65. 本戦前夜
本戦前日の続きです。
次回、やっと大会の話にいきます!
夕日を眺めながら寝転がっていると車輪の転がる低い音が猫耳に伝わってきた。
「あ、師匠、馬車がこっちに来ます」
ライオスは眼が良いみたいだ、遠くなのに視認している。
起き上がって耳を立てると、聞き覚えのある声が四人分。なにやら馬がパニックになっているようで馬車が激しく横へ流れていく。
....あー、なるほど。あれか。
「師匠?!」
走り寄ると、あ、やっぱり吸血蜥蜴が馬の太腿に貼り付いていた。魔力弾で撃ち落とし馬に回復魔法を掛けると、馬たちは落ち着いて、御者のシンに止められた。
「助かったぜユイナ、サンキュ! つかよく見つけたなあんなちっこいの」
「お久、シーアも連れてきたんだ」
「そうそう、うちのリサ譲の思い付きでな」
「ちょっと、シンたちだって言ってたじゃない! ね、シーアちゃんっ」
「う、うん、連れてきてくれてありがとうお兄ちゃんたち」
「「どーってことねーよっ」」
領主一家よりは装飾控えめだが貴族っぽい馬車のステップは高い。飛び降りるように降りてよろめいたシーアを支えてあげる。
「ありがとユイナお姉ちゃん」
「いーえ」
ジンとリサ、御者台からシンが降りると、まずはこの4日間の近況報告。ドラとシェル、弟子になったライオスとそれぞれ自己紹介してもらったら、ライオスとシン&ジンは面識があったようだ。なんでも2度ばかり剣を教えてもらったのだとか。
目敏い〔花ノ木〕もいることだし、ドラとシェルの翼やしっぽのことは猫耳族と類似した種族の亜人だと説明しておいた。
そういえば、まだ私が〈境界〉の魔王だってこと、シーアとリアーナさんにしか言ってない。温厚な2人だから話したけど、〈魔界〉倒そう! って考えの人には明かさない方が良い。〈境界〉の存在を知った人からすれば私が邪魔な存在なのは目に見えてるし。
まぁ、リサたちが〈魔界〉をどう思ってるかは知らないけど。
黄金色と朱の美しい秋の夕暮れを眺めていると数羽の炎鳥が横切っていった。
なにやら騒がしい後ろを向くと、ムーンたちが狩ってきたらしい斑山羊がちょうど引き裂かれて首が坂を転がっていくのが見えた。
血抜きもせず解体したのか、ドラの上半身が返り血で血化粧されている。
その横でシェルが無造作に内臓を引っこ抜いていた。
二人でなにか言い合いながら試行錯誤して肉を引き裂いて、投げ捨てられた内臓が生首の角に引っ掛かり、血の水溜まりが広がる。
おいおい、臭いに吊られた双尾狼達が群がってきたじゃん。
撒き散らされた血の臭いに魔物が集まって、カオスである。
きれいな夕焼けが血の赤に見えてきた...。
「あの、やっぱり私手伝うから....」
「いやいや、俺らだけでユイナに日頃の感謝ってのをしてぇから、ダイジョーブ!」
「そ、そうなの? じゃあ、頑張って...」
惨殺現場のような解体の様子にシーアがヘルプを名乗り出るが、平気平気と断られてしまった。
引きちぎられた脚が血を滴らせながら調理台へと置かれる。
大根じゃないんだからもっと丁寧に扱おうよ...。
「し、師匠、いつもあんなんなんですか?」「ちょっとちょっと....」
ドン引きのライオスとリサ。
「いや、いつもは、こんな赤くないよ?」
こんなスプラッタではない。流れるようなシーアの手捌きとは比較にならないからな?
「「なぁなぁ! 俺らも手伝うぜ! な、いいだろ?」」
双子が加わってマシになった....訳でもなく、すでに解体(?)済みの肉塊に味付けを始める4人。
「なあ知ってるか? これ、食えるんだぜ」
「へぇー、んじゃ入れよーぜ!」
「「あ、味この組み合わせやってみねぇ?」」
「おっ、いーねー!」
「いや、味大丈夫ですかね?」
「「「だいじょぶっしょ」」」
えー、心配....。
調味料セットは渡しておいたけど、え、なに味噌にさらに植塩水加えてんの? なんでそれ煮詰めてんの? ってか焦げてるし!?
