よろしくたのむ』
40代半ばといった古傷の多い男性がほんの少し頭を下げて会釈した。
『たっ、助かったぁ....、ではも『おいコラなんつった!?』いえ! なんでもないですっ!!』
どっと笑いがおきる会場。顔を真っ赤に染めながら次へ
『お二人目は王都イスカンダリアから宮廷魔導師第2席、賢者と謳われるロイドシュラホーン=アルフレイド様! 適性属性5つを自在に操るまさに賢者! 魔法学校最高峰、聖教魔法大学学長でもある、知らない人はいないほどの御方です!』
銀の髭を垂らす老人がにこやかに観客に手を振り返す。
盛り上がる観客たちとは反対に、レイヴン=シーナーは不機嫌そうに顔を背けた。
『司会進行は私、アインシュバルト広報科所属、レメディが勤めさせていただきます!』
わっ! と一部男性冒険者たちから熱狂的な歓声が騰がる。
実はレメディ、年端もいかない子兎の少女のような外見とは裏腹に、28歳のイイ大人の女性である。
「軍の隊長殿とお会いできるとは、今日はよろしくお願いいたしますな。なにぶん、私は老体ですのでお手柔らかに....フォフォフォッ」
老賢者の差し出した手に顔を背け続けるが、その老体に不釣り合いな威圧感がどっと彼に襲ってきた。
(よぼよぼの癖に、どんな魔力量だよ...!!)
「チイッ! いけすかねぇジジイだな!」
滲み出た手汗をズボンに擦り付け、その手を握り返す。
その様子を見ていて魔力に当てられたレメディ。見事に硬直した。
アインシュバルトとイスカンダリア、共にトップの実力同士譲れないものがあるのである。
『でっ、では! 試合の説明をしていきます!』
『おぉ、とっととやれ』
『はいぃっ!』
なんとか立ち直ったレメディ、司会進行を続ける。
『本選に出場する代表は、それぞれの街ごとの予選1位から3位の3名! 本選では街ごと10チームのトーナメント戦を行います! 昨年の成績により、1回戦免除のシードはアインシュバルトと王都イスカンダリア!! 3対3の団体戦を2回勝てば3チームによる決勝戦です!』
競技場の大看板にトーナメント表の幕が降ろされる。
『まずは1回戦!第1試合はミデン対トスコロカリア! 10時開戦です!』
わああぁっ!!!
と歓声が上がり、小気味良く軍の音楽隊がラッパを鳴らす。
資金提供者名をたんたんと詠んでいくレメディの内心は荒れに荒れていた。
(これからが本番...!)
そう、これからが大変なのだ。何しろ何をするかもわからない選手たちの解説をしなくてはいけないからだ。本職の魔導師がいるとはいえ、ただの広報官には荷が重い。
ふはぁっと重い息を吐いて、脇に置いておいた果実水を煽った。
ガヤガヤと賑わう観戦席を眼下に、貴族用のバルコニーの一つ、ボロゼーノ一家の予約した専用バルコニーに座るシーアの心境は荒れていた。とにかくルーンを抱いてふかふかな椅子で硬直したように行儀良いシーアに、リサが慌てる。
「もっと気楽に座ってね!? ほら、せっかくクッションのある背もたれもあるし、ね?」
「えぇっと、でも、そのぉ、私みたいな平民には、ちょっと...。貴賓席にいるの、場違いだよ...」
横に座るリサたちと知り合いだったらしいボロゼーノたち領主一家も交ざって、シーアの周りは貴族だらけだ。
席の後ろに寝そべるムーンも、少し緊張したようにピンと耳を立てている。
「大丈夫だよ。チケット取ったら一般客も座れるから」
真っ青なシーアをリサとユイナの弟子ライオスがフォローして、なんとかシーアは今にも浮きそうな腰を降ろした。
挙動不審なシーアの気を紛らわそうとリサが競技場の説明をしていると、目に映ったのは屋台。オリジナの時と同じようにスタジアムへの入口の道に屋台が出回っているのだ。
「ね、じゃあシーアちゃん、私とちょっと買い物に行こう?」
「へ?」 「きゅ?」
この街ならオリジナでは滅多に見られないあれがあるはず!
リサはシーアと抱かれるルーンを連れて小走りに屋台へ向かっていった。
その頃の選手控え室。
各街ごとに充てられた個室、オリジナと書かれた部屋。
マナリアにユイナは怒られていた。
「まったく、なんで毎度毎度遅れてくるのよ」
「人がいっぱいで通れなくって...」
「開会の2時間前には競技場に入ってろって聞かなかったの? まぁ、ユイナの事だもん、アインシュバルト来る前にギルド寄らなかったんでしょ」
「あー、うん」
「たぶん、あのラビットの人怒ってるわよ」
なんで説明も受けずに勝手に行っちゃったの!? 探したんだからね?!
とかって言われそうだ と、ぺたんと猫耳が伏せる。
まったく! と憤慨するマナリアとしっぽが項垂れるユイナの会話を死神狐はニタニタと眺める。
「キツネさん笑いすぎ...」
「くはははっ! くはっ、悪いっ、ふははっ!」
「むぅ...」
かれこれ5分以上、やっとマナリアのお説教が終わった。
「じゃあ本題よ。今回のは3対3の団体戦。陣形をどうするかって話よ」
「そうだな。そっちの2人は知り合いっぽいけど、俺とはなんも無いし。正直連携とか協力ってのはムリ」
全くわからねぇもん と、死神狐。
「私とユイナだって、一緒にクエストやったりはするけど、基本的には個人よ。組むほどの敵はいなかったし、ユイナって何するかわからないもの」
「まぁそうだね」
否定はしない。試したいことがいっぱいだし。
「ま、とりあえずは配置だな。俺はどっちかって言うと近距離の方が得意」
「私は中距離ね。近すぎるのも遠すぎるのもやりにくいもの。ユイナは?」
「んと、多分中距離?」
ん? となる2人。
「どういうこと?」
「ってか、お前近距離だろ。オリジナの決勝のときお互い10何センチって間合いだっただろ」
「え、ユイナそんな接近戦してたの!? 近っか!」
「まぁまぁ、それ今はいいでしょ。で、近距離は出来ると
神速、遠距離は?」
「出来るわよ。よくめっちゃ遠い魔物撃ち抜いてるし」
あれを何10発もやるんだから、最初は驚いたけどもう慣れたわ とマナリアがため息をつく。
「そだね。近いのも遠いのも大丈夫ってことで中距離? ってことで」
「「そういうことか」」
なるほど と2人。
「じゃあ前に死神とユイナ、後ろ私ってことで、良いわね?」
「じゃあそれってことで」「おっけ」
なんか軽く決まったオリジナチームのミーティングだった。
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もう年末ですね、寒いです。けど、紅葉してますね。