「焦げが旨いって聞いたことあるさ、これいんじゃね?」
「この真っ黒が美味しいのですか...!?」
「「いーじゃんいーじゃん、食べるときの楽しみってやつ?」」
おいおいおいおい、なに食べさせる気だ。
「なに、あれ....」
「きゅうん?」
もはや何を使ったのかよく分からない謎料理を運んできた4人。
「ほらほら、ユイナ食べていーぞ」
「「シーアちゃんもリサもほら、スプーン。っておいシン(ジン)被んな!」」
「あー、もし良ければ食べてくださいね」
控えめに別の皿でムーンたちの前にも置かれたそれ。
「きゅー?」「きゅうぅ....」
不思議がりながら匂いを嗅ぐと、2匹は遠慮するように返却した。
おい、マジでこれなによ。
「い、いただきます」
真っ黒なスープには鈍色な具がゴロゴロ詰まっていた。勿論食べたが味はノーコメント。多分、誰もが想像する味。
ドッキリの過ぎる闇鍋だった。
リサたちは街に宿を借りてあるらしい、衝撃的な夕食にシンとジンは虹色の滝を吐いて帰っていった。
寝そべるムーンに身体を預けて、真上には青く輝く星空。そよ風が同じくムーンに座るドラを震わせた。ライオスは長旅の疲れかもう寝付いた。
「シーア、寒いしこっち来な。シェルも」
「うん」
後片付けをしてくれていたシーアとシェルを呼び戻すと、気温が下がって、持たせていたランタンの光で息が白くなっている。
今日は特に空が澄んでいたから夜が寒い。
「大会は明日にゃ、早く寝るにゃ!」
とマルピチャに押され、片付けをシーアに頼んだわけだが、何もしないと落ち着かない。
シーアが回収してくれた魔力コンロをストレージに仕舞うと、隣にシーアを寝かせる。ムーンのお腹のベッドに、ふわもふなしっぽの掛け布団だ。これ以上ないほど快適、最高。
ランタンの魔力を霧散させ、灯りが消える。
「にゃむにゃ...うにゃ、も、いらにゃいにゃ....ユイにゃ、明日は..ユイにゃのが食べたいのにゃん....」
魘されで寝言がもれるマルピチャ。闇鍋の夢でも見てるのかな?
うん、明日の夜はやっぱり私が作ろ。
空の上は風が速いのか、月が雲に隠れる。
.....明日、か。
〈魔界〉から、魔人の侵入。明日、どこかで聖教会の騎士団との対戦。おそらく、どちらも〈境界〉の魔王の確認のため。
今日、あの聖教騎士団に言われて初めてちゃんと自覚したんじゃないかな。
私は、このまま曖昧な立場でいいのかな?
冒険者の、〈人間界〉のユイナとして。
一端の魔王種、〈境界〉の魔王として。
どっちにもなれないんじゃ、〈境界〉にも迷惑になる。
〈人間界〉のユイナのままじゃ、〈境界〉が人間についたと〈魔界〉からは認識されるだろう。
たぶん事が起きるのは、明日。...明日が、決断の時だ。
答えは、もう決まっている。それしかない。でも成りきれないから、親しい仲間にも私が〈境界〉の魔王だって言えてないんじゃないか?
私は、この半年でだいぶ変われたと思ったけど、根本的なところはなにも変われてない。
怖いのか、やっぱり。人と関わるのが。
私がどう思われているのか、どんな感情を抱かれているのか、なにを望まれているのか、解らないから。
こんなに心はぐちゃぐちゃなのに、明日、決まる。
勘が、そう言ってる。なんか、猫神が嗤ってる気がする。
決めなきゃ、明日、人か、魔王なのかを。いや、決めるんじゃないか、表すんだ。
もう、答えはあるのだから。
明日、私は〈人間界〉と〈魔界〉に、対立する。
「っ....」
巻き込みたくないなぁ、シーアやライオス、マナリアやリサたち、私の関わった人たち全て。
怖いな、明日が。
ムーンの毛の束に顔を潜り込ませると、隣のシーアがもそりと寝返りした。
起こしちゃったかな。
もそもそとシーアの腕が伸びてきて、私の手をとる。鳶色の瞳が、淡い星の光のなか私を見つめていた。
「ごめん、起こしちゃった」
「うんん、大丈夫。お姉ちゃん眠れないの?」
「まぁ、でももう眠いし寝るよ。ほらシーアも寝な」
「うん」
おやすみと言いかけて、シーアのもう片腕も私の手を握っているのに気づく。
「シーア?」
一度閉じた瞼を開くと、シーアはちょっと怒っていた。
「嘘、だよね。さっきからなんかずーっと考えてる」
「へっ?」
「お姉ちゃん、顔はあんまり変わらないけど考えてること、耳とかしっぽですぐ分かっちゃうんだから」
ピクピクしたりヘタッって折れてたりしてるよとシーア。
え、そうなの? あれかな、嬉しいときの犬みたいな?
「緊張してるのか怯えてるのかのかは分からないけど、大丈夫だよ」
「.....なんで?」
なんで言い切れるの?
シーアはちょっときょとんとして、当たり前のように答えた。
「だってユイナお姉ちゃんだもん」
私?
「いつも信じられないことばっかりするお姉ちゃんだもん、心配なんてしてもしょうがないもん」
「そうかな?」
「うん。だから毎回イラミシアさんビックリしてるんだよ」
この前のやつなんかさ、とイラさんの反応を真似して見せるシーアに、ちょっと心が軽くなった。
雲に隠れていた月が顔を出して、月光にムーンの毛先が白く縁取られる。新雪のように光を反射するしっぽをもう一度掛けなおす。
「ね、私明日ちゃんとやれるかな?」
なにを? とはシーアは聞かなかった。けど、
「だいじょーぶ!」
と、はにかんだ。
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